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2009.7.16 |
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ウイグル騒動は歴史の転換点かも…多くの人が予想していた通り、新疆ウイグル自治区で暴動が発生した。中国当局も待ち構えていたようだ。 間髪を入れず、“インターネットおよび国際電話を規制し”、“指定したホテルに小さな「臨時プレスセンター」を設置し、外国メディア向けに当局が撮影した映像を提供したり、取材ツアーのアレンジをしたりする異例ともいえる素早い報道対応”を敷いたという。(1) 要するに、漢族への襲撃状況をジャーナリストに知らせることで、暴徒鎮圧の正当性をアピールしようということ。 胡政権の国内基盤は思ったより脆弱なようだから、周到な準備がなされていたのだろう。 しかし、これは天安門広場での騒乱とは訳が違う。 民衆の動きを利用した、中国共産党内部の権力闘争ではないから、簡単に鎮めることは難しい。
そもそも、「新疆」とは、イスラムの地「回疆」を改名したもの。タタール(韃靼)系の満洲・女真族の“清”中国王朝がつけた名称である。その後、政権は、漢族の中華民国・中国共産党に変わったが、「新疆」植民地を手放そうとはしなかった。対外的には帝国主義に抗する民族独立運動を支援しても、巨大な中華帝国だけは維持というのが毛沢東路線でもあった。 それに、今更、埋蔵資源とカスピ海からの石油パイプライン敷設といった利権を放棄する訳にもいくまい。 そのために、漢族移民政策を続けた。民族間の摩擦は高まって当然。 いくら北京政府が、分離独立派が海外支援のもと騒動を起こしていると海外に宣伝したところで、ALJAZEERAがイスラム圏にウイグル文化抑圧状況を報道するから、宗教戦争化必至だ。(2) → “Uighurs' struggle to retain cultural identity - 07 July 09” (AlJazeera English) [YouTube] もともと発展途上国のイスラム信仰者には国民概念が希薄である。支配機構としての軍隊と政府機関以外の組織は、地域のモスクを中心とする宗教コミュニティだけだから致し方ない。反政府勢力の組織は生まれにくいのである。しかも、宗教活動が、地場の共同体運営と一体化しているから、民衆の不満が高まれば、宗教者が立ち上がることになる。組織的なまとまりはないが、一挙に大騒乱化する。世界中どこでも同じ。 異民族・異教徒が徹底的に民族文化抑圧と宗教弾圧に動いていると、民衆が感じてしまえば、もうどうにもならない。抵抗運動は永遠に続くのでは。 3,000年の歴史として、この問題をとらえると、この結論は簡単。 人民解放軍がいくら暴徒を鎮圧したところで無理筋。・・・ユーラシア大陸で、大帝国を形づくることに成功したのは、“ギリシア思想”に貫かれたマケドニア、“イスラム教”のサラセン、宗教・言語はバラバラのままで“脅威的武力”で侵攻したタタール族国家の3つしかない。漢族の帝国は東の端、キリスト教の帝国は西の端を治めていたにすぎない。中央アジアを治めるのは至難の技だった。 利権を追い求めるだけの北京政府に、この地を平穏に治める力がある訳がなかろう。(武力制圧を第一義におく老政治家が、今もって解放軍への影響力を発揮していそうな点も厄介な問題だ。) 現時点で、アジア以外の世界の圧倒的多数は聖書の民。そのなかで、イスラム教徒人口が増大一途であることを忘れるべきではなかろう。 しかも、イスラム圏の人々に反米気質が蔓延しているのだ。それが反世俗主義につながれば、政教完全一致の社会待望論が強まること必定。そして、聖戦ムードが立ち上がる。(トルコの宗教色を帯びた世俗政権が一番気になる動きだろう。(4)一旦、宗教原理的流れが発生したら、それに乗る以外に手はなくなるからだ。) ウイグルの状況を見て、各国のイスラム教徒が、中国企業や華僑勢力を反イスラム策動者と見なせば大事になる。アジアは急激に不安定化するのではないか。(北アフリカ等のイスラム原理主義勢力が強い地域でも、テロの脅威に晒されかねまい。) 【追記】 民族問題の議論は必ず混乱する。非寛容で、現実を見ようとしない、ドグマ論者がかき回すから。 それは保守や革新という話でもなければ、国粋主義者とか国際主義者いうことではない。 人の話を絶対に聞かない人達がいるのだ。 このタイプは発言も多いから、数も多いと思ってしまうが、実際は少数では。 しかし、この少数派は頑固だから、流れを左右することが多い。要注意である。 ブータンを幸福な国と呼ぶ風潮など好例。ムード的に仕上げられたお話。 → 「現代のハプスブルク帝国を考える 【・・・話を取り上げた理由】」 [2008.3.24] 実態から見れば、ブータンの王制とは、民族文化高揚という名のもとに、独裁政権が支配する国でしかない。 