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2008.6.26 |
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米国安全保障政策大転換か…米国は、驚くような政策転換を、突然行なう国である。Bush大統領もその伝統に忠実だった。単独覇権主義に転換し、それまでの慣例を破り、イラク戦争を開始したのである。 しかし、その結果は誰が見たところで失敗。 このお陰で、中間選挙で敗北し、議会は民主党主導になってしまった。 それを踏まえ、今度は、「地域の責任をとらない」路線へと大転換を図り、着々と歩を進めているようだ。 → 「米国は政策大転換を図るつもりか 」 (2006年12月4日) おそらく、そのポイントは以下のようなものではなかろうか。この流れにそぐわない同盟国のトップを仲間外れ扱いした位だから、任期切れまで揺らぐことはなかろう。 ・米本土の安全が脅かされず、市場開放が担保されることを最優先する。 -原油の安定供給の任を放棄。 -東アジアは地域安全保障体制に移行。 -中南米での政治的対立を終焉させ経済圏復活。 ・米国の安全保障に無縁な地域問題への関与は回避する。 -地域問題は当事国の責任。 -安定したグローバル経済構造維持を優先。 ・イスラエル生存権の障害になりそうな動きには断固として対処する。 この程度の「大転換」なら大混乱は発生しないが、これを超えるような大転換が、2009年から始まるのではないかという気がしてならない。新大統領は必ず大胆な施策を展開するに違いないからだ。大統領選挙が大いに気になるゆえんである。 そう思っているのは小生だけではないようだ。 米国大統領選挙に関心があるとの回答は、米国国内が80%というのに、海外の日本がそれを超える83%なのである。英50%、仏40%と比較しても、尋常な値ではない。(1) 国防を全面的に依存しており、自ずと外交の自由度は限られ、米国の方針一つで、地域紛争に巻き込まれかねないから、当然と言えるかも知れないが。それでも余りの関心の高さだ。 これは、時代の転換点であるとの直観からではないか。 だが、もともと米国政治に関心を持っている人には、この感覚は薄そうなので心配である。 そう思うのは、アジア自由主義国との連携を強め、日米同盟を重視するMcCain候補当選を願う声が聞こえてくるからだ。それはある意味、当然である。米国に頼る仕組みが完成しているため、この構造を変える動きでも発生すれば大混乱に陥るのは見えているからだ。確かに、たまったものではない。
その気持ちはわからぬでもないが、それでは大きな流れがわからなくなりかねまい。冷静に先を読むことに専念した方がよいと思うが。 ともかく、現実の大統領選挙の場面では、日本の話題などほぼゼロ。対外政策議論の中心は、もっぱら中東だ。つけたしとして北朝鮮がでてくることもあるといったところでしかない。 経済に到っては、EUと中国の話ばかり。それ以外は、自由貿易の話になり、NAFTAと米韓FTAの議論になる。ここは、共和党と民主党の違いが大きいから、議論になりやすいこともあろう。 ともかく、この選挙戦の特徴は、アジア問題には無関心であり、日本など眼中にないということ。 ただ、それでは、さしさわりがありすぎるということで、Armitage元米国務副長官が日本窓口として活動しているというのが、外からみた印象である。 先ずは、この状況をしっかり認識した方がよい。 アジアをどうするかは、米国にとって極めて重要な問題だと思うが、そうなっていない。それなら、一体、何が重要と考えているかだ。ここが肝だ。 そうなると、イラク問題と見る人もいるかも知れぬが、おそらく違うだろう。ここでの、両大統領候補の考え方は180度違うとはいえ、即時撤退すれば大混乱間違いなしだし、政情安定のためには今の派兵レベルでは不足なのは歴然としている。従って、どちらにしてもたいしたことはできない。そんなことは、両者ともわかっているに違いない。 そうなると、なにか。 それは安全保障問題ではないだろうか。 ただ、その内容は従来とは大きく違うと思う。 安全保障問題が争点なら、経験豊富なMcCain候補が圧倒的優位という日本の報道をよく見かけるが、そのレベルの話ではなく、もっと根本的な話。 何故、そう感じたかといえば、McCain候補が5月27日に核問題について演説を行ったからだ。(2)演説内容のポイントは省略するが、こんな演説がでてきたのには驚いた。 とりあえず、2007年に米国政治エリートがまとめた提言(3)に対して、Yes.と回答したという風にも読めるが、新大統領を目指すためにはここまで踏み込んだ発言が必要なのである。