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2007.1.22
 
 


東亜共栄圏構想

 セブ島で、2007年1月12〜15日に行なわれた第12回ASEANサミット(第2回東アジアサミット/第7回日中韓首脳会議)は、新時代の幕開けを意味する会合だったのではなかろうか。

 もっとも、日本の新聞報道を眺めていると、どうということもない定期的な集まりに映る。
 流れたニュースを見ていると、ASEAN経済共同体(AEC)創設が促進され、中国の市場一体化が深まった上、インドとの経済的連携が始まったといった点が、多少目立つといったところだろうか。
 これでは、まあ、そんなものか、で終わってしまう。

 と言って、温家宝総理の提案も、以下の5点だから、字面だけ追えば、それほど新鮮な感じは受けない。
  (1) 戦略的計画の強化
  (2) 経済貿易・財政金融協力の深化
  (3) 安全保障協力の推進
  (4) 社会・文化協力の拡大
  (5) 公衆衛生協力の強化

 しかし、中国提案の本質は以下の言葉に尽くされていると思う。
 “中国は東アジアの一員”として、“平和で繁栄する、調和ある東アジアを共に建設していく”(1)というもの。

 読み方によっては、東亜共栄圏構想を提起したとも言えそうである。
 米国と緊密な連携をとるが、地域内の諸問題は、地域内で解決していく体制を構築しようということだ。

 ASEAN憲章改定に向かって進むことが決まったが、これは冷戦構造下のミッションを見直すということに他ならない。
 つまり、米国に頼らない地域安全保障体制に移行するということだ。それと同時に、実践的な経済運営ルールを作ることになる。
 大変化だ。結節点と言ってもよいのではなかろうか。

 時間がかかるASEAN+6(日中韓印豪N)でのFTA締結に力を入れるのではなく、ASEAN+3(日中韓)の経済圏一体化を急がざるを得ないという見方で一致したということだろう。
 米国経済の先行きは明るくないから、米国市場に頼らずに発展するパターンを地域で作ろうということに他ならない。

 これは、東亜共栄圏構想の経済面での動きと言えそうだ。

 よく見れば、政治面でも、東亜共栄圏構想に繋がる顕著な動きがあった。
 ASEANが、ミャンマー民主化問題を、域内で解決する姿勢をはっきりと示したのである。(2)ミャンマーの経済発展を支援しながら、その民主化進展管理を行なうつもりなのだと思われる。
 1月12日の国連安保理での、米英が考えている“RESOLUTION ON MYANMAR”に対しての、中国の拒否権発動も、この動きと軌を一にしていると言えよう。(露、南アも反対. コンゴ, インドネシア, カタールは棄権)(3)
 ミャンマー問題は、対外的脅威とは言えないから、安保理が対処すべき問題ではないとの論理で、米英とは違う形で解決を図るということだ。
 
 朝鮮半島の核についても、地域全体で、6ヶ国協議を支持した。ここで、重要なのは、これを域内の緊要な問題と捉えた姿勢である。(4)
 しかも、拉致問題もとりあげたのである。この解決無くしては、日本の参加が有り得ないから、本気で解決するつもりなら当然の話だ。ついに、中国は腹をくくったということである。
 ASEAN+3(日中韓)の議長声明は、驚くほど明瞭に表現した。
 “We also urged North Korea to respond to the humanitarian concerns of the international community, including the abduction issue.”

 第7回日中韓首脳会議でも、「三国の首脳は、国際社会の人道上の懸念に係る問題への対処の重要性を強調した」。このような形で拉致問題を意味する言及が三カ国首脳会合の場でなされたのは初めて、なのだ。(5)

 このことは、中国は、北朝鮮問題の先送りはしないと、米国に確約した可能性が高そうだ。
 北朝鮮復興に重要な役割を果すのは明らかに日本だ。拉致問題解決を目指すということは、日本の力を借りる必要に迫られたということ。年内にも北朝鮮核問題を解決する目算があるということだろうか。
 あるいは、もたもたしていると、米国本土へ脅威を与えかねないと見なし、米国が戦術核兵器攻撃を始めかねないと見たのかも知れぬ。
 なにせ、北朝鮮金政権全面支援の姿勢を貫く韓国が、突然、拉致問題対応要求を容認せざるを得なかったのだ。唐突な変化である。どう見ても、中国の強い姿勢に直面し、政策の転換を余儀なくされたということだろう。韓国大統領の緊張感と疲労感は、ただならないものだったろう。

 ここまで中国が踏み切ったのは、米国政府が東亜共栄圏構想を支持したからだと思われる。
  →  「米中蜜月時代突入か」 (2007年1月18日)

 さて、日本政府はこの構想に乗るのだろうか。

 --- 参照 ---
(1) http://www.pekinshuho.com/jp2005/2005-wj/2007-03/2007.03-week-4.htm
(2) http://www.aseansec.org/19280.htm
(3) http://www.un.org/News/Press/docs/2007/sc8939.doc.htm
(4) http://www.aseansec.org/19302.htm
(5) http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/asean/jck/kaidan7_gai.html


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