↑ トップ頁へ |
2008.7.10 |
|
|
日本の輸出経済の地盤沈下状況を見る…2000年以来、輸出は好調が続いた。貿易収支黒字は微減傾向だが、絶対値は相変わらず巨大。その上、海外の直接投資のリターンも潤沢になってきた。ここだけ見れば、輸出セクターの強さが際立つ。 → 「1ドル100円でも経常収支大幅黒字 」 (2008年5月18日) そのお陰で、GDP成長もまあ順調に推移してきた。 だが、この間、国全体の貿易という観点では、円安一途だったのである。 → 「円貨逃避の時代 」 (2008年6月12日) ここから、日本の構造はグローバル経済に適応できなくなっている可能性が高いと言うと驚かれるかも。強い輸出セクターがあるのに、そんな見方はおかしいと感じるに違いない。 しかし、リアリズムの視点に立てば、日本はグローバル経済の波に乗れなかった国の代表選手である。 輸出好調というが、世界の流れのなかで、見ればよくわかる。 直近の12ヶ月輸出額では、ドイツが1兆4,000億ドルに迫る勢いでトップだそうだ。続いて、中国、米国が1兆3,000億ドル近辺。日本は7,000億ドルは超えたという状況である。 2000年の時点での日本の地位とは大違い。 そんな傾向は、右図でわかるように、2005年にはすでにわかっていた。ただ、ドル安が見えている上、ドイツの高失業率問題は解決できないように見えたから、皆知らん顔していたのである。 しかし、今やドイツは欧州経済の牽引役である。日本の地盤沈下と全く逆。 それでは、ドイツの経済モデルがどうして成功につながったのだろうか。 残念ながら、Merkel首相の話(1)は、いくら読んでもさっぱりわからない。 素人的な見方からいえば、、新興国の建設需要が膨れ上がり、資本財輸出が急伸長し、そのための国内投資も増加し、好循環が生まれたことが成長の引き金になったようだ。 ドイツにとっては、「中東欧」、「中国+ロシア」への輸出規模が、米国を超えていくということにほかならない。 対ドルだけで見れば2000年以来高騰しているユーロだが、全体の実質為替レートはユーロ高ではないということになる。新興国通貨高が効く訳だ。 それに、2000年以来経済は不振だったから、賃金レベルを下げた筈。それに、国内での雇用維持をうたいながら、近隣の低賃金国の労働力を利用することにも成功しているようだから、労働コスト圧縮に成功したことも大きかろう。 日本がここまでおいてきぼりをくったのは、基本的には、米国市場だのみの構造から抜け出せていないから。 と言っても、中国への輸出は確かに急速に伸びた。だが、それでも、グローバルでみればたいした伸びではなかったということ。その力がなかったとは思えない。しかし、できなかったのである。 何故か。 長期的視野に立って動ける企業はことのほか少ないからだと思う。 その理由は自明である。 一つは、収益性が低い経営を続けているから。にもかかわらず、株主重視の方向に進むと言うのである。 当然ながら、細分化されている「安定株主」の意向を重視せざるを得ない。ところが、その「安定株主」とは、やはり収益性が低い日本企業なのである。このため、収益向上を図ろうと、率先して大胆な行動はとりづらいのだ。 少しづつ良くする以上のことはできない訳である。 しかも、銀行には、かつてのような指導力ゼロ。企業が市場からの資金調達にウエイトを移行したから、銀行の影響力自体も零落している。従って、変革の力はどこからも生まれない構造になってしまった。 ドイツでは、少数の株主と労働側が、長期的な視野に立つことができれば、経営者は大胆に方向転換できるのとは対照的である。 もう一つは、もっと重要な問題。 日本では、労働力の柔軟化が悪い方向に進んでいるのだ。 ドイツは、個別企業内での労使交渉で柔軟化を進めている訳ではない。マクロでの柔軟化路線なのである。 ところが、日本では、個別企業内のミクロな柔軟性が進んだ。簡単に言えば、正社員を減らすだけの施策でしかない。人件費圧縮と、売上げ変動への対応力は実現できたから収益力は強化できたが、本来実現できるレベルの生産性向上にはほど遠いものでしかない。人材流動性は上がるどころか、下がっていると見たほうがよい。 おかげで、飛躍しようにも、人材難で無理なのである。自由な労働市場がないから、働く人々も、同業他社といつまでも競争を続ける以外に生きる術がないのが現実。 この問題をわかっている人は少なくないが、主流は現状維持派なのだ。 “A slow sort of country!” said the Queen. “Now, here, you see, it takes all the running you can do, to keep in the same place. If you want to get somewhere else, you must run at least twice as fast as that!” “I'd rather not try, please!” said ・・・.(2) --- 参照 --- (1) Lionel Barber, Bertrand Benoit and Hugh Williamson: “March to the middle: Merkel celebrates Germany’s social market model” Financial Times [2008.6.10] http://www.ft.com/cms/s/0/de2497d4-371b-11dd-bc1c-0000779fd2ac.html (2) Lewis Carroll: “Through the Looking Glass” CHAPTER II THE GARDEN OF LIVE FLOWERS http://www.sabian.org/Alice/lgchap02.htm (国連の輸出額データ) http://data.un.org/Data.aspx?q=export&d=CDB&f=srID%3a6190 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
|
(C) 1999-2008 RandDManagement.com |