↑ トップ頁へ

2009.11.30
 
 


昨今の政治状況を眺めて[オバマ大統領のアジア訪問]…

オバマ大統領のアジア政策が見えてきた。
 オバマ大統領のアジア歴訪が終了したが、そこから何が読み取れるか考えて見た。
 ともかく、最重要視したのは米中首脳会談であることは間違いなかろう。残りは、そのための前段にすぎまい。従って、米中首脳会談のステートメント(1)が最重要文書ということになるが、読んだだけでは何を志向しているのかよくわからない。

 だが、これを受けて、温家宝総理と長時間の議論が行われている。(2)ここで具体的な政策の詰めが行われた可能性はかなり高い。
 両者の信頼関係が醸成されたのは、間違いなさそうなのは、趙紫陽政権でも活躍しただけあって、卓越した政治家だからである。江沢民スタイルとは違い、率直に話せるタイプであることを事前にアピール(3)しており、用意周到そのもの。

 その上、オバマ大統領も、友好関係を誇示するための観光に十分な時間を割き、米国伝統の人権外交色を取り払った。米国の姿勢が大きく変わったことは明らかだ。
 そうなると、ステートメントの意味するものは何か。

 常識的な判断では、「現状維持」による「安定」を図ろうとの、協調路線の枠組みが決まったということになる。
 と言うことは、以下のようにまとまったと見るのが一番自然である。名目上は「現状維持」だが、枠組みは大きく変わることになろう。そのスピード感が会議で調整されたということではないか。

  できる限り現状のままで、世界秩序を維持する。
    -米中関係の中心命題に、通貨と貿易だけでなく、地域安全保障を加える。
      (米国は中国の了解なしに、勝手に金融政策を進めないことでバーターか。)
    -しかし、今のところ、中国は米国と協力して世界規模で責任を負うつもりはない。
      (胡錦濤政権は“全世界的”なG2型への移行は拒否。但し、首脳会談の定例的開催は了解。)
    -東アジア6カ国協議による地域安定化を図る。
      (新たな地域の枠組みは一切作らないということ。)
    -北朝鮮非核化は時間がかかるが必ず実現させる。
      (北朝鮮の政権交代後でもかまわないということではないか。)
    -チベット・ウイグル地域での中国主権を確定する。
      (中国国内の政治的動揺を避けることを最優先事項とする。)
    -台湾に関しては、慎重に扱い混乱を避ける。
      (米中共に、台湾の経済的価値が低下しており、香港型解決で仮合意ということか。)
    -民主化運動や民族対立による混乱発生につながりかねない動きは慎む。
      (人権問題を外交の主要議題としない。)

  アジア-太平洋地域安定の柱を、日米安保から、G2協議体制へと変更する。
    -東アジア全域で、G2による軍事的安定化が図れるように進めていく。
      (中東〜パキスタン安定とシーレーン確保に中国が関与する。)
    -北朝鮮との交渉は、漸進的対処でなく、one package型解決で進める。
      (中国を責任者とした、6カ国マイナス北朝鮮の地域協議体常設化ということか。)
    -イラン核開発問題や、印パ関係改善といった外交に中国も関与する。
      (米国と協議しながらの中国の影響力拡大を図る。)
    -米国は中国の軍備抑制を求めない。
      (米中の兵器貿易につながるかも。)
    -解放軍費用を透明化する必要はない。
      (軍高官交流強化による密な情報交換で対応する。)
    -米国は、中国と周辺国の領土紛争には関与しない。
      (米国は同盟国であっても、領土紛争には係わらないということか。)
    -東南アジア・インドの軍備増強発生は副作用として容認せざるを得ない。
      (米国兵器輸出が進むということか。)
    -当面、日本の独自プレゼンスに向かう動きは容認しない。
      (米軍の自衛隊統治システム維持を確約したということか。)

  アジア-太平洋地域を世界経済の中心とする。
    -通貨安定のために、全面的に協力する。
      (当面、中国はドル債保有政策を続行する。)
    -米国の消費とアジアの生産という体制からの脱却を図る。
      (理念だけで、具体策は不明である。)
    -地域金融システム設立については積極策はとらない。
      (外貨融通協定の多国間化を急ぐだけで十分である。)
    -中国は対米貿易黒字追求策を止める。
    -資源価格高騰、資源争奪問題は棚上げする。

  通商問題は段階的な改善で対処するしかない。
    【米国の要求---貿易不均衡是正】
      -輸出依存から内需拡大への転換(貿易黒字削減)
      -為替操作型制度からの脱却(人民元切り上げ)
      -知的財産権保護
    【中国の要求---保護貿易主義反対】
      -セーフガード適応抑制
      -ハイテク製品輸出規制緩和

  COP15で協力する。
    -削減目標は設定しない。
    -クリーンエネルギー産業育成を図る。

オバマ政策の、日本への影響は大きそうだ。
 早い話、安全保障に関しては、日本の米軍駐留体制を維持し、日本の独自な動きは許さないという合意がなされたと言うこと。従って、オバマ政権は、日本に対して、ブッシュ前政権より強硬な姿勢を示す可能性が高い。
 経済では、東アジア経済圏の“安定的”発展につながる施策は打つが、新たな枠組は不要ということだろう。そして、徐々にドルの減価を図り、米国市場を当てにした経済運営を脱却しよういうことか。(4)簡単にできるとは思えないが。

 これは日本経済はもちろんのこと、鳩山政権にとっても、難題である。
 基地問題では、大所は変えようがないから、いくら話し合っても埒があかない。状況を動かしたかったら、オバマ政権が一番嫌がりそうな、反米運動を沖縄で勃発させるしかなくなる。しかし、そうなっても、米中での枠組みが合意されていれば、変えようがない。

