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2006.4.20
 
 


素人が読む米国の戦略…

 2006年4月8日、The New Yorkerに、SEYMOUR HERSH記者の長文の記事「Would President Bush go to war to stop Tehran from getting the bomb?」(1)が掲載され、そのニュースが世界をかけ巡ったようである。

 ブッシュ政権がイランの核施設への空爆計画策定を始めたという話だ。
 B61-11のような地中貫通型戦術核兵器の使用もありえるというから、ついに来たか、と世界中が騒がしくなった。
 国防総省高官が“This White House believes that the only way to solve the problem is to change the power structure in Iran, and that means war,”と話したとされているから、とても憶測記事とは思えなかったのである。

 引き続いて、Washington Postも大々的に同じようなニュースを報じた。軍事専門家の爆撃目標の話が登場し、計画が具体的に進行している印象がさらに深まった。

 そんな状況で、4月11日に、ブッシュ大統領がJohns Hopkins大で講演を行った。(2)
 そして、学生に対して、イランの核問題の質問に答えた。

 “The doctrine of prevention is to work together to prevent the Iranians from having a nuclear weapon. I know -- I know here in Washington prevention means force. It doesn't mean force, necessarily. In this case, it means diplomacy. And by the way, I read the articles in the newspapers this weekend. It was just wild speculation, by the way. What you're reading is wild speculation, which is -- it's kind of a -- happens quite frequently here in the nation's capital. ”

 記事は酷い憶測にすぎぬ、と語ったことは語ったのだが。

 講演録を読むと、“if it seems okay, leave it alone.”ではないと語っている。
 どうも、政権担当期間中に決着をつけるつもりのようだ。交渉が行き詰れば、即刻、実力行使に移るだけと意志表明したと言えなくもない。

 そして、イランのウラン濃縮発表を受け、ライス国務長官は、4月12日に、国連で“strong steps”を主張。しかも、“will be time for action”と語った。即刻、安保理制裁決議に進め、という訳だ。
 一方、モスクワでも、もしイランの生産能力増強計画が実現されれば、16日間で核兵器製造ができるとの米国担当官のコメントが流れた。(4)

 こうした展開を見ていると、ブッシュ政権は、イラク開戦時を教訓に、シナリオを整えて、メディア戦略を繰り広げているように見える。一方のイラン政権も、それを知りながら、その流れに乗るつもりのようだ。

 お蔭で、市場は素直に反応している。
 CRUDE OIL FUTR は$70に近づいてきた。(4)
 $300程度でも成り立つ筈の金産業も活況を呈している。なにせ、先物価格はその倍なのだから。

 市場を刺激し、先物取引で儲ける独裁者の国でもないのに、こうなることが予想されながら、中東混乱化の道を歩もうとするのは何故だろう。

 下手をすれば好調な経済を潰しかねないというのに、さっぱり合点がいかない。

 ・・・従来型発想で理解できない時は、パラダイムが変わったということを意味しているのかもしれない。
 今までの見方を変える必要もありそうだ。

 従来型発想なら、廉価で安定的な原油供給体制を維持するためには、中東の政治的安定が必要となる。
 冷戦の時は、ソ連進出阻止が第一義的な課題だったが、これが不要なら、どんな政治体制だろうが、安定していればOKということになる。
 クリントン政権までは、そうした考え方が濃厚だったように思う。特に、イスラエル・パレスチナ紛争が大事にならないように、気を配っていたようだ。要するに、専制政治でも、地域の覇権国を目指さず、安定して原油を供給してくれれば、それで結構という訳だ。

 ところが、ブッシュ政権はこの流れを一気に変えた。9.11がきっかけだが、これが歴史的な転換点を意味するようだ。

 ちょっと振り返ってみよう。

 ブッシュ政権の特徴は、民主主義を世界に広げるイデオロギー色濃厚な政策にある。しかし、アラブで普通選挙を行なえば、反米姿勢濃厚な民族・宗教勢力が躍進する。こうなるのは、仏植民地だったアルジェリアの歴史を見れば、誰でも想像がつく。それでもこの方向に進ませたのである。
 頑迷なイデオロギーで動いているようにも見えるが、米国で、そんな単純な政治が行われるとは思えない。

 イラク開戦にしてもそうだが、下手をすれば、中東は大混乱に陥りかねない。それに、戦後処理の準備も整えずに突き進んだ。
 現実の利権を重視する古い欧州が反対するのは当然だが、反対も省みなかった。

 しかも、米国は、伝統的なイスラエル友好国。
 米国が、こんな動きを続ければ、地域は、反米アラブ一色に塗り変えられてしまうのは間違いない。そうなると、イスラエルの国家存亡の危機である。どう見ても、米国は、イスラエルのことなど眼中に無い。

 どう見ても、米国は、原油生産地帯の政情不安定化を狙っているとしか思えない。今までの常識では考えられない動きだ。

 こんな時は、素人の珍説提起も、結構意味があるかも知れない。

 素人なら、中東問題とは石油を巡る資源争奪戦に違いないと考える。この戦いは、この先激化する訳だ。

 そんな流れのなかで、今の枠組みが続くとしたら、米国は原油市場を牛耳ることはでなくなっていくのは間違いあるまい。換言すれば、米国優位は揺らぎかねない訳だ。そんな状況を避けることが、米国にとっては第一義的な課題ではないのか。
 そうだとしたら、米国の対応する道はどのようなものがあり得るだろうか。

 例えば、中東で、イスラム原理主義勢力、偏狭な部族主義者、軍事独裁者が勃興し、中東が混乱をきたしたとする。米国にとっては大きなマイナスではある。しかし、同時に欧州や中国も大きな影響を受ける。おそらくロシア国内にも紛争が飛び火するだろう。そして、中東以外の発展途上国もおしなべて政情不安に陥る可能性が高い。
 反米政権の南米諸国も、経済が低迷するから不安定化すると思う。

 そうなると、米国の地位は揺らぐどころか、逆ではないのか。
 世界経済破綻を避けるには、混乱収束しかないが、米国を中心とした体制での立て直し以外には道があり得そうにないからだ。米国の覇権は弱体化どころか、強化されるだろう。

 つまり、資源保有国の政権に、原油安定生産を担保する力が無くなれば、自動的に米国覇権体制は強化されるということである。
 中東の混乱は米国にとって大きなマイナスに見えるが、その実、長期的に見れば米国にとっては覇権国としての地位を強化することになる。したたかな国なら、考えそうな話だと思うが。

 世界的に政情不安となり、原油供給が細れば、どの国が覇権を握るかは、もともと自明なのである。
 エネルギー開発技術を握り、世界を取り仕切れる軍事力を持つ国が世界を支配するだけのことだ。

 言うまでもなく、そんな国は米国以外に考えられまい。    →続く>>>

 --- 参照 ---
(1) http://www.newyorker.com/fact/content/articles/060417fa_fact
(2) http://www.whitehouse.gov/news/releases/2006/04/20060410-1.html
(3) http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=10000087&sid=aGzWiwsuvYLc&refer=top_world_news
(4) http://www.bloomberg.com/markets/commodities/cfutures.html


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