↑ トップ頁へ

2009.12.29
 
 


昨今の政治状況を眺めて[普天間問題の先送り]…

案の定、鳩山政権は安全保障問題でドン詰まり状態だ。こまったもの。
 2009年12月26日、鳩山首相は、米軍の抑止力の観点からグアムに普天間のすべてを移設させるのは無理と述べたそうである。
 しかし、その翌日、「これから年末に連立政権の中での協議がはじまります。そのなかで、普天間の移設先というものをどのように見いだしていくかという議論をしていきたいと思っていますから、そのなかの一つの考えとして、申し上げました」と早速に言い直し。(1)

 案の定、右往左往状態。これでは、どん詰まり間違いなし。
 首相にしてみれば、想定の範囲内だろうが、直接の関係者にとっては、なにがなんだかわからず、たまったものではなかろう。
   → “鳩山政権は「日米同盟」重視の意味を明確にする必要があるのではないか。”
      「オバマ大統領のアジア訪問」
 (2009.11.30)

 現政権の意思決定スタイルを、外交問題に当てはめるとえらいことになると思うが、民主党の体質上わかっていても、それは無理なのかも。

 民主党は、野党時代に、参議院で、与党議員も含めて、真面目に政策を議論する体質が染み付いてしまった。その上、脱官僚型の政治主導で進めようと意気が上がっている。裏での根回しなど無いから、閣僚から議員まで、それぞれ勝手な意見を表明するしかない。
 様々な意見に対する世間の反応を見ながら、適当なところで最終決定というのが基本手法になった訳だ。

 ボスの密室談合と官僚による調整のセットで政策を決める手法を捨て去ったという点では、大転換。今まで見えなかった議論が表にでてくるから、政治は面白くなってくるに違いない。
 しかし、外交案件に、この手の進め方をしてはまずい。オープンにできないことは余りに多いからだ。外交文書は玉虫色として、微妙なところは明確にしないことが多い。特に、軍事に係わってくれば、表立って言える訳がない。

 オープンなスタイルで外交されたのでは、オバマ政権のイライラは募るばかりではなかろうか。

オバマ政権は、日本に気を遣っているとのメッセージを送っているのに。
 こんな話をする人もいるだろうが、たいていは、結論がつまらぬ。リーダーシップなき首相はこまるぜということで終わるのだ。当たり障りのない批判で終えたいのかも知れぬが、こまったものだ。
 と言うのは、問題はどう見てもそこではないから。

 肝心なのは、日米同盟とは何かという点。民主党政権は、ここを曖昧なままで行こうとしているが、そうはいくまい。
 オバマ政権は、鳩山政権はまだ意思一致ができていないと見ており、辛抱強く結果を待っているだけではないか。
 しかし、何時までも待てる訳がなかろう。

 おそらく、オバマ政権が痺れを切らしながら期待しているのは、鳩山政権が「駐留なき安全保障」論を葬りさること。
 プラグマティックなオバマ政権にしてみれば、そんな夢物語を議論するなど時間の浪費以外のなにものでもなかろう。一番の課題とは、現実の軍事的脅威に、日米同盟がどう対処するかなのでは。そこに一歩も踏み込めないままだと、フラストレーションで爆発しかねまい。

 それでも、米国の国益に反する日本核武装というブラフをかけかねない麻生政権よりは、ずっとましと見ているかも。とりあえず、ただただ我慢するしかないと考えているのだろう。
 実際、その気遣いようはたいしたもの。普天間問題で日本大使を呼びつけていないと表明したからだ。(2)
  【QUESTION】   I had heard she[Secretary Clinton] called him in to talk about Futenma. ・・・
  【MR. CROWLEY】 I think the Japanese ambassador came by to see
     both Assistant Secretary Kurt Campbell, stopped by to see Secretary Clinton.・・・
  【MR. CROWLEY】 (calledではないのかと訊かれて)
     I don't think he was called in.
     I think actually he came to see us.