 そして、さらに大きな問題は、米国市場が期待できなくなる点。オバマ政権は、米国での雇用を増やすために全力投球する姿勢を見せているから、それに対応した動きができないと、日本の米国輸出型の製造業は試練に晒されること間違いなしでは。
 東京での演説では、(5)鎌倉の抹茶アイスクリームの宣伝はしてくれたが、日本の雇用を米国に移転する施策を打ち出すと宣言したようなもの。ポイントは以下のようなところか。
  ・米国製品をより多く輸出し、その過程で米国で雇用を創出
  ・経済共同体はEAS中心(米日韓+中+ASEAN+印+豪NZ)
  ・日、韓、豪、タイ、フィリピンとの協定による同盟関係には不変のコミットメント
  ・中国とは実用主義的協力を追求

鳩山政権は「日米同盟」重視の意味を明確にする必要があるのではないか。
 どうも、オバマ政権は、できる限り現状を維持しながら、日米安保基軸政策から脱しようと動こうとしているように見える。と言うことは、米国にとっては、日米首脳会談に、たいした意味はなかったのかも。内外に、両国政府が意志疎通できていることを示しただけではないか。(50億ドルのアフガニスタン支援の“お土産”はあったが。)
 もしも、この見方が当たっているなら、鳩山政権の「日米対等」+「日米同盟重視」外交路線はこの先摩擦を生むかも。

 鳩山政権は、密室政治を止め、以下のようなやり方で、世論の風を気にしながら方針設定を進めているようだが、国内問題ならなんとかなるが、相手がある外交では動きがとれなくなるのではないか。
  (1) 先ず、閣内から、様々な意見をぶちあげる。
     例えば、・・・
      ・インド洋上給油活動撤収
      ・アフガニスタン独自貢献
      ・アジア共同体からの米国外し
      ・思いやり予算見直し
      ・日米地位協定見直し
      ・日米相互協力見直し
      ・安全保障条約の見直し
  (2) “国内”メディアと世論の反応を伺う。
  (3) スタッフが実践的なオプションを整理する。
  (4) 関係閣僚と官邸でグループ討議し、オプションの優劣を検討する。
  (5) 首相が最善な方針を裁断する。

 要するに、所信表明演説以上の方針は皆無ということだろう。 
 これでは、「日米同盟重視」と言っても、相互に何を期待し、何を貢献するつもりなのかさっぱりわからない。(「米軍基地ゼロ+独自防衛」の道を目指し、方向感無しに、模索しているだけにも見えるが。)

 この手法は下手をすると全体感を失う。それに、反米運動でも煽られると、外交的に解決する道がふさがれたりして、危ない橋を渡ることになりかねないのでは。
 しかも、「核密約」という火種をほじくり返しており、両国で大騒動。できる限りオープンな政治を目指し、真面目に対処するのは結構な話ではあるが、“時と場合”を考えて欲しいものだ。
   → 「オバマ政権の鳩山新政権への対応」 (2009.10.12)

 混乱を避けようということなら、現状を少しづつ変えることになるが、これも考えもの。“一歩づつ”進めようというのは素人ウケするが、やめたほうがよかろう。(朝三暮四で行こうというなら別だが。)
 問題を片付けたいなら、先ずは、一番解決が難しく、影響が甚大な問題は何であるか、はっきりさせることに尽きる。普通はこれが解決しない限り、何をやっても、たいした効果は生まれない。いくら努力をしても、水疱に帰すだけ。
 解決策が見つからないなら、見つけるためにはどうしたらよいか考えるしかない。なんとなく、明かりが見える感じがするなら、それを確認するために何をすべきか考えるべきだろう。

 鳩山政権は、「日米同盟」重視の意味を明確にしないまま、今のような姿勢の外交を続けていると、どん詰まりに追い込まれるのではなかろうか。

 --- 参照 ---
(1) “Joint Press Statement by President Obama and President Hu of China @Great Hall, Beijing, China” [November 17, 2009]
  http://www.whitehouse.gov/the-press-office/joint-press-statement-president-obama-and-president-hu-china
  “中米共同声明、戦略的相互信頼の強化を強調”民網日本語版[2009年11月18日]
  http://www.peoplechina.com.cn/xinwen/txt/2009-11/18/content_230286.htm
(2) “温家宝総理とオバマ米大統領が会談 「G2論」に賛成しない ” 人民網日本語版[2009年11月19日]
  http://j.people.com.cn/94474/6817712.html
(3) “温家宝総理から新華社編集長室への訂正依頼” 人民網日本語版[2009年10月12日]
  http://j.peopledaily.com.cn/94474/6781861.html
(4) Ambassador Ron Kirk: “Pursuing Economic Growth and Opportunity”The White House Blog [November 18, 2009]
  http://www.whitehouse.gov/blog/2009/11/18/pursuing-economic-growth-and-opportunity
  Ambassador Ron Kirk: “Working to Boost American Exports, Grow American Jobs Through Trade with the Asia-Pacific”
  The White House Blog [November 14, 2009]
  http://www.whitehouse.gov/blog/2009/11/14/working-boost-american-exports-grow-american-jobs-through-trade-with-asia-pacific
(5) 「バラク・オバマ大統領の演説 @サントリーホール」 [2009年11月14日]
  http://www.whitehouse.gov/files/documents/2009/november/president-obama-remarks-suntory-hall-japanese.pdf


 政治への発言の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2009 RandDManagement.com