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2009.6.9
 
 


日米同盟の弱体化必至か…

 オバマ政権は麻生政権との交流には関心がないようだ。
 政権樹立直後の首相訪米が失敗だったのか、あるいは、国民の支持を喪失しているため、リーダーシップを発揮できない政権と見なされたのだろうか。
 まあ、その程度なら、首相の取り替えでなんとかなるが、どうもそうではなさそうである。

■駐日大使人事は日本軽視の意志表示■
 ともあれ日本軽視がはっきりしたのが、駐日大使人事。
 ホワイトハウス報道官は、大使の名前さえ知らないことを、わざわざ、記者に披瀝したのである。(1)
  Q One question. The U.S. Ambassador to Japan was recently appointed to John Roos, California attorney.
    What's the background on this?
  MR. GIBBS: I'm sorry, say that again? John Roos?
  Q John Roos was appointed to Japanese Ambassador. What's the background on this?
  MR. GIBBS: Let me get -- we'll get you information on his nomination and his background and experience.

 要するに、日米同盟への関心は極めて薄いということを、プレスの席で見せつけた訳だ。
 日本は、円高で輸出産業が立ち行かなくなるのを避けるために、米国国債を買い続けるに違いないと踏んでいるのだろう。そして、それ以外には、日本との同盟に、価値を見出せなくなってきたということか。

■カイロ演説とは中東からの全面撤退の表明■
 それでは何が一番の関心事項か。
 それがわかるのが、オバマ大統領のカイロ大学での55分間の演説。(2)

 読み方は色々だが、小生は、方針大転換宣言と見た。中東の話をしているが、他地域にも順に適用されるに違いないので、注意を要する。
 と言うことで、国内メディアの脚色解説ではなく、全文をご自分でお読みになることをお勧めしたい。ただ、心して、白紙の状態で読もう。
 例えば、“to leave Iraq to Iraqis. And I have made it clear to the Iraqi people ”と聞かされても、なんら新しさは感じまい。
 しかし、全てを読んでからこの言葉を振り返ると、これは、イラクが親米国家でなくてかまわないという決断と思えてくる。
 どう感じたか、少し、ご説明しよう。

 わかり易いのは、パレスチナ問題についての箇所。
  “America will not turn our backs on the legitimate Palestinian aspiration for dignity, opportunity, and a state of their own.”

 この言葉、ハマスの目から見れば、言い尽くされた二国家共存論に毛がはえたような話でしかなく、なんの新しさも感じなかろう。
 しかし、その比喩が凄い。
  “For centuries, black people in America suffered the lash of the whip as slaves and the humiliation of segregation.”
 イスラエルが、かつてのWhiteと同じことをしていると語っているようにもとれる表現だ。イスラエルの人々は驚いたに違いない。
 それだけではない。入植地拡大停止を“公然と”要求した。
  “The United States does not accept the legitimacy of continued Israeli settlements.”
 これには、衝撃が走ったに違いないのである。
 なにせ、記者さえ“beyond everybody was expecting.”だったからだ。
  “We have not heard a U.S. President, or any U.S. official before,
  saying the United States does not recognize the legitimacy of settlements.”


 そして、イランについても、大転換を予想させる言い回し。謝罪の一歩手前だ。
  “In the middle of the Cold War,
  the United States played a role in the overthrow of a democratically elected Iranian government.”

 そして、NPTさえクリアすれば、核利用の権利があると明確に言い切った。
  “And any nation -- including Iran -- should have the right to access peaceful nuclear power
  if it complies with its responsibilities under the nuclear Non-Proliferation Treaty.”

 このまま進めば、おそらく、イラン問題は解決するだろう。

 これが何を意味しているかおわかりだろう。
  “the main thing that I wanted to emphasize in the speech: The United States cannot impose a solution”
  “ I don't want to impose an artificial timeline,”

 米国は、中東における覇権国家としての役割を放棄するという歴史的な演説なのである。この結果、中東一帯のパワーポリティックスの大変動を招くのは間違いあるまい。

■米国は地域安全保障での主導役を放棄■
 要するに、反米テロリスト撲滅に動き、公正な選挙で樹立された政権なら、親米国家である必要はないという姿勢を示したのである。
 大規模な軍事拠点を設置しないなら、パキスタン、アフガニスタン、ミャンマーが、親中国国家になってもかまわぬということ。その代わり、中国は地域安定に責任を持てというのだろう。政府に経済支援を行なう一方で、反政府勢力に武器供与するような姿勢を改めれば、利権獲得は容認する訳だ。
 “中華思想”勢力が力を持つ国に対して、この方針が奏功するとは考えにくいが、中東での失敗で力を失った米国にとっては、背に腹は変えられないといったところか。
 要するに、地域安全保障は、当該地域の国々が作るもので、米国はその動きに協力はするが、率先して動くことは無い訳だ。
 従って、ASEANに対しては、傍観者的立場で振舞うことになりそうだ。
 まあ、当然の帰結かも。
 アフガニスタンでは、軍事的に行き詰っているようだし、南アメリカでは、選挙で次々と左派政権が樹立されている。反米国家との協調路線を敷く以外に手はなかろう。反米テロリストさえ発生しなければ、それで十分ということ。

