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2009.6.18
 
 


脱官僚・地方分権化はハイリスクな政策である…

 中央政府から地方自治体に権限が移れば、日本はよくなると力説する人がいたので場がしらけた。地方分権で輝かしい未来が到来すると聞かされたからだ。
 失礼ながら、社会主義が未来を開くと言っていた、ソ連の為政者と五十歩百歩では。

 地方にいけば、口ききで物事が動く政治が行われていることを知らない訳ではあるまい。こんな状態で、地方の権力者に裁量権を与えたら、どうなるかはわかりきった話では。
 それなら、口きき政治を打破すべしとなるが、縁故がセフティネットを兼ねている状況だからすぐには無理だろう。

 まあ、そんな末梢的なことはどうでもよい。
 問題は地方分権化を進めれば、地域が自律的に動いて、経済発展するかだ。小生は、見通しは暗いと思う。
 そもそも、経済不調なのは、ほぼ税金だけで食べている状態だからだ。疲弊しているのは、税金の総額が減っただけのこと。
 自律的に稼げる力が無い地域に、税金の使い方をまかせたからといって、好転するものではなかろう。地方分権化が発展に寄与する地方は、全体の一部だけと見るべきだと思う。ほとんどの自治体では、首長になるコースが決まっており、中央官庁出身者が首長の脇を固めているのが現実。無駄遣いが多いのは、金の自由度の問題ではないのは自明。
 すでに疲弊しきっている地域では、税金使途の自由度が増せば、生産性が低い産業への補助を厚くするだけではないか。その結果、地域経済の低迷はさらに深まるかも。
 要するに、地方分権化とは、自立できない地域の衰退を加速させる政策でしかない。薔薇色とは言いがたいのである。

 官僚政治打破も同じようなことが言えるのでは。
 こちらの問題は、官僚制度というより、政治家の質。政治家が方針を打ち出せなければ、社会安定を旨とする官僚は、様々な勢力の要求を調整する政策しか作れないのは当たり前。
 問題の根源は、政党がはっきりした方針を打ち出せないこと。どこをつつけば社会が動くかがわかっている官僚の仕組みを壊したところで、どうにもなるまい。

 要するに、その場限りの発言を上手にこなすだけの政治家ばかりで、簡潔明瞭な長期方針を打ち出せる政治家がいないということ。とりまきの質がとてつもなく悪いということかも。

〜舛添大臣略歴から 〜(1)
学歴 東京大学法学部政治学科卒業
職歴 東京大学法学部政治学科助手
パリ大学現代国際関係史研究所客員研究員
ジュネーブ高等国際政治研究所客員研究員
東京大学教養学部政治学助教授
 舛添厚生労働大臣を見ればそれがよくわかる。政治を学問として扱ってきた経歴を持つから、合理的に考えることができる人の筈。ところが、現実の動きは全く逆なのだ。

 おわかりだと思うが、豚インフルエンザ対応を言っているのである。
 およそ、政治のプロが、真面目に考えて動いたとは思えない状況だ。おそらく、狂牛病での流れを思い描きながら、国民からの批判をやりすごす方策を練っただけ。
 狂牛病の場合は、稀にしか罹患せず、問題の対象は食品だ。合理的に考えて欲しいと言ったところで、土台無理な分野。しかも、政府は全く信用されていなかったから、無駄な検査でも、行った方がよい。
 しかし、こんな姿勢を、悪性インフルエンザ問題に持ち込まれたのではたまらぬ。

 インフルエンザは、短期間で数百万人が感染する。そして、確率的に、死亡が発生する厄介な疾病だ。免疫が無いとか、悪性であると、重篤者発生割合は極めて高くなる。従って、国全体が壊滅的被害を受けかねない重要問題と見なすのが常識だ。狂牛病対策などとは、深刻さが違う。
 冷徹、かつ合理的に考えてもらわねばこまる問題である。政治学者だったら、そんなことははなからわかっている筈だ。

 にもかかわらず、中央政府が頑張っていることを見せるために、無駄な空港検疫に大勢の人を張り付け、マスコミに大々的に報道させた。
  → 「実践的な豚インフルエンザ対策を」 (2009年5月17日)

 もちろん、防御体制が整っており、余裕があるならそれでも結構。
 実は、小生も、これを見て、鶏インフルエンザ対策でタミフル備蓄を進めている位だから、てっきり準備万端整っているものと誤解していた。
 驚いたことにまるっきり逆で、診療体制など何もなかったのである。というより、防御など何も考えていなかったのである。なにせ、関西の各病院が、自治体関係者を交え対処策の議論をしたというのだ。まさに泥縄。
 開業医も、急遽集まり、対処策を考えたと聞く。タミフル投与は盛んだが、肝心の防疫対策についてはなんの準備もなされていなかったということ。
 マスク欠乏に直面した医療機関まででて、急遽配給したというのだから、言葉を失う。ひょっとすると、医師は防護服も持っていなかったのかも。

 言うまでもないが、この分野は、各地方自治体が責任をおう。この経過から見て、自治体は、ほとんどなにも考えていなかったことがよくわかる。そして、中央政府はそれをわかっていながら、知らぬそぶりを決め込んでいたに違いない。
 悪性のインフルエンザが発生したら、こんな体制では手のほどこしようがない。本来なら、お粗末で済む問題ではない。
(素人でもわかるが、悪性伝染病が発生したら、仮設の特別診療所を、既存の医療機関と離れた場所に、一斉に設置し、訪れる人全員に防ウイルスマスクを着用させ、防護服着用医師が診察して、重篤化しそうな人を特別施設に特別車輌で急送し、軽度な人は自宅療養してもらうしかない。そして、隔離可能な建物を仮設病院にして、周囲を常時消毒することになる。なにも計画がないとしたら恐ろしいことだ。・・・政治家が法制化を止めれば、こうなるという見本。)

 しかし、舛添大臣は、今もって、こうした問題について、何も語ろうとしない。
 マスコミに、華々しい空港検疫の活動を報道させることで、政府が頑張っていることを見せつける作戦でお茶を濁したということ。
 いかに票に結びつけるかという観点では、一流の政治学者であることは間違いなさそうだ。
 官僚政治打破とは、この手の“有能な”政治家が大活躍する場が増えるということでもある。

 --- 参照 ---
(1) http://www.mhlw.go.jp/general/sosiki/profile/daijin.html


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