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2004.11.5
 
 


Volckerの時代には戻れない…

 米国大統領選挙が終わった。
 専門家の予想通り現職が勝利した。保守の力が強くなっているなかで、民主党は善戦したといえそうだ。

 選挙は大いに盛り上がったようだが、経済政策上の差ははっきりしなかった。というより、米国民の大半は、現状の経済運営に十分満足しているということの反映といえよう。

 別に醒めた目で眺めている訳ではない。

 Financial Timesに、先月掲載された、週末お楽しみインタビュー“The Gospel According to Paul”(1)をふと思いだしたからである。

 このシリーズは面白い。以前、「サンフランシスコのNorth Beach Restaurantで$45」をとりあげたことがあった。
  → 「信念の経済学」 (2003年6月25日)

 今回は、マンハッタンの高級ホテル、St Regis で、「$36 x1」である。
 この「x1」のお蔭で、忘れられないのである。

 ランチのお相手は、連銀議長だったPaul Volcker 氏だ。
 氏は、黒皮のメニューブック掲載のアフタヌーン・ティーの値段を見て、いたく驚く。
 “Fifty-two dollars for tea! Per person?”

 “Oh my gosh, is there nothing cheaper?”ということで、結局、36ドルのbasic 版をGillian Tett 氏とシェアすることになった。

 年金生活者ならわかるが、世界に冠たる金融の番人だった人の言葉である。
 凡人にできることではない。

 ウオール街が拝金主義に傾くなかで、業界の声に抗して、高金利を続け、インフレを撲滅した、Volcker 氏らしい態度といえよう。

 頭で考えただけの政策では「人」を動かすことは難しい。いくら正論であると力説したところで、どうせ自分が得するための屁理屈を述べていると見られるからだ。

 そのような清廉で志が高い人の目から見ると、米国の状況は相当悪化しているように映ると思う。
 Volcker氏の時代は、経営幹部の公的責務など当たり前だったが、今やそのような感覚は薄れている。
 人々は、大きく変わったのである。

 従って、会計事務所の違法行為防止施策、独立した監査人の導入、ストック・オプションの廃止、は不可欠な一歩だ、という。

 慎重な発言に徹しているが、要するに、米国の経営幹部に腐敗が蔓延している、と指摘しているのと同じことである。

 そして、腐敗は米国に終わらない。

 Volcker 氏が今注力しているのは、国連のイラクの食糧・石油交換プログラムに関する汚職問題である。
 イラク戦争勃発の裏には、こうした利権の構造があり、戦争の是非を語る人達がこの構造に巻き込まれている限り、解決などありえないだろう。
 これが現実なのである。

 Volcker 氏は、“there is a 75 per cent chance of a financial crisis hitting the US in the next five years, if it does not change its policies.”と、刺激的な発言をしたことで知られるが、その真意は、こうした社会の状況を踏まえたものだろう。

 かつてのインフレとの戦いは、このままではいけない、との皆の危機意識が裏にあったが、今はそのような意識が全く無いことを、問題視している訳だ。

 皆がお金儲けに走り、何が今問題なのかなど、どうでもよくなっているのである。

 “my grandson, who is good at maths, wants to be a financial engineer,”と、笑いながら語ったそうだ。

 --- 参照 ---
(1) 「Tea with the FT: Paul Volcker」FT.com 2004年10月22日(有料)


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