(確か、2008年初頭に、Wall Street Journalでも提言の内容が発表された。) ついに、ミリタリズムの頂点の人が、率先して核廃絶を語らざるを得なくなったのである。 このことは、米国の安全保障政策の抜本的変更の流れができつつあるということかも知れない。 少なくとも、米国の政治エリート層では、以下の認識が急速に固まってきつつあると思われる。 ・核兵器不拡散は完全に失敗した。 ・米国の核兵器での優位性確立政策は、逆に核の脅威を増す結果を招いた。 ・核物質生産量は増え、濃縮技術は汎用技術化したから、流れは止まらない。 ・米国(とイスラエル)の安全保障レベルは、早晩、危うい状況にさしかかる。 ・一方、保有国に関する方針はほとんど成り行きまかせ状態だ。 (米・露の削減条約はザルに近く、この先の計画も無い。) ・どう見ても、政策転換は不可避である。 ・と言って、有効な打ち手が無いなら、核兵器廃絶に動くしかなかろう。 核兵器廃絶は理想論とされていたのが、お金さえあれば核兵器が作れる状態に入ってきたから、実践的施策とされ始めたのである。表面上のみの、コペルニクス的転換。 早い話、米国の政治エリートが、Bush政権の安全保障政策は大失敗だったことを確認したということ。現実を直視したのだ。・・・核拡散防止でイラク派兵を行ったが、何の意味もなかった。と言うより、この動きがイランと北朝鮮の核武装化の動きを誘発した。その上、インドとパキスタンの核保有を公認してしまった。だが、そのパキスタンの核物質がテロリストに渡る可能性は否定できないのである。米国の安全保障政策は落第点。 エリート層がまとまれば、米国は必ず政策の大転換を図る。どう振れそうかよく見ておく必要がありそうだ。 今後どうなるかわからないが、核兵器廃絶方針と言ってもそれは言葉の綾。「核の傘」政策を止めるということに他ならない。それだけでも、ガラガラポンの大転換。 米国は、大統領が変わると、こんなことをすぐにやりかねない。新しい施策が世界情勢安定につながるか、よくわからなくても、早く試そうと考える体質があるからだ。こんなことをすれば、世界は一気に不安定化するかも知れないのだが。 Obama候補は、何を目指すのかさっぱりわからない政治家だが、外交・国家安全保障政策担当アドバイザーにはすでにエリートが揃っており、(4)こんな流れを作りだすことになるのかも。 ともかく、「核の傘」時代の政治家が核兵器廃絶の演説をせざるを得なくなったことだけは確かなのである。 --- 参照 --- (1) “24-Nation Pew Global Attitudes Survey” Pew Research Center [2008.6.12] (Following the U.S. Election, pp30) http://pewglobal.org/reports/pdf/260.pdf (2) “Remarks By John McCain on Nuclear Security” [2008.5.27] http://www.johnmccain.com/Informing/News/Speeches/e9c72a28-c05c-4928-ae29-51f54de08df3.htm (3) “Shultz, Kissinger, Perry, Nunn, and Others Call for Freeing the World of Nuclear Weapons at Hoover Institution Reykjavik II” Hoover Institution Conference[2007.10.26] http://www.hoover.org/pubaffairs/whatsnew/10828751.html (4) 「2008年米国大統領選挙 主要候補者の選対本部・ 政策アドバイザー人名録」 東京財団研究部 2008年2月 http://www.tkfd.or.jp/admin/files/america_president_vol.02.pdf (*) [各種調査結果一覧]“Polling Data” RealClearPolitics 2008 http://www.realclearpolitics.com/epolls/2008/president/us/general_election_mccain_vs_obama-225.html (合衆国議会議事堂の写真) [Wikipedia] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Uscapitolindaylight.jpg 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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