 これが、どこまで本当かはわからないが、もし本当だとすれば、訪問を日本のマスコミにリークしたのは、駐米大使ということになる。それは大使が相当な危機感を抱いているということを意味する。
 このままなら、日米の意思疎通が上手くいかなくなりかねないと考えたもかも知れぬ。

グアム移転不可能な理由説明は無理なのでは。
 こんなことがおきているとしたら、オバマ政権は、日本政府が当初の計画に沿って事態をまとめるものと考えているのかも。ただ、沖縄での選挙対策上、政治決断が遅れていると見ているということ。
 しかし、どう見ても、日本の政治状況はその方向にはない。

 なにせ、“民主党がマニフェストで掲げていた通り「グアムに移転してもらう」というオプション”がでてくるという意見が、未だにとびかっているからだ。

 まあ、そう考えるのは、わからないでもない。
 宜野湾市長が指摘しているように、(3)米国は、海兵隊を沖縄からグアムに全面撤退させる方針だったのは間違いないからだ。
 状況を簡単にまとめてみようか。
   【1996年段階】
    [米軍の姿勢] 普天間飛行場のヘリコプター運用機能を、沖縄県内他地域に移転させる。
    [自民党政府の姿勢] ヘリコプター基地は沖縄県内しかあり得ない。
            普天間代替は辺野古湾付近に基地新設と他地域の施設強化で対応する。
   【2006年段階】
    [米軍の姿勢] 第3海兵機動展開部隊を、2014年までに、沖縄からグアムに移転させる。
            発表は、“司令部機能だけがグアムに行く”とする。
    [自民党政府の姿勢] 米国の全面移転方針は、“正式な決定ではない”と見なす。

 ほほ〜。そういうことなら、グアム全面移転ありだねという見方がでても、全くおかしくない。
 しかし、どうしてそうなったのか、考えないと読み違うのでは。

 まず、おさえるべきは、普天間飛行場は古い基地という点。
 米軍にしてみれば早急に手を入れたかったのは間違いない。しかも、移転せざるを得ないような場所にある。日本政府が移転費用を出すならそれに乗ろうというのは自然な対応。それが1996年段階。
 橋本首相がご満悦で基地移転を発表してのを覚えている人もいよう。しかし、その後、基地反対運動でなにもできない状態が続いたのである。それは今も同じ。
 それはさておき、1996年段階は「沖縄県内他地域移転」なのに、2006年段階は「全面グアム移転」に変わった理由を考えておく必要があろう。

 別に難しいことではない。
 1996年とは台湾海峡危機の時。総統選挙での独立派勝利の流れに対して、人民解放軍が軍事圧力をかけたのである。これに対して、クリントン政権は空母を急派したことを思い出す人もいよう。
 米国政権は、イスラエルと台湾を見放す訳にはいかないのだから、地図を見れば、ヘリコプター基地を沖縄に置く必要性は歴然としている。(下地島は給油基地として使う算段だろう。)
 それだけのこと。

 それが、2006年になって変わったのも合点が行く。米中蜜月時代が訪れ、米国の比類すべくもない強大な軍事力があれば、台湾海峡にヘリコプター部隊を即時送る体制を敷いておく必要がないと考えてもおかしくなかろう。

 問題は、この2006年の方針が、2009年にも通用するかだ。
 米軍がそう見ているなら、オバマ政権はそんなシグナルを送ってきた筈である。ところが実際は全く逆である。
 米国の高官が、くり返し、外交的に決まったことだから、履行せよと強硬に要求しているのを知らない訳ではなかろう。素人政治家ではないのだから、そんな姿勢を日本で示せば、反米感情を呼び起こすことなど、百も承知。
 本当の理由を表立っては言えないが、軍事的に沖縄にヘリコプター基地は不可欠との意思表明と見るのが自然である。

普天間基地のあり方は、中国の脅威の評価で決まるということ。
 これだけで、何を言いたいか、おわかりだと思う。
 問題は台湾海峡なのである。ここが“平穏”なら、グアム移転オプションはアリ。
 しかし、“不穏”と見るなら、ナシ。実に単純明快。

 要するに、米国は、2009年現在で、“不穏”と見たということ。
 ただ、そんな話を表立って語れる訳がなかろう。
 それに、人民解放軍の状況は、誰もよくわからないのである。もともと、毛沢東の作った軍隊はソ連型ではなく、小さな独立国家機構に近いもの。管区毎に完全に独立した組織を編成していて、そこは経済単位でもある。共産党の軍事委員会組織は、そのなかに入り込んでいるにすぎない。従って、国家主席が全軍を掌握しているとは限らない。

