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2004.8.12



美浜3号機事故の本質…

 2004年8月9日、美浜3号機で事故が発生した。報道によれば、「復水器から原子炉格納容器内の蒸気発生器につながる主配管に穴が開い」たそうである。「運転開始以来、一度も超音波などの詳細な検査をしていなかった」という。経年変化は気にする必要なし、とされていた訳だ。(1)

 事故原因は配管の減肉とされている。
 要するに、長期間使われ材料強度が不足し、事故が発生した訳である。肉厚減少だろうが、微細亀裂発生だろうが、材料が磨耗したり疲労すればいつか発生する類の事故である。
 当然だが、原発だろうが、火力発電所だろうが、この問題は免れることはできない。

 しかし、原発独自の問題がある。今回の事故ではっきりわかるように、電力会社は本気になって対策を講じてこなかったからだ。
 ところが、この点に関するマスコミ報道には違和感を感じる。

 典型的な見方は、「事故を起こした美浜3号機の発電に使うタービン系統のシステムは、沸騰水型軽水炉や火力発電所でもほぼ同じだ。調査の必要はないのだろうか。」というもの。(2)

 この問題は単純だと思う。

 経済産業省の原発老朽化問題に対する技術判断が甘いだけの話である。
 「老朽化」を話題にされたくないからかもしれない。
 と言うのは、マスコミもこの用語を避けているように見えるからだ。
 原発反対運動の活発化を恐れているのかもしれないが、これではいつまでも問題は解決できまい。

 事故翌日に流されたロシアのテレビニュースでは、8月9日という特別な日に2箇所の原発で事故があったことを伝え、日本の原発の老朽化が進んでいると報道していた。チェルノブイリの惨禍を受けた国だから、「老朽化」は深刻かつ身近な問題である。当然の反応だと思う。

 日本の報道は、こうした自然な感覚を抑制しているように感じた。

 そもそも、素人でも、わかることがある。
 機械設備だから、どう考えても、当初の設計寿命はせいぜい40年といったところだろう。とはいえ、技術は進歩するから、10〜20年程度の寿命延長は自然だと思う。しかし、この状態で、運転開始後30年たてば、様々な箇所で老朽化が深刻化するのは間違いあるまい。
 ところが、抜本的な老朽化対策が表立って議論されていないように映る。

 老朽化問題の発生は、専門家なら、とうの昔からわかっていた筈だ。

 運転開始時点の検査項目を踏襲しながら、部分的に補強するような定期点検では、老朽化には上手く対応できる筈がないからだ。老朽化の問題点を議論したいなら、経年変化状況を知るための方法を組み込む必要があるが、これは現在行われている点検の思想とは違うのである。

 原発は火力とは違い、純商用発電の歴史は浅い。老朽化の実情はよくわかっていない。従って、本来なら1990年代初頭から、新しい思想で、検査システムを作るべきだった。政府はこれを怠ったのである。
 しかも、今になっても、そのような方向に進む兆しはない。
 これでは、いつまでたっても、電力会社やメーカーは老朽化対策に注力できまい。
沸騰水型原子炉第一世代
運転開始年
1970年 敦賀1号機
1971年 福島第一1号機
1974年 福島第一2号機
1976年 福島第一3号機
浜岡1号機
1978年 福島第一4/5号機
浜岡2号機

 すでに、沸騰水型では第一世代で応力腐食割れ事故が発生している。
 おそらく、第一世代の炉では、今後もこのような問題は次々と発生する。老朽化プロセスがよくわかっていないのだから、避けられまい。
  (事故をおこした美浜原発は、国内初の商業炉、敦賀原発1号機とほぼ同時期に大阪万博に送電したという。3号機の運転開始は1976年12月だ。沸騰水型だが、加圧水型の第一世代と同世代である。)

 重要なのは、この経験を生かして、老朽化を上手く乗りきる方法を考え出すことだろう。
 第一世代の炉は、老朽化対策検討のための題材でもある。

 ところが、現在の仕組みはそうはなっていない。事故は発生しない、とのドグマを捨てることができないのかもしれない。
 わかっていないことが多いのであるから、事故は防げない。本来なら、予防や、被害を少なくする技術の開発を促進させるべきなのだが、そうならないのだ。

 JCO 事故でわかったように、原子力発電に関しての政府の方針はもともと場当たり的である。
 ここに、問題の発生源がある。
  → 「JCO 事故の本質」 (2000年3月18日)
 シュラウドの応力腐食ひび割れ問題も同じことがいえる。
  → 「東電隠蔽事件」 (2002年9月)

 未だに、この体質が続いているなら、大問題である。

 この状況を変えるためには、専門家が、考えていることを正直に発言すべきである。黙っていれば、こうした状況を是認しているととらえられてしまう。それでよいのか。
 この業界のエンジニア達は、原子力発電などどうなってもよいと考えているのだろうか。

 --- 参照 ---
(1) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040810-00000000-san-soci
(2) http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20040811k0000m040171000c.html

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