少数民族は弾圧され難民化している。悲惨。大国に挟まれ、独立維持には、これしかなかったかもしれぬが、暴虐な専制政治そのものであるのは間違いない。 しかも、鎖国政策を採用。国民は情報から隔離された。もちろん、識字率は低いまま。上げる訳にはいかないのだ。当然、生活は貧困そのもの。 しかし、昔からの変わらない生活が続く状態が、幸福そのものと喧伝されているのだ。 おわかりだろうか。現実を見据えることができるかが重要である。 チベットや朝鮮にしても、被支配国化して、初めて農奴がいなくなったのである。 そして、投資により、ようやく貧困からの脱出が始まった。それが現実。 独立する力が無い国とは、自分達で内部問題を解決することができないということでしかない。 勢力はバラバラになり、力が無いから外部勢力を活用し合う。そして、国内対立が激しくなる。それを防ぐためには鎖国化しかない。 参考に、スターリン時代からのソ連流の対モンゴル[蒙古]民族政策をまとめておこう。 1. 先ず、民族を分断する。 -独立国として、モンゴル国(旧モンゴル人民共和国、いわゆる外蒙古) -内モンゴル自治区[中華人民共和国] -ブリヤート共和国[ロシア] 2. 独立国と自治区を完全分離する。 -独立国は、完璧なモンゴル民族の国(カザフ人が数パーセント存在) -独立国へは特待的な軍事援助(国境管理厳格化-家畜移動警備) -自治地域には、積極的な移民政策(モンゴル民族多数化阻止) 3. 従来の経済基盤を崩し、社会構造を変える。(近代化政策である。) -遊牧/非定住生活から定着型の牧畜/農業への転換 -自給自足型コミュニティ消滅(都市化と単純労働者化) -低降水量地帯なので砂漠化必至(農牧業生産性低下一途) -中央政府の援助に頼る経済化(中央集権化) 4. 伝統言語の影響力を徐々に薄めていく。 -独立国では、書面のキリル(ロシア)文字化 -中国圏では、書面の漢語化(若年層の全面的な中国語化) -露圏では、全面的なロシア語化 5. 宗教勢力の力を削ぐ。 -治外法権的な力を発揮しかねない仏教寺院の隔離 -チベット型仏教(僧が信徒個人を指導する仕組み)の骨抜き化 -宗教的儀式を非宗教的なイベントに衣替え -呪術型宗教の影響力排除 6. 海外勢力の影響を受けないように管理を徹底する。 -民族情報の流入/流失阻止 -海外渡航者の完全管理 -亡命勢力影響力低減のための外交圧力 -海外指導者の発生防止(チベットやウイグルでは失敗) ロシアは、グリーンランドを独立させるデンマークのようなことはできないのである。 --- 参照 --- (1) 野口東秀(ウルムチ): 「【ウイグル暴動】路上に並ぶ遺体… 当局、生々しい暴動映像を配布」 産経新聞 [2009.7.7] http://sankei.jp.msn.com/world/china/090707/chn0907070922004-n1.htm (2) “Uighur protesters defy crackdown” ALJAZEERA [July 07, 2009] http://english.aljazeera.net/news/asia-pacific/2009/07/20097735737720990.html (3) https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/ (4) “China dismisses Turkish PM's genocide remarks” Hurriyet Daily News [July 14, 2009] http://www.turkishdailynews.com.tr/n.php?n=china-tells-turkish-pm-to-take-back-xinjiang-genocide-remarks-2009-07-14 “Parliament asks China to send delegation to Xinjiang” Hurriyet Daily News [July 14, 2009] http://www.turkishdailynews.com.tr/n.php?n=parliament-asks-china-to-send-delegation-to-xinjiang-2009-07-14 (新疆ウイグル自治区の地図) [Wikipedia] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:China_Xinjiang.svg 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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