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2013.9.19
 
 

汎アラブ世俗主義打倒が最優先課題か…

突然、柄にもなく一寸キリスト教的「使命観」の話をしたので驚かれた方もいらっしゃるかも。
  → 自己実現文化について [2013.9.18]]

実は、シリア問題への対応を見ていると、この辺りが俄然気にかかってくるのである。

それはイラク侵攻の推移を見ているからでもある。
独裁者フセイン打倒の「気分」はわからぬこともない。クルドへの神経ガス攻撃、イランやクウェートへの侵攻、はたまた米国との戦争となればイスラエルへのミサイル発射と、地域安定の癌と見られても致し方なき政権だったから。
しかし、それを放置していたのは、地域全体を考えると、限定的な対立抗争がそこそこ発生している方が、アラブ全域を巻き込む大混乱よりはるかにましだからだろう。口に出して言う訳にはいかないが、そこら辺りは常識だと思っていた。
ところが、どういう訳か、ブッシュ大統領はイラク侵攻に踏み切ったのである。一体、どういうメリットがあるのか首を傾げざるを得ない方針。まあ、石油権益だろうと考えるしかない訳だ。しかし、終わってみれば、米国にとっては、カネを湯水のように使っただけで、経済上の見返りはほとんど無し。そして、肝心のイラクにしても、世俗国家から宗教色の強い社会へと変わってしまった。
人権とか、自由という点での戦いというなら、何も得るものはなかったと見てよいだろう。そして、案の定、治安はどうにもならぬほど悪化。国内の宗教と部族対立にかこつけたテロが日常化。圧政のフセイン時代の方がましと見て間違いないだろう。米軍完全撤退となれば、事態はさらに悪化していくこと必定である。
・・・米国政府は何をしたかったのか、さっぱりわからぬ。

その次がリビア
こちらも独裁者カダフィ打倒の「気分」はわからぬこともない。だが、実態はカダフィ政権が言っていた通りで、アルカイダ型の無国家宗教原理主義者が闊歩しかねない土壌なのは間違いない。しかも、それと親和性がある部族主義が横行している訳で、独裁以外に国家として纏めるのはまあ無理である。
従って、独裁者が消えれば、偏屈な宗教政治国家として統一されてしまうか、戦乱を前提にした群雄割拠の地域化しかあるまい。
にもかかわらず、米国は、そちらの方向に振ったのである。これで、マグレブ一帯の安定は失われたも同然。
欧州にとっては、石油の利権が絡むから、それなりの打算が働くだろうが、米国にとってはカダフィ政権を打倒したところで、なんの利益にもならない筈。
・・・米国政府は何をしたかったのか、さっぱりわからぬ。

そして、シリアである。
オバマ大統領はアサド政権打倒の意図なしとするが、英仏首脳の姿勢を見れば明らかのように、軍事的な圧力を加えることで消滅の方向に進めたいのは明らか。
血塗られた政権であるのは昔から知られているが、それは少数派が支配する国家なのだから当たり前。もともと、民族や宗教分派がモザイク状に集まっている人工造成国家であり、それは半ば宿命。
ここで下手に動乱でも発生すれば、ドミノ現象で周囲にも戦乱が飛び火するから、手をつけるなというのが鉄則だった筈である。にもかかわらず、冒険主義的に、アサド政権打倒の動きを「喜ばしいもの」としたのだ。
米国民から見れば、自国にとって意味がある地域に映る筈もないから、係わり合いになるなとなって当たり前だが、為政者はそうは考えていなかったのは明らか。だが、かかわりあいになれば、トンデモない事態も予想されるのはわかっている筈。
・・・米国政府は何をしたいのか、さっぱりわからぬ。

さて、これが3題噺なら笑ってすませられるのだか、現実の政治問題だからそういかない。米国政府の方針がなんだかわからないでは、方針のたてようもなかろう。それに、同盟国でもあるのだから。
とりあえず適当に波長を合わせてという調子だと危険である。どうしてこうなるのか、解明しないことには、突然にして同盟関係破棄から、敵対関係へと進むこともなきにしもあらずということ。

ともかく、アラブ一帯で見ると、米国はここでの覇権国として振舞う気は無くなったと見てよさそう。あれほどコミットしていそうに見えたイラクにしても、統治方針などもともと無いに等しく、当初からイラク人にまかせればことは片付くという調子だったし。地域全体を考えた、軍事戦略もほとんど感じられない。
せいぜいが、湾岸諸国への侵略防止と原油輸送ルートの安全性確保だけは果たすというだけ。それ以上でもなければ、それ以下でもなさそう。

それなら、イスラエルの国家存続に脅威を与える要因を除去という方針があるのかと言えば、どうもそれも当てはまりそうにない。圧倒的な軍事力を保有するイスラエルから見れば、一番厄介なのはムスリム同胞団系であり、これら3カ国の独裁者を打倒すると、その勢力が国境を越えて地域全体で一気に盛り上がってくる可能性があるからだ。
そもそも、フセイン体制を打倒すれば、人口の過半を占めるシーア派勢力が強大化し、宗教的に連帯感を抱くイランと連携することで地域不安定化に繋がるのはわかっていたこと。そうなれば、アサド政権がイランと同盟関係強化に進むのも当然の流れ。米国は、そんなことは百も承知な筈にもかかわらず、そのような方向を阻止することをしなかった。なんだかね。

そうなると、残るはサウジアラビア支援。シリア侵攻で軍事費不足なら、ここがお財布という線を狙っているともいえるかも。アラブはサウジのカネで安定してもらえば結構という方針なら、イラク、リビア、シリアでの米国政府の姿勢はピッタリ合う。
だが、サウジとは宗教独裁国であり、人権を重んじる体制への転換などおよそあり得ない。米国政府が、そんな国家を支持し続けるとしたら、カネということになるが、そこまで割り切るとは思えまい。

うーむ。難しい。

だが、すべてサウジアラビアが喜ぶ方針だとすれば、米国の方針の背後に堅固な思想が流れている可能性があるかも。
フセイン、カダフィ、アサドに共通するのは、汎アラブあるいは汎アフリカを掲げるような「世俗主義」。反政権的な動きを見せなければ、民族や宗教に寛容であり、習俗についての自由度もあり、西欧文化にも開放的。しかし、根本的に信用しかねる政治体制であり、最初に打倒すべき対象ということか。そういえば、この思想、この他に残ってい国は無い。アサド打倒で消し去ることができることになる。
宗教原理主義者は方向は全く違うが、その心情は理解できるので大目に見るが、この手の世俗主義者は容赦すべきではないと考えている訳かナ。

この思想をアジア地域に当て嵌めるとどういうことになるのだろうか。
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