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2009.10.12
 
 


昨今の政治状況を眺めて[オバマ政権の鳩山新政権への対応]…

鳩山新政権の対米外交は確かに“Change”である。
 自民党総裁選挙の一番の特徴は、体質を批判する人達が“Change”勢力では無いことがわかってしまったこと。思想性無き権力闘争しかできない組織ということを示した訳である。“Change”のためにどうするかこれから皆で「考えよう」という候補に対し、そんなことは無駄だから「人の一新」で片付けようと主張するのだから唖然。
  → 「昨今の政治状況を眺めて[自民党総裁選挙]」 [2009.10.7]

 そうなると、“Change”を掲げる、鳩山政権の動きも見ておく必要があろう。こちらで見るべきものと言えば、やはり日米首脳会談だろう。
 New York Times掲載の「Voice」抄訳論文でゴタゴタした後での会談だったが、オバマ政権から見ればそんな細かなことはどうでもよかったのではないか。実際のところ、どう動くつもりか、手の内を探ろうというところでは。
 本格的な「政権交代」だから、考え方を理解して、慎重に対応するしかないと考えていそうだ。急がず、じっくり見る必要があるというのは、とりあえずの外交辞令ではなく、本音かも。
 どうせ、日本は“Very gradual change, we can believe in”の世界だろうから、腰を落ち着けていこうということでもあろうか。
 そんな姿勢は、過去の首相に対する扱いと比較すると雲泥の差。
 それを喜んでよいのか、危険な兆候と見るか。なかなか難しい。

安倍-麻生政権は、まともに米国からの圧力を喰らったようだ。
 ともあれ、オバマ・麻生会談は圧巻だった。
 “近年の首脳会談では異例の昼食会なし”。なんと、その理由は、大統領がテレビキャスターと昼食を共にする必要があったから。(1)日米会談無しには政権が安定しないから、ともかく開催してくれとの日本政府の要求に応えただけと態度で示したとしか思えまい。
 ラクイラサミットでは、そこまでする義理も無かろうとなった。実に露骨である。
 外交的には「(正式な)会談はなかった」(2)というのだから。“通訳を除いた同席者はいないという「立ち話」的”なものを、日本政府がマスコミを使って、日米会談開催と大々的に宣伝させただけなのだ。麻生人気復活を狙った作戦だが、逆効果だった。

 安部首相同様に、相手にされなかった宰相と言ってよいのではないか。ここがポイント。
 この二人、対応した米国政権は全く違うが、世界の問題を議論する相手ではないと見なされたに違いない。現時点でいえば、英国の首相のようなものか。世界に貢献することができそうにない政治家との会談など無意味ということ。冷徹なものだ。

 米国の視点で考えてみれば、どういうことかよくわかる。
 経済問題もさることながら、東アジア全域の政治的安定の観点から、日本の政権の動きを注視している筈。当然ながら、地域不安定化の引き金になる動きや、グローバル経済の流れを阻害しないかが一番の関心事。その点では、両者ともにお眼鏡にはかなわなかったのでは。
 小泉首相と比較するとよくわかる。「右」バネで靖国参拝を行って、国内の支持勢力から拍手喝采を浴びたが、こんなことができたのは、経済に関してはグローバル化の波を受け入れると、米国に確約したから。米国にとっては、靖国参拝はこの地域での不協和音を発生させるのでこまるが、コアの党員の力を結集させ、見かけだけとはいえ、構造改革に取り組む雰囲気を醸し出したので、しかたなく黙認したにすぎまい。実際、小泉政権の「右」バネ政策は、実質的には靖国参拝のみ。他は議論だけ。そして、政権を投げ出した。無責任な態度だが、これ以上は手に余るということを理解していた訳である。
 靖国参拝は、国のために命を捧げた将兵への慰霊行為だから、これだけは、なにがあっても止める訳にはいかぬとブッシュ大統領に説明したのだろう。納得させたとは思えないが、ここまでなら、宗教色が強い大統領だから、なんとかなろうと判断したのだと思われる。なかなかの勘のよさ。
 しかし、靖国参拝の結果、日中外交が凍りついた。米中蜜月のなかで、これには、ブッシュ政権もこまったに違いない。

日本の民族主義は、東アジア緊張につながると見られたということだろう。
 小泉政権を引き継いだ安倍政権は、米国の期待に応え、発足直後に中国との関係修復に動いた。もちろん、靖国参拝も打ち止め。
 しかし、これでは嫌中韓の民族派の不満爆発である。従って、「右」バネに応えるべく、小泉政権が丸投げしてよこした国内の懸案事項を一気に進めた。当たり前だが、これでは、東アジアの緊張緩和が一歩も進まない。
 自由主義国の連携強化との主張の、中東での適用は大歓迎だが、こと東アジアではそれは、日本の大国化を意味するから、米国にとっては大いにこまるのである。
 東アジアにおける国際政治に安倍政権が係わるのはご連慮願いたいということ。首相辞任劇は、唐突に見えるが、必然的なものだと思う。
  → 「後継首相は自明」 [2007.9.14] --- (北朝鮮との交渉が進むと誤った予想をしてしまった。)

 「自由と繁栄の弧」や「価値観の政治」を主張していた麻生首相も同じことが言える。オバマ政権にとって、麻生型「自由と繁栄の弧」路線とは、米国と中国を対立させようとの画策に映るのは間違いない。
 安全保障を米軍に依存していながら、大言壮語するということは、将来的には自力防衛することを示唆しているようなもの。核武装も辞せずという考え方をちらつかせているということになる。
 オバマ政権は、邪魔者と見なしたかも。

 まあ、そうした緊張を高めるような姿勢に、釘を刺すために、短時間の首脳会談も意味があろうということだった可能性は高い。それは、確かに効果抜群だった。ブッシュ政権受けしそうな主張をあちこちで力説していたにもかかわらず、その後、パタリと一言も口にしなくなったのだから。米国の圧力おそるべし。
 しかも、麻生政権の補正予算では、つまらぬ営繕費用の大盤ぶるまいが矢鱈多いが、こと防衛関係に関しては増額をしていないようだ。なるほど感あり。
 嫌中派は、口にはしないだろうが、この大変身ぶりに気付いているだろうから、麻生首相には同情的かも。
(嫌中派: バラバラの東アジアで共同体を作るという鳩山流の夢物語など、中華帝国を利するだけで、唾棄すべきものと考えている層)

オバマ政権は対日政策は熟慮中というところだろう。
 オバマ政権にしてみれば、東アジアでの中国支配を防ぎながら、政治的な安定を図りたい訳だが、緊張を煽りかねない自民党の嫌中派型政策に嵌められる訳にはいかないのである。
 一方、鳩山流の政治や通貨の統合など、完璧な夢物語だが、市場の方はすでに現実化している。現下の問題は、この域内貿易が滞りかけているという点。その観点では、鳩山政権の主張を活用し、地域安定にこぎつけ、経済を活発化させた方が良いに決まっている。それにはどうしたらよいか、熟慮中といったところでは。
 世界の資金の流れが変われば、米中蜜月が続くとも思えまい。抜本的な見直しが始まっておかしくない。ただ、方針設定には時間がかかるだろう。そのため、どうにでも動けるように、当座は日本重視に映る対応をとるだろうが、その後はどうなるかわかったものではない。

 とりあえず、日本に圧力をかけずに、穏やかな対応がとれるのは、マクロ経済の視点で政策運営を進める藤井財務相の存在が大きそうだ。党首が米国追随政党ではないと表明しているから、ドル離れの噂が流されかねないが、そんな危ない橋を渡ろうと動くとは思えないから、信頼に足るといったところ。
 それに、円安一本槍路線から、穏やかなドル安を誘導する国際的協調路線への転換は不可避だから、日本の新政権への期待感も大きかろう。おそらく、自民党とは逆で、国際通貨政策を国内経済政策から切り離す算段を進めていると思われる。(米国の通貨当局と繋がる行天豊雄氏を特別顧問に起用したことも、安心感を与えそうだ。現役感覚をお持ちのようだし。(3)それに、大串博志政務官も国際金融のプロだ。)

