↑ トップ頁へ

2009.3.30
 
 


海賊問題を考えるなら視野を広く…

 海賊のメッカといえば、東南アジアと言われていた。と言っても、古いことではなく、1997年の金融危機後の話である。
 中央政府から末端組織にお金が流れなくなれば、そんなことも発生するという見本である。資金欠乏に陥った末端統治機構にしてみれば、盗賊業容認のキックバックで組織維持を図るしかなくなるということ。従って、中央政府からお金が流れてくれば、海賊行為は自然に減ると思われる。
 ただ、反政府組織や国際テロ組織が、このような動きを活用し始めるとそうはいかなくなる。海賊行為が活動資金作りと化し、減るどころではなくなるからだ。
 従って、早いうちに、こういった組織の介入を抑えることが重要である。
  → 「日本の国際テロ対策の課題とは」(2005年3月10日)

 このような危機感の下で、マラッカ海峡の海賊取締りが進んだとも思えないが、訓練活動支援や資金的援助の効果は大きかったようだ。ともかく、東南アジアの治安は回復してきた。(タンカーがマラッカ海峡を迂回すれば数日余計にかかる。その費用は数千万円だろう。)

 ところが、東南アジアの沈静化と引き換えに、アデン湾/紅海(2008年92件)とソマリア東海岸(同19件)で海賊行為が多発するようになった。(1)
 こちらは、実に、厄介である。
 マラッカ海峡と同様な対処方法では全く対応できないからだ。

 ソマリアには、取り締まるべき国家権力が不在。“海賊達はその海岸からアデン湾までを支配することを許され”、“原始時代へ人類を戻そうとする、無秩序を好む人々の夢が、この海域で実現されてしまった”(2)という状況なのである。

 だが、こうした見方はアラブ流なら当たっているのかも知れぬが、目を曇らすことになる。国家統制なき状態での海賊とは、地域部族の民兵ということでもあるからだ。今まで、海賊行為に走らなかったのは、おそらく、海外から資金援助を得ていたからだろう。その金脈が絶えた結果が今の状況を作ったと見た方がよかろう。
 従って、一旦、こうなってしまうと、どうにもならなくなる。部族のアイデンティティとは、なにをさしおいても“自立”。その“誇り”を第一義的に重視する一方で、功利主義的に大胆に動くことが部族として生き延びるコツなのだから、海賊行為抑止の必然性はもともと無いのである。無政府状態なら、海賊行為は増えて当然。
 中央政府を立て直すことから始める以外にないが、その希望の欠片も無いというのが現実。どうにもならない。

 ただ、国家としてまとめる方法が無い訳ではない。
  ・個人(軍部)独裁---部族対立が持ち込まれれば悲惨な結果になる。
  ・民族社会主義勢力---マイナーな部族は植民地状況に陥る。
  ・宗教統治型部族連合体---宗教指導者による戒律支配が進む可能性が高い。

 しかし、どれもが非民主的であり、米国にとっては“許し難い”ことになる。もちろん建前だが、こんな交通の要所で反米政権が樹立されてはこまるのは当たり前。

 と言うことで、エチオピア政府軍による平定作戦を敢行したということだと思うが、外国軍隊が部族乱立社会を治めきれる訳がないから、混乱が治まることはなかろう。
 米国にとっては、ロシアや中国の衛星国化を防ぎ、反米テロ組織を支援しかねない宗教原理主義勢力政権も許さずというだけのことにすぎないのだろうが、これにともなう副作用は小さくない。
 部族抗争を武力で抑えると、Al-Qaeda型組織にとっては、伸張の一大チャンスが巡ってくるからだ。激しい部族抗争中は、浸透どころでないが、どの部族も海外支配者への抵抗運動を始める状況になれば、義勇軍として喜んで迎えいれてもらえるからだ。

