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2006.12.4 |
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米国は政策大転換を図るつもりか外交の分野では、米国中間選挙結果の影響は僅かとの解説が多いが、現実を見る限り、全く逆ではないか。2006年11月後半、早速、政策大転換を暗示させるイラクのニュースが流れた。 ・1980年から国交断絶が続いていたシリアと国交回復 ・Jalal TALABANI大統領が、戦争相手国だったイラン政府のトップMahmud AHMADI-NEJADと会談 米国は、イラク政情安定のためには、敵視するイランやシリアとの交流を後押しせざるを得なくなったということだろう。勝手にやれ、ということ。 米国の兵力では治安を保てないことが判明してしまったのだから、民兵組織を持たない少数派のNuri al-MALIKI 首相が統率力が発揮できる訳がない。そんなことは、政府設立時点でわかっていた筈である。どの勢力も、勝手に動ける保証があるから、とりあえず“イラク政府”に加わっただけ。従って、政府がいつ崩壊しても驚きではない。 と言って、新たな挙国一致内閣ができる望みも皆無。中間選挙敗北で、Bush 政権はイラク介入続行ができないとわかってしまったから、どの勢力も、統一イラクをつくる気が失せたのは間違いあるまい。ここまで来れば、米国には手の打ちようがなかろう。 お手あげ状態なのだから、イラクからの米軍撤退以外に道は残されていないのは自明である。 APEC(1)首脳会議での米国の姿勢も、似たようなもの。米国は、なんらリーダーシップを発揮しなかった。 その結果、新しい枠組み構想は打ち出せなかった。結局のところ、WTO早期開催と、北朝鮮の核問題を地域問題と見なした点での意見一致ができただけ。ここだけ見れば、恐ろしく内容の薄い会議ということになろう。 お蔭で、報道内容といえば、アオザイ着用の記念写真と、グローバル市場へのベトナムの本格的関与話位のもの。投資額は20億米ドルにのぼったらしいから、決して小さな話ではないが、数多くの記者が集まったわりには拍子抜けだ。 だが、よく考えると、これこそ、米国の方針転換の反映と思えてくる。 中東にせよ、東アジアにせよ、米国が、今後地域の責任をとらないことを示唆したとも言えそうだ。 中東に対しては、米国敵視を止めるつもりが無いなら、米国無しで、地域独自の安全保障の枠組みをつくれと迫っていることになる。 つまり、原油供給がオープンで、市場が開放されており、資金が米国に還流してくるなら、どの様な政治を進めようがかまわないという姿勢に転換したのである。 換言すれば、米国は、原油の安定供給の任を放棄する訳だ。 [米国は、カストロ首相退陣後、すぐにキューバ禁輸解除に動くのではなかろうか。 イスラエル政策も変わらざるを得まい。 Bush 大統領のヨルダン訪問も, イラク問題が主題とされているが, 米国国内向けのポーズかもしれない. 米国が手を引いた後の, パレスチナ問題の議論が主目的の可能性もある. 米国が中東から手を引き、地域内で安定化を図る方向にしたいのではないか. 周辺の国々も含め、イスラエル・パレスチナの相互承認実現に動くかも知れぬ.・・・というのが、素人の見方だが.] 東アジアにしても、同じこと。米本土の安全が脅かされず、市場開放が担保されるなら、どうなろうとかまわないのだ。 APECの“WTO早期開催”とは、早い話、米国の国内事情からWTO交渉が遅々として進まない、APEC独自で、域内自由市場を作り始めてかまわないとの暗黙の合意ができたということ。米国は、市場のグローバル化総責任者としての役割も放棄した可能性が高い。 ただ、“勝手にせい”の例外はある。米本土に脅威を与える兆候が見えた時。言うまでもないが、現状で、イランや北朝鮮はまだその段階にはない。しかし、もし、その兆候を見つけたら、一気に武力行使に進むということだろう。核兵器使用も辞せず型の壊滅的攻撃もありえそうだ。 ・・・民主党が議会を制覇した以上、Bush 政権の政策調整は不可避だが、予想レベルを大きく超えた大転換が図られている感じがする。 一方、民主党が、今後、どのような方針を打ち出してくるかも、気になるところである。 自由貿易とグローバリゼーションに反対する野党として活動してきたから、自由貿易体制が壊れる可能性は濃厚だ。 → 「radicalistに変身するFRIEDMAN 」 (2006年10月26日) そんな危惧の念を抱く人が増えているから、民主党は、現実的な政策を示す必要に迫られていると言ってよいだろう。Hamilton Project は、そのなかの有力な一案ということになろう。(2) Hamilton Project とは、Bush 政権の経済政策転換を求めて、Rubin 元財務長官が率いているチームが検討した内容を指す。発表されたのは、2006年4月のことだった。 どう見ても、目新しい内容とは言えないものだったが、民主党がどのような方向に進むか予想できるから、注目を浴びるのは当然かもしれない。 その特徴を一言で言うなら、“The project has called for greater public investment in education, health care, research and development, and infrastructure; balancing the budget; and wage insurance for workers compelled to take lower-paying jobs in our Wal-Mart-ized economy.”(3)となる。 要するに、教育へ投資して労働力の質を上げようということ。そして、人を活用できるように科学技術分野に大型投資を敢行する。 技術で経済成長を図ろうという方針だ。 そのような社会にするためには、財政バランスをとる必要があるとされるから、赤字垂れ流し阻止は必須。貯蓄率が低い状況から脱することも不可欠になる。 従って、失業保険改革を急ぐ政策となる。これは、格差の是正という民主党の主張との整合性もよい。 米国は、この道を進むことになるのかも知れぬ。 この見方の裏には、“アジア”脅威論が隠れているような気がする。 アジアに雇用を奪われ、低賃金化の道を歩まされていると感じる中産階級の反感に応えるという政治的な動きと言えなくもない。 そのため、グローバリゼーションによる雇用流出を抑制するための教育大改革にすぎないとの醒めた見方もでている。(4) しかし、米国が、科学技術分野で世界を牽引する力を失いつつあることに危機感を持ったということが影響を与えている感じがする。 今でも、ほとんどの分野で、リーダーの地位にあるし、重要分野への国家の投資額は群を抜いてはいるが、この先も力を維持できる保証はない。 それどころか、米国内で科学技術を学ぶ魅力が薄れてきたし、アジアが膨大な数の工学系高度人材を輩出しているから、地位逆転分野が続出するのは時間の問題と見ることもできよう。 ハイテク産業基盤が揺らぐことはないか、心配するのは当然のことだろう。 もっとも、それより、アジアからの脅威を感じている層に応える政策群(5)がパッケージ化される可能性が高いのかもしれないが。 --- 参照 --- (1) http://www.apec.org/ (2) Sebastian Mallaby: “Return to Rubinomics?” Washingtonpost [2006.11.13] http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/11/12/AR2006111200942.html (3) Harold Meyerson: “The Democrats' Economy Wars ” Washingtonpost [2006.11.22] http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/11/21/AR2006112101220.html (4) Harold Meyerson: “Hamiltonian Democrats”Washingtonpost [2006.4.19] Hamiltonian Democrats (5) the Economic Policy Institute http://www.epi.org/ 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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