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2007.6.7
 
 


米中関係親密化が進む

 アジア国際安全保障会議Shangri-La Dialogue(1)での報道を眺めていると、状況を間違って読みかねないという気がした。

 記事の流れからいうと、先ずは、「中国、核ミサイル戦略部隊を強化 米国防総省報告書」(2)が先行。中国の軍事力増強懸念に対して、今度は、 「中国軍の最高級幹部がMDへの懸念表明 アジア安保会議」(3)となる。

 事実としては、確かにその通りだ。
 米国は、日米同盟を機軸に、対ミサイル防衛網を構築していく所存。これは、日本政府の意向でもある。
 中国も、衛星・ミサイル分野で軍事力増強に励んでいる。しかも、装備の近代化を急いでいるし、海軍の質的転換も図っている。このまま行けば、早晩、台湾との軍事バランスが逆転するに違いない。
 当然ながら、双方から、批判的言辞が投げかけられことになる。
 ここだけ知らされれば、米中の応酬合戦が行なわれている雰囲気に近い。

 しかし、おそらく、このような見方は間違いだ。
 なんと言ってもハイライトは、米中間「Defense Telephone Link」の創設。(4)米中首脳会談を踏まえ、人民解放軍が米中関係親密化へとさらに一歩踏み出したことを示すものと言えよう。
 そして、米国は、中国との良好な関係構築を目指す姿勢を貫き通したようだ。高官の発言がそれを示す。(5)

 Gates国防長官の発言:
 “The capabilities that we're talking about are not designed to deal with the large-scale threat such as would be posed by either the Russians or the Chinese. So in neither case is ballistic missile defense aimed at either at weakening the deterrent of either China or Russia”

 Pace参謀本部議長の発言:
 “We had a very open dialogue about -- therefore, transparency is important. If they have disagreements with what's in the report, I recommended to them that they have more and more opportunities with us to have open dialogue. I recommended to them that they go ahead and invite the authors of the report to China to sit down and have discussion about what it is that they we think we see about them that they don't see about themselves, and just get on the table, in a very open way, the discussion.”

 台湾海峡や衛星兵器で、両国の軍事対立を眺めれば結構深刻だと思うのだが、それはそれとして、両国の良好な関係を示す発言に終始したのが、大きな特徴である。Rumsfeld前国防長官時代とは様変わり。
  → 「米中蜜月時代突入か 」 (2007年1月18日)

 もっとも、両国間の摩擦は軍事だけではない。知財、為替など、どれをとっても、小さな問題とは言い難い。(6)
 しかし、こうした問題を、いかにして両国間で解決していくかというのが、米国政府の緊要な課題というわけである。

 そんな姿勢をまざまざと見せ付けたのが、Paulson米財務長官の“G7+ロシア”会議欠席だ。色々な見方はあるが、中国との“Strategic Economic Dialogue”の準備が圧倒的に重要ということ。(7)

 こうなるのも、当然だろう。
 もっと前に元の切り上げをしていれば、まだなんとかなったかも知れないが、今、経済制裁法案が議会で成立でもしたら、えらいことになるからだ。
 現時点で急速な元の切り上げでも始めれば、失業の発生で中国は大混乱。経済制裁でも始まれば、政治的インパクトもあり、どんな反応が現れるかわかったものでもない。国際経済の危機に繋がりかねない、極めて厄介な問題なのである。
 しかし、上手く乗り切れば、米国も中国も経済発展を謳歌できる。

 これほど重要な交渉ごとなどなかろう。ロシアや古い欧州と経済問題を語るより、それこそ、米・中・日で協調政策を検討した方が有意義であるのは自明である。米国は、その姿勢を鮮明にしたということ。

 こんな流れの裏には、米国の中国観が変わりつつあるということでもあろう。
 一言で言えば、13億人恐るべし、ということ。

 中国に対する貿易障壁など、間違っても始めるべきでないと、考える人も少なくないと思われる。
 典型は、Pulitzer 賞を受賞したジャーナリスト、元ニューヨークタイムス東京支局長、Kristof氏。
 中国の農家の若い娘が、今やウオールストリートでバリバリと働いていることを知り、愕然。(8)
 これ、奥さんの故郷訪問のブログ記事への書き込みから、知っただけのこと。身近でそんな例を知れば、確かにインパクトは大きかろう。
 要するに、13億人が、そんな道を歩み始めていることに、気付いたのである。これぞ、教育の真価という訳だ。

 ポイントは、3つ。
(1) Chinese students are hungry for education and advancement and work harder.
 ・・・ともかくよく勉強する。休みなしに。
(2) China has an enormous cultural respect for education, part of its Confucian legacy,
 ・・・政府も家庭も教育投資にはお金をおしまない。
   余裕がある地域では、過半が大学に入学する状態。
(3) Chinese believe that those who get the best grades are the hardest workers.
 ・・・“スマート”ではなく、一生懸命な人を優秀と見なす風土。

 従って、“let’s do as we did after the Soviet Union’s launch of Sputnik in 1957: raise our own education standards to meet the competition.”ということになる。

 --- 参照 ---
(1) http://www.iiss.org/conferences/the-shangri-la-dialogue
(2) http://www.asahi.com/international/update/0526/TKY200705260073.html
(3) http://www.asahi.com/international/update/0602/TKY200706020232.html
(4) http://www.defense.gov/news/newsarticle.aspx?id=46266
  http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200706020006.html
(5) http://www.defenselink.mil/transcripts/transcript.aspx?transcriptid=3976
  http://www.defenselink.mil/transcripts/transcript.aspx?transcriptid=3975
(6) “China-U.S. Relations: Current Issues and Implications for U.S. Policy” CRS [2007.2.14]
  http://www.opencrs.com/document/RL33877/
(7) 公式発表: http://www.ustreas.gov/press/releases/hp414.htm
  Krishna Guha in Washington: “US treasury secretary to skip G8” Financial Times [2007.5.12]
  http://www.ft.com/cms/s/81b36aca-0012-11dc-8c98-000b5df10621.html
  その結果・・・ロイタービデオニュース「米中連略対話閉幕、進展あり(23日)」
  http://jp.reuters.com/news/video/videoStory?videoId=54113
(8) NICHOLAS D. KRISTOF: “The Educated Giant” NewYork Times [2007.5.28] 有料

【話は違うが、・・・】
それにしても、上記「参照 (2), (3)」と「参照 (8)」の日米の(朝日新聞とNewYorkTimes)違いは余りに大きい。両者は似て非なる新聞である。
NewYorkTimesは、ほとんどのニュースをウエブ上で無料で読めるが、朝日新聞はほんの一部だけ。リンクもすぐに切れる。コラムに至っては、もともと、NewYorkTimesに匹敵するようなものは無いから致し方ないとはいえ、中味の薄さは驚くほど。しかも、見方は一面的で、他の見方はどうなっているのか、さっぱりわからない。米国の一流紙では、自らの政治姿勢ははっきり表明するが、正反対の意見を含め、様々な意見を紹介する。だからこそ、わざわざ読む人が多いのだと思う。
尚、朝刊のすべてが読める「Web朝日新聞」は、海外向け限定の有料サービス(月額4,000円)。ただ、2007年6月30日をもって終了だそうである。(http://wasa.asahi.com/)
一方、NewYorkTimesは、様々な付加サービスがついて年額約50ドル。もちろん全世界から読める。こちらのサービスは好調のようだ。(http://www.nytimes.com/products/timesselect/whatis.html)


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