■北朝鮮問題は地域に丸投げ■
 この方針は、東アジアにも適応されることになろう。そうなれば、朝鮮半島全域が親中国国家になってもかまわないということにならざるを得ない。要するに、米国大統領は、この地域の安全保障に関して、采配をふるうつもりはないということ。
 従って、米国としては、北朝鮮の挑発的動きをできる限り無視し、時間をかけても、6カ国協議を機能させる方向に進め、地域全体の安定化を図りたいところ。日米韓の自由主義圏構想ではなく、中国に地域安定の任務をおってもらおうということ。
 北朝鮮の挑発行動に対する安保理の制裁決議についても、日本の外務テクノクラートが動いて、中国と調整して対応策を作って欲しいというところでは。日本の首相と国連事務総長との協議を表に出したりすることで、(3)自由主義圏v.s.中国という色彩をできる限り消したいのだろう。
 ところが、これが上手く運ばない。中国は金政権崩壊に繋がりかねない制裁を嫌うので、協調行動は難しいのである。
  → 「北朝鮮問題を考える」[2009.4.29]
 ただ、ロシアは北朝鮮制裁方針を打ち出したようだ。米国が東アジアから退いていく流れを理解したからだろう。メドベージェフ政権としては、これは大歓迎。
 もともと、北朝鮮を通るガスパイプライン敷設と、北朝鮮の不凍港の利用で沿海州の繁栄につなげたいと考えていたから、金政権崩壊やむなしと決断したに違いない。どうせ避けられない難民流入だからと、腹をくくったのだと思う。
 胡錦濤政権にしても、豊かな鉱物資源の利権を確保できれば、金政権崩壊止む無しと決断しておかしくないが、ロシアのようにはいかない。金政権が崩壊し混乱をきたせば、人民解放軍を治安維持に進駐させざるを得ないからだ。北朝鮮の権力構造を理解せずに動くから、危険この上ない。一歩間違えば、反中国ゲリラ戦勃発に繋がりかねないからだ。
 しかも、日本は、自由主義圏構想に固執する政権だから、難民支援要請はリスクを伴う。
 従って、中国が金政権崩壊に繋がりかねない制裁に動くことはないのでは。

 中国としては、制裁論議より、金政権崩壊問題を協議したいのでは。もちろん秘密裏に。
 金政権が核放棄することなどありえないから、非核化実現とは政権崩壊を意味する。本気で朝鮮半島非核化を進めるつもりなら、周到な準備が必要に決まっている。
 そう考えると、すでに協議は始まっているのかも知れぬ。
 (韓国軍がレーザー誘導地中貫通爆弾を装備することになったのは、その一環かも。(4))
 もちろん、日本はその協議に入ることはできない。
 言うまでもないが、これは、日米軍事同盟の形骸化を招くことになる。
 東アジアの政治状況が変わり始めるのではないか。

 --- 参照 ---
(1) PRESS BRIEFING BY PRESS SECRETARY ROBERT GIBBS [May 21, 2009 ]
   http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Briefing-by-White-House-Press-Secretary-Robert-Gibbs-5-21-09/
(2) “The President’s Speech in Cairo: A New Beginning” http://www.whitehouse.gov/blog/NewBeginning/
   [TRANSCRIPT] http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Remarks-by-the-President-at-Cairo-University-6-04-09/
   “ROUNDTABLE INTERVIEW OF THE PRESIDENT WITH REGIONAL REPORTERS” @Cairo University (June 4, 2009)
   http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Roundtable-Interview-of-the-President-by-Regional-Reporters-Cairo-Egypt-6-4-09/
(3) 麻生総理大臣と潘基文国際連合事務総長との電話会談 [2009年6月5日]
   http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_aso/p_un_0906.html
(4) “政府「バンカーバスター」来年導入へ” 中央日報 [2009.6.3]
   http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=116136&servcode=500§code=510


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