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2009.3.9
 
 


アイスランドの教訓…

 “Iceland poppy”とは氷に覆われた地域の花。
 1759年に紹介されたそうだ。
 今では、一般的な花だが。
 アイスランド国民に、
 早春に咲くポピーを愛でる余裕は残っているだろうか。
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 アイスランドはIMDの国際競争力で欧州トップにランクされるような国で、一人当たりGDPも図抜けて高かったが、今や、先が見えない状況。
 人口30万人の小国だし、工業国ではないから、どうなっているのか関心を集めないが、国民の心情という点では、なんとなく日本に似た感じもする。
 と言うことで、ちょっと眺めてみた。

 先ず、政治の現況だが、“Saucepan Revolution”が勃発。(1)と言っても、この革命運動の要求は、首相と中央銀行総裁退任要求が中心。政治家のボディーガード強化は必要になったと思うが、治安問題を云々するようなものではない。
 盛り上がる大衆の抗議運動に晒され、独立党(Independence Party 25議席)(i)の、Geir Haarde首相は、挙国一致内閣の樹立を図ったが失敗し、2009年1月26日、辞任したというだけのこと。
 その結果、2月1日には、連立相手だった社会民主同盟(Social Democratic Alliance 18議席)(s)のJohanna Sigurdardottir社会問題・社会保障相が首相に就任し、左翼緑の運動(Left-Green Movement 9議席)(g)との連立 政権が誕生した。4月総選挙までの暫定的な政権。新首相の支持率は極めて高いようだ。

 日本の首相は、他人が作った演説文章に目も通さず読んで、常識外れの間違いを披瀝し、ついに不支持率が8割まで達した。それでもしがみつけるのは、連立相手が断固支持の姿勢を堅持しているから。実は、アイスランドも似たようなものかも。
 連立相手から退陣を迫られなかったら、大連立で地位を守ったろう。
 David Oddsson中央銀行総裁の姿勢を見ればその体質はよくわかる。いくら大衆運動が盛り上がろうと、自ら退くつもりはない。2004年まで首相だった人だ。要するに、社民勢力に運営を任せるわけにいかないということだろう。日本の自民党にも似た発想が流れている。

 だが、この国、北欧の高福祉型の政治が基本なのである。普通、そんな政策を取るなら、社民が強い国と思うがこれが違うのだ。長いこと政権を維持してきた独立党とは、まごうことなき保守。都市の企業の支持を集めている政党だ。
 ただ、真の自由経済を求める勢力は自由党(Liberal Party 4議席)(l)を作ったようだが。
 そして、昔は、地方の農漁民をベースとする保守政党の、進歩党(Progressive Party 7議席)(p)と組んでいた。おそらく、いまでも両者の支持層を合わせれば、国民の半数を超えるだろう。保守の国なのである。
 日本は無党派層が多いからわかりにくいが、保守層で考えれば同じような比率だろう。だからこそ、自民党政権が長続きしたのである。そして、その保守勢力が高福祉政策と農漁民保護を重視した。よく似ている。
 そして、軍隊を持たない点もそっくり。(もっとも日本の場合は名目だけだが。)

 おそらく、この国の社民に対する支持はそう強いものではない。政治的傾向は社民化ではなく、女性と環境問題を重視すること。そのお蔭で、社民から派生したグリーン政党が票を伸ばしたのだと思われる。
 日本の動きもそんなところではないか。社会が成熟すると、そうなっていくのかもしれない。

 さあ、ここで本題に入ろう。
 高金利で英国と初めとする海外から資金を集めて、それを海外投資するという事業を大々的に展開した3大銀行( :Kaupping Banki hf, Landsbanki Islands hf, Glitnir Banki hf)が破綻。その負債はGDPの10倍らしいから、国が対処できるものではない。
 通貨も崩壊。
 さあ、新政権、どうする。

 常識的には、この危機打開には、EU加盟しかなかろう。金融秩序と政治安定なくしては、経済はますます悪くなるだけなのだから。
 EUも歓迎方針で、 新首相もその方向で進むと語った。(2)
 だが、それが可能かははなはだ疑問。
 もともと、独立党はEU加盟拒否という強硬な姿勢が特徴。EUによる漁業水域管理方針に従うことを受け入れる訳にはいかないということで票を集めてきたのである。
 国民の半数は心情的には加盟反対なのは間違いないのである。新政権が、ここで政治的なリーダーシップを発揮できるか問われているということ。
 総選挙までに、独立党は、北欧地域同盟レベルで乗り切るような弥縫策を用意するのではないか。