 つまり、政府が、経済的に、米国と「同舟共済」路線を走っているからといって、解放軍もその方向に進むとの保証はないということ。

 それでは、具体的にどんな動きがあったか、日本での報道をふりかえってみよう。
   米国中枢との対決能力増強
    ・移動式長距離弾道ミサイル配備(4)
    ・衛星破壊実験(2007年)
   南シナ海支配力の徹底強化
    ・西沙/南沙諸島の完全支配(軍事基地化)(5)
    ・空母建造進展中(6)
    ・海南島潜水艦基地周辺での米海軍との紛争(7)
   中印国境紛争継続(8)

 これなら、日本も中国の動きを警戒しているに違いないと、オバマ政権は考えているかも知れないが、それは多分間違い。おそらく、ほとんどの人はこれらをベタ記事扱いしている筈。多分、騒ぐのは嫌中派。
 そして、政治家も、下手に荒立てたくないと考えていそうだ。民主主義国家ではないから、都合の悪い話をすると、経済関係に影響がでるからだ。

 要するに、日本の見方は、台湾海峡は“平穏”。
 一方、米国は、“不穏”と見ているが、対外的には“平穏”と語っているということ。
 繰り返すが、“不穏”なら沖縄のヘリコプター基地は不可欠。関西空港代替などあり得ない。

台湾海峡は皆が“平穏”と口を合わせるが、“不穏”の可能性もある。
 鳩山政権のまずいところは、米国の世界レベルでの軍事戦略に係わりそうな問題をほじくろうとしている点。
 常識で考えればわかると思うが、米国は、台湾海峡“不穏”とは口が裂けても言えない。状況を明らかにして、オープンな議論を始める訳にはいかないのである。
 お陰で、両者の意思疎通が上手くいっていないのかも。
 そうなると厄介そのもの。

 当たり前だと思うが、オープンとは、正直に口に出すことばかりではない。米国政府は、“不穏”であるとは語らない。しかし、それを示唆するようなデータは示しているのである。(9)
 よくまとまった資料だから、読めば人民解放軍の状況がよくわかる。
 今でも人民解放軍は膨大な軍人を抱えているが、全体の数は減っている。その代わり、徹底的な近代化路線を邁進しているというのが全体の状況。
 ところが、こと台湾海峡対応部隊(南京軍区の陸軍)だけは、方向が違うようなのである。経済大発展地域で、治安維持のために軍隊を強化する必要性があるとは思えないし、この地域で他国の脅威がさし迫っている訳がない。その目的は、悲願の台湾解放戦争しかありえまい。
 人民解放軍が、台湾に大規模上陸し、正規戦というのは、地形上からも考えにくいが、一般常識が軍隊に通用することは滅多にない。決起したら、徹底的に、一気に、という意気込みなのだろう。
 しかも台湾に向けたミサイル配備を着々と進めているようだ。こちらは、素人にもわかり易い動き。最初の一撃で制空権を壊滅させ、重要施設への急襲で統治システムをを麻痺させるのは鉄則。通信網を遮断して、乗っ取れば、ほぼ制圧とのシナリオだろう。米軍関与さえ防げるなら、即時実行のつもりかも。
 まあ、軍隊とはそんなものである。

 共産党中央指導部が、いくら“平穏”を旨としてしても、軍隊の実態は違うかも。まさか、米国が偽情報を流している訳でもなかろう。
 中国が大損失覚悟で、台湾の武力解放に踏み切る訳がなかろうとの説が主流だが、それはビジネスマンの発想である。人民解放軍はあくまでも武力解放路線。それがレゾンデートルということを忘れるべきではない。

オバマ政権の状況を考えた交渉が必要だろう。
 だらだら書いてしまったので、まとめておこうか。

 オバマ政権としては、台湾海峡を“平穏”のままにしておきたいから、“不穏”と言い出して騒ぐことはなかろう。胡錦濤政権も、武力制圧を否定しないとはいえ、とりあえず今のママでという方針と思われる。
 しかし、現実を眺めれば、そうなるとは限らない。人民解放軍にとって見れば、“台湾解放”だけが最後の課題として残っているからだ。そんな状態で、軍備を拡張すれば、いつか戦乱の火蓋が切り落とされるのが世の常。冷静に眺めれば、台湾海峡は“不穏”なのである。
 従って、米軍は、人民解放軍の軍事力強化に対して、何もしない訳にはいくまい。少なくとも沖縄のヘリコプター基地は常時稼動ということになろう。基地撤退は“不穏”な動きを誘発しかねないというのが、軍人の見方の筈。