火種をほじくり返せば、大事につながる可能性があるのだが。
 ただ、問題はある。「核密約」だ。
 鳩山政権は、経緯をはっきりさせる方針だが、どういう方向に進めたいかは、逆にはっきりしない。
 キャンベル米国務次官補は、2009年9月18日、「米側の開示文書は約50年前の日米間の合意に関する史実を明確に描いている」と述べているから、(4)すべてが明らかにされることになりそうだ。それ自体はたいした話ではないが、日米の歯車が噛みあわなかったりすると、大事になりかねまい。
 日本政府が沖縄への核持ち込みを承認したことだけが騒がれているが、もう一つある。日本の核武装は許さないとの米国政府の方針が公になる可能性が高い。問題は、ココである。
 前者は冷戦のなごりだし、公然の秘密だから、今更蒸し返したところで、非生産的。非核三原則堅持を安保理で発言し、米国との対等化をはっきりと語ったと言っても、日米軍事同盟をご破算にしたい訳でもなかろう。
 しかし、後者は別。これが内外にどんな影響を与えるかは未知数。
 なにせ、時期が時期。試験なしで超大型の新型ロケット発射を成功させたばかり。そして、固体燃料ロケットの開発も行っていることもよく知られているし。

米中蜜月状況も含め、パワーバランスが変わることになりそうだ。
 一番気になるのは、胡錦涛政権がどう動くかだ。東アジアの緊張緩和へと歩を進めるつもりならよいが、日米軍事同盟の弱体化が進み、米国が東アジアで力を抜いていくと判断すると逆に動くかも。鳩山政権は、“米国を外した”東アジア共同体設立を中韓に提案するのだから、中国がそう考えてもおかしくない。
 そうなると、実に厄介。

 中国はすべての国境で問題を抱えており、その辺りでの軍事力強化は着々と進めてきた。ここで、米国の抑えが効かなくなれば、どこで紛争が勃発してもおかしくない。なにせ、国慶節パレードで核搭載可能な移動式大陸間弾道弾をお披露目し、MD防衛網の無効化実現を誇示できたから、解放軍は力を発揮すべく大いに盛り上がっているのだ。(5)台湾への軍事侵攻に肯定的な組織であることを忘れるべきではなかろう。冒険的な動きをしないことを祈る以外に手はない。
 安保理サミットで核拡散防止を提言した手前、(6)新たなパワーバランスを設定する程度で収めてくれればよいが、どうなるか。

 オバマ大統領としては、欧州のプラハ、中東のカイロの次ということで、原爆投下の象徴である浦上天主堂(長崎地区カトリック浦上教会)で、方針大転換演説をしたいところだろうが、中国の動きが不透明だから、避けたと見てよさそうだ。(7)
 といっても、イラン・北朝鮮問題を1年程度で目処をつけないと、政権は立ち往生しかねないから、いずれ大きく動かざるを得まい。ノーベル賞受賞が政権浮揚効果を生むとも思えないし。
 ここで忘れてはならないのは、米国の本音。オバマ政権に変わったからといって、「日本は米国になにをしてくれるのか」体質が変わった訳ではなかろう。鳩山政権にメリットを感じなくなれば、勝手にご破算願いましてとなるだけのこと。
 日本は、米中の狭間で駒とされかねまい。

 --- 参照 ---
(1) 「オバマ米大統領、麻生首相よりもTVキャスター優先」 産経新聞 [2009.2.26]
  http://sankei.jp.msn.com/world/america/090226/amr0902261833015-n1.htm
(2) 今堀守通: 「【ラクイラ・サミット】麻生首相、外交でも存在感薄く」 iza [2009/07/10]
  http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/europe/276270/
(3) [例] 「行天豊雄の外国為替古今東西」 (株)マネーパードナーズ FX Column
  http://www.moneypartners.co.jp/fx_column/gyouten/
(4) “「米の文書詳述」 核密約で米国務次官補” 産経新聞 [2009.9.18]
  http://sankei.jp.msn.com/world/america/090918/amr0909182250011-n1.htm
(5) 「中国、軍事パレードでミサイル戦略の拡大を誇示」 産経新聞 [2009.10.1]
  http://sankei.jp.msn.com/world/china/091001/chn0910011856004-n1.htm
(6) 「胡主席 安保理サミットで核不拡散の5つの提案」[2009-09-25]
  http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2009-09/25/content_18603666.htm
(7) 「米大統領の広島、長崎訪問 「日程的に難しい」 平野官房長官」 産経新聞 [2009.10.8]
  http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091008/plc0910081236002-n1.htm


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