 日本もバブル崩壊後、経済立て直しのためには、新陳代謝による経済成長路線を敷く必要があったが、自民党は動かなかった。と言うより、既得権益層の支持を繋ぎとめるため、怖くてできなかったのだろう。ただただバラマキを続け、票を集めるしかなかったのである。

 その感覚はわからないでもない。長期間に渡って経済発展を築きあげてきた自負があり、野党勢力に経済運営ができると思えないのだろう。
 だが、その発想を続ける限り、経済危機を乗り切ることはできないのではないか。

 日本もアイスランドも、「人」をとれば、質は高いと思う。たいした資源もなく、大国の影で、戦争に巻き込まれないように知恵を駆使して生きるしかない環境であることが大きい。
  → 「アイスランドから学ぶ」(2008年6月9日)

 経済成長に乗せるためには、このような知恵を活用するしかない。これは、言葉の遊びではなく、現実。アイルランドの産業を並べて見れば、どこにでもチャンスがありそうに見えてくるではないか。・・・
    水産物
      水産加工品製造
    温室栽培農業
    酪農
    地熱・水力発電
      水素製造
      アルミ精錬
      フェロシリコン生産
    観光サービス
      エクスカージョン(ブルーラグーン・氷河、雪上走行)
      クルーズ等(フィッシング、ホエールウオッチング、大西洋航路)
      温泉
    ロック音楽[Sigur Ros、Bjork]
 実際、潜在的な成長余力は結構高い国のようだ。(3)
しかし、問題は、既得権益層のスクラップ・アンド・ビルドができるかだ。足を引っ張る層を切れなければ、本来伸ばせるものが、次々と潰れていく。
 現状を維持させたい政治家が力を持つ限り、表面的にエコ産業の装いは進むかもしれないが、脱皮はできまい。

 これは日本にも当てはまる。
 本来は成長余力が大きい国だが、政治の仕組み上、その力を活かすどころか、弱める施策しか打てないからだ。
 例えば、農業を成長産業にできるとは思えないが、現政権は、票を集めるために、そんな方針を打ち出すかも。伸ばすことができる農業はいくらでもあるから、期待する人もでるだろうが、それは間違い。生産性が高い新農業が勃興すれば、農民の一部がリッチになることはできるが、大部分はその流れに乗れないからだ。そんなことをすれば、確実に票は減る。どんな施策になるか想像がつくというもの。
 かつての電子政府化を見ればわかるだろう。業務を効率化すれば、省人化が進むし、古いITシステムでしか食べれない企業は受注できない。そんなことができる筈がなかろう。電子政府化とは、無駄なハコもの作りでしかない。
 経済危機に対応するということで、さらに巨大なバラマキが進むから、悪貨が良貨を駆逐するように、成長余力はさらに弱まっていくことになりそうである。

 --- 参照 ---
(1) Sigridur Vidis Jonsdottir :“Iceland’s economic collapse fires a 'saucepan revolution'”Times [January 25, 2009]
   http://business.timesonline.co.uk/tol/business/economics/article5581360.ece
(2) Kristin Arna Bragadottir and Wojciech Moskwa:“Iceland PM says EU entry is best option”International Herald Tribune [February 3, 2009]
  http://www.iht.com/articles/reuters/2009/02/03/europe/OUKWD-UK-ICELAND.php
(3) “Monetary Bulletin 2009.1” SEDLABANKI [2009.1.29]
   http://www.sedlabanki.is/lisalib/getfile.aspx?itemid=6763
(政党のサイト)
  (i) http://www.xd.is/?action=international_en&id=579
  (s) http://www.xs.is/Forsida/Stefnan/ManifestoinEnglish/
  (g) http://www.vg.is/tungumal/english/
  (p) http://www.framsokn.is/
  (l) http://www.xf.is/
(ポピーの写真) (C) Endless Travel [フリー写真・画像素材集] → http://travel.lix.jp/


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