 この状況を知りながら、鳩山政権が“沖縄のヘリコプター基地の常時稼動”に反対姿勢を見せたなら、それは日米軍事同盟解消に進む決断とみなされて当然。
 要するに、普天間基地問題とは、例えば、以下のような米国の軍事方針を納得し、協力していくのか、反故にするのか問われているということでもある。
  【地域防衛常備軍の戦略拠点を日本に設置する。】
  ・陸軍の地域参謀本部を日本の中枢に設置(空海軍/自衛隊との連携)
    -電子諜報網の徹底強化
    -軍事拠点のミサイル防衛体制構築
  ・空軍は嘉手納基地に集約
    -地域レーダー網の網羅化と緻密化
    -日本全国の基地即時利用体制構築(米軍非常駐化)
    -訓練体制の高度化
  ・海軍は横須賀基地を拠点としその補助基地網を整備
    -空母常時稼動体制の維持(米軍のグローバル配備に対応)

 米国は、前線近辺の要衝への戦力配備型から、機動的に配置可能な体制へと大転換を図ってきた。それで十分な抑止力が生まれるとの思想だ。2006年のグアム移転方針はこの方針による再編でしかない。移転先は米国本土でもよかったところを、日本政府の要求でグアムになった可能性さえある。
 しかし、現時点で考えて、この「機動型」が奏功していると考える人はいまい。プラグマティズムの政権からすれば、この方針に拘泥することなどあり得ない。

 おそらく、本音では、沖縄の基地をそのままにしておきたい筈。
 だいたい、米軍は沖縄問題どころではない。非民主的勢力に政治/軍事的に敗北を喫しており、その処理だけでも頭が一杯なのだから。しかも、北朝鮮とイランが軍事的挑発活動を強めている。
  ・バース党復活を容認し、イラクから撤退。(実現したもの何もなし。なんの権益も確保できず。)
  ・アフガニスタン/パキスタンでのタリバン優勢の確定。
  ・イエメンとその対岸でのアルカイダ勢力の活動が公然化。

 そんな状況を知りながら、「駐留なき安全保障体制」の議論を始めたいと呼びかけたら、オバマ政権がどう感じるか、考えた方がよいのではないか。

 基地を抱える沖縄の人々にとっては、たまらない話ばかりだが、残念ながら、これが現実である。

 --- 参照 ---
(1) “【鳩山ぶら下がり】普天間移設「連立で抑止力も議論」(27日朝)” 産経新聞 [2009.12.27]
  http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091227/plc0912271614008-n2.htm
(2) U.S. State of Department-Daily Press Briefing [December 22, 2009]
  http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2009/dec/133952.htm
(3) 伊波洋一(宜野湾市長): 「普天間基地のグァム移転の可能性について」 @沖縄等基地問題議員懇談会 [2009/12/11]
  http://www.city.ginowan.okinawa.jp/2556/2581/2582/37840/37844.html
(4) 山本秀也: “中国、軍事パレードでミサイル戦略の拡大を誇示” 産経新聞 [2009.10.1]
  http://sankei.jp.msn.com/world/china/091001/chn0910011856004-n1.htm
(5) 野口東秀: “南シナ海で“不沈空母”として要衝 元中国軍副総参謀長提言” 産経新聞 [2009.6.27]
  http://sankei.jp.msn.com/world/china/090627/chn0906272045004-n1.htm
(6) “中国、空母建造の準備完了か 民間機関が造船所の内部写真を入手” 共同-産経新聞 [2009.4.16]
  http://sankei.jp.msn.com/world/china/090416/chn0904161802005-n1.htm
(7) 有元隆志: “米政府中国に国際法順守求める 中国艦船による米海軍艦船妨害” 産経新聞 [2009.3.10]
  http://sankei.jp.msn.com/world/china/090310/chn0903100843003-n1.htm
(8) 田北真樹子: “中印に新たな火種 ビザ発給で応酬” 産経新聞 [2009.10.5]
  http://sankei.jp.msn.com/world/asia/091005/asi0910052346007-n1.htm
(9) “Office of the Secretary of Defense: “Military Power of the People’s Republic of China 2009” ANNUAL REPORT TO CONGRESS
  http://www.defense.gov/pubs/pdfs/China_Military_Power_Report_2009.pdf


 政治への発言の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2009 RandDManagement.com