 そんな流れを、勝手に想像している訳ではない。ソマリア対岸のイエメン情勢を眺めれば、部族社会がどう動くかだいたいわかる。
 すでにイエメン中央政府は部族統制ができる状況にはないようなのだ。2009年2月、政府はAl-Qaeda容疑者を釈放すると発表したのである。(3)どう考えたところで、部族の圧力に屈したということ。これが現実。
 2008年には、米国権益を狙った事件が発生しており、米国大使館は危険情報を発信。Al-Qaeda型組織が浸透しているのは紛れもない事実。
 イエメンの部族支配地域は“サンクチュアリ”であり、サポーターだらけかも。(4)
 言うまでもないが、ここはソマリア海賊取り締まり活動の補給基地であるし、海賊支援の場でもある。反米テロが盛んになる条件を取り揃えているのである。
 2009年3月に入り、それがさらに明瞭になった。韓国人へのテロが発生したのである。ソマリアに海軍艦艇を派遣した韓国に対して、イエメンでの兵站活動にテロで応えることを示したかったのだろう。(5)弱い環を切ろうということ。
(Al-Qaedaが、アラブの誇り高い部族社会に、韓国人へのテロを通じて、どのようなメッセージを送ろうとしているのかは想像がつく。韓国をアラブの部族が一番嫌うイメージの国として仕立てたいに違いない。それはいとも簡単である。)
  ・アジアの国としての誇りなど皆無に近い。
    -一度たりとも西洋と戦ったことはない。
    -独立を自らの力で勝ち取った国ではない。
  ・宗教的には、伝統を欠き、安定してない民族である。
    -キリスト教に改宗した勢力が力を持つ。
    -王朝時代には僧侶を賎民階級化した。
  ・独力で国力をつけた訳ではない。
    -日本が併合するまで、奴隷制度が残っていた国である。
    -世界大戦後、米、日の膨大な援助により経済的繁栄を実現した。
  ・侵略者の論理で、反テロと称してアラブに侵入してきた。
    -日本支配時のテロ抵抗活動を賞賛している国である。
    -アジアの大国として軍事介入し始めた。

 日本は、こうした状況を理解した上で、海賊対策を考える必要があろう。マラッカ海峡とは訳が違う。

 なんと言っても注意すべきは、国連による協調行動がとれない点。これは、ただの海賊対策で終わらないということを意味する。
 しかも、武器商売ブロックの3つの勢力に分かれて蠢いているように映るから不気味。
  (1) EU
  (2) 米国
  (3) 上海協力機構[オブザーバー含む]

 地図をみればわかるように、ここはアカバ湾につながる戦略的要所。イラン-イエメン-スーダンの繋がりを壊そうとのイスラエルの動きも急であり、極めてきな臭い地域なのである。(6)
 はてさて、日本はどうすべきか。思案のしどころである。

 --- 参照 ---
(1) 「2008年IMB海賊レポート概要」 “アデン湾での海賊事件が激増 ―2008年の海賊事件発生状況―” 日本船主協会
  http://www.jsanet.or.jp/pirate/index.html
(2) ムハンマド・ジャービル・アル=アンサーリー(十倉桐子 訳) : “コラム:「国家」の必要性−ソマリア海賊問題によせて”
  al-Hayat [2009年3月12日] http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20090313_101717.html
(3) Nadia Al-Sakkaf: “Yemen declares Al-Qaeda free despite American concern” Yemen Times [Feb. 18, 2009]
   http://www.yementimes.com/article.shtml?i=1235&p=front&a=2
(4) Frank Gardner: “Yemen's al-Qaeda supporters” BBC [3 August, 2002]
   http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/from_our_own_correspondent/2168543.stm
(5) 「イエメン自爆テロ:韓国人が標的の可能性も」 朝鮮日報 [2009/03/19]
  http://www.chosunonline.com/news/20090319000053
(6) “U.S. officials say Israeli warplanes bombed convoy of trucks in Sudan”
  International Herald Tribune, Reuters, The Associated Press [March 27, 2009]
  http://www.iht.com/articles/2009/03/27/mideast/sudan.php
(元の地図) http://www.abysse.co.jp/world/index.html



 政治への発言の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2009 RandDManagement.com