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2006.8.9
 
 


レバノン捨石作戦が進む…

 欧州は、イスラエルのレバノン爆撃を止めるように働きかけていると伝えられるが、その影響力はほとんどゼロと言ってよいだろう。

 当然である。

 イスラエルのOlmert 首相の一言がすべてを物語っている。(1)

  “European countries attacked Kosovo and killed ten thousand civilians.
   Ten thousand!
   And none of these countries had to suffer before that from a single rocket.”

 確かに、コソボはひどかった。

 セルビアにとっては、コソボとはセルビア正教の聖地であり、分離させる訳にはいかない。ところが、独立運動がゲリラ化して実効支配を狙っている。これでは、戦闘停止など無理に決まっている。

 ところが、ユーゴスラビアのミロシェビッチ政権が停戦合意を拒絶したため、NATO は、セルビアに対して、「人道的介入」と称して、大規模爆撃を敢行したのである。(2)
 軍事施設だけでは効果がでないため、結局のところインフラ破壊へと進む。そして、数多くのセルビア市民が犠牲になった訳だ。

 言うまでもないが、この間、国連の存在価値はゼロ。なにせ、ユーゴスラビア制裁さえまとまらなかった。
 NATO 空爆は、コソボにおける大量虐殺に繋がることも自明だったが、国連はなにもできなかった。
 国連が力を発揮できたのは、この結果生まれた80万人もの大量難民に対する支援だけである。

 早い話、欧州は、コソボでの残虐行為激化とセルビアでの無辜の市民の犠牲の道を選択したのである。これが、「人道的介入」の現実である。

 そして、この介入で実現できたのは、一応の停戦だけ。問題が解決した訳ではない。
 今度は、コソボでの少数民族、セルビア系住民が迫害され難民化しているのである。

 ひどい結果だが、だからといって、セルビアによる武力制圧を黙認し、放置した方がよかったのだろうか。

 あるいは、ボスニアのイスラム勢力にでも、介入を依頼すべきだったのか。
 そんなことをすれば、セルビア・モンテネグロ国内の紛争ではなく、旧連邦から独立したスロベニア、マケドニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、で再び戦乱が始まりかねない。そうなれば、すぐに、隣国のアルバニア(コソボへの武器供給ルート)、ギリシャ、ブルガリアが巻き込まれ、トルコまで影響を受ける。バルカン半島全域での大戦争勃発になりかねないのである。
 これだけは、絶対に阻止せねば、ということだと思う。

 要するに、バルカン大戦争防止のためには、空爆で大量犠牲者がでようと、大虐殺が発生しようと、致し方なしということだろう。

 イスラエルの戦争に対しても、欧州はコソボの際と似た姿勢で臨んでいるに違いない。この戦争が中東大戦争の引き金になって欲しくないということである。
 特に、米国国内の動きをみると、その危惧を抱かざるを得まい。
  → 「止めようがないイスラエルの戦争 」 (2006年8月6日)

 ただ、コソボとは違う点がある。
 中東大戦争を防止するためには、急いだ停戦は不可欠とまでは言えないのである。イスラエルのレバノン空爆を黙って眺める手もありうる。
 と言うのは、イランを除けば、アラブ諸国はこの火の粉による飛び火を一番嫌っているからだ。しかも、ヒズボラへの武器供給通路を抱えるシリアの現政権も、イスラエルに侵攻されたら崩壊しかねないから、直接関与を避ける筈である。
 要するに、イスラエルがシリアを巻き込もうとしない限り、戦乱はレバノンだけで済むことになる。
 余計なことをして、戦火が拡大するより、限定地域での戦闘が続いてくれる方が、地域全体の安全にはプラスになると考えてもおかしくない。

 欧州は、表面的には、停戦を懸命に働きかけてはいるが、その本質はレバノン捨石作戦に近いのではないか。

 --- 参照 ---
(1) “Olmert tells Europe to stop preaching to Israel” [2006.8.7]
  http://go.reuters.com/newsArticle.jhtml?type=topNews&storyID=13094065&src=rss/topNews
(2) http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/yugoslavia/cosv/kubaku.html


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