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2004.4.16



他山の石とは言い難い欧州憲法…

 駐日欧州委員会代表部のベルンハルド・ツェプター大使が、2004年3月4日、衆議院憲法調査会(安全保障及び 国際協力等に関する調査小委員会)で欧州憲法草案に関する意見陳述を行なった。
 「世界の他の地域におけるモデルとすることは、まず単に不可能であり、お勧めできることではない」が、「特に統合の手法、斬新的な発展、手続きに関しては」教訓が見出せると締めくくった。(1)

 本当だろうか。

 確かに、憲法を大物政治家とEUの官僚達の作文で作らせるべきでない、との批判をかわすべく、「convention」なる外部に開かれた組織で草案を策定した。
 民主的プロセスで進めたと言うが、実態は、議長役のフランスの大統領の指導で組織が動いたように映る。
 批判をかわすための、組織作りという点では、役に立つかもしれない。

 しかし、草案の内実はたいした代物のようだ。

 Martin Wolf氏の評論によれば、「The draft EU constitution is far from a clear statement of the freedoms of individuals and the division of powers between levels of government that a good constitution would provide.」だという。(Finantial Times 2004年4月6日(2))

 EUの法律と規制に関する文書は9万7,000頁に達するそうだ。これに、各国独自の法律と規制が加わるのである。非効率の最たるものだ。

 草案を見ると、専管事項(排他的共同体権限)は思ったより少ない。(3)
  ・ 通貨政策
  ・ 通商政策(国際通商協定/関税同盟)
  ・ 漁業政策(海洋生物資源保護)

 このため、一見、EUによる規制が少なく見える。しかし、問題は、各国政府とEUの共管事項の方だ。対象は、ほぼ全領域に渡っている。
  ・ 市場
  ・ 自由/安全
  ・ 裁判
  ・ 農業/漁業
  ・ 運輸
  ・ ネットワーク
  ・ エネルギー
  ・ 社会/地域
  ・ 環境保護
  ・ 消費者保護
  ・ 公衆衛生

 当然ながら、各国独自の要求がEUにつき付けられる。そして、得体の知れない規制が成立することになる。
 様々な規制や課税が登場することになるのである。
 そのための、仕組みが持ち込まれている。「QMV(条件付多数決)」である。
 QMVを用いれば、各国は自国の利益追及を図ることができる訳だ。

 言うまでもないが、規制による独占的利益を維持したい勢力を温存させる政策である。他国の活動をEUの規制によって弱めることで、自国の問題の顕在化を回避するのだ。

 「飴」を提供することで、草案承認を図っているのである。本末転倒と言えよう。

 もっとも、ツェプター大使に期待していた点は、EU憲法と加盟国憲法の関係と、EU軍の問題といった安全保障問題の議論だったようだから、このような点はどうでもよいかもしれないが。
 → (2004年4月17日)
 --- 参照 ---
(1) http://jpn.cec.eu.int/japanese/press-info/4-2-137.htm
(2) 「No way to create a dynamic Europe」[有料] http://news.ft.com/comment/columnists/martinwolf
(3) http://european-convention.eu.int/docs/Treaty/cv00850.en03.pdf

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