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2015.9.18

日本孤立化だけは阻止したいもの

"Japan enjoys a relatively positive image, except in China and South Korea."ということだが、それを中国孤立化と見なす論調を時々みかけるが、その見方は避けた方がよかろう。

例えば、以下を見ればどういうことかわかるのでは。

  <イスラム教圏の日本観@favorable%>
 マレーシア  84% 中国観78%
 インドネシア 71% 中国観63%
 パキスタン  48% 中国観82%

巨大人口の国であり、調査がどれだけ実情を示すことができるかを考えると、頼りない数字であることは間違いないが、これを見れば、単純に、日本が中国より好かれていると見る訳にはいくまい。
両者には、そうたいした違いが無いと考えるべきでは。日本が好まれるのは、政治的に口出しをしない体質で、経済梃入れに寄与してくれる感があるからというに過ぎまい。政治的主張を感じたりすれば、すぐにこの数字は落ち、パキスタンでのように嫌いな国の仲間入り。ソリャ当たり前で、パキスタンに核保有など許し難しとして接してきたのだから。
中国は絶対にそのような姿勢はとらない。いかに悪辣な独裁政権だろうが、他の覇権国より中国との交流を重視するなら、全面支援で最恵国的扱いも厭わない訳で。それこそが中華思想の一片でもあり、なんら特別な思慮が働いている訳ではない。

しかし、キリスト教国なら違うと都合よく解釈したくなるが、その辺りも冷静に見ておく必要があろう。
オーストラリアやフィリピンのトップのアンチ中国的発言が新聞に紹介されることが多い。しかし、そんなものは口先にすぎない。いかに過激なことを言おうと、具体的な動きになれば、すぐに腰砕けである。国民全体として、反中国感情どころか、好意感に包まれているのだから。
  <キリスト教圏の日本観@favorable%>
 オーストラリア 80% 中国観57%
 フィリピン   81% 中国観54%

要するに、民主主義国家としての体面をとりつくろうため、ある程度過激でも、反独裁国・反覇権主義的な発言は必要というにすぎない。
なにせ、一番の問題は、米国がこの地域から軍事的に手を引いていくため、バランスが大きく崩れ始めている点。スピーチで、その変化スピードを落とせるならこれ以上素晴らしいこと無しというにすぎまい。
例えば、資源国オーストラリアにとって、将来を考えれば、中国が最重要パートナーであるのは間違いなかろう。老衰国日本との紐帯を掲げる政治家がいるなら、それは何らかの目論見があるから以外のなにものでもない。それが冷徹な国際政治というもの。従って、技術公開の潜水艦輸出など要注意話と見る。 [→]

それに、インドにしたところで、日本に好感を持っているとは言い難い数字。中国とは古くから国境紛争を抱えているにもかかわらず、日本とたいした違いはない。インドの政治家の視点で眺めれば、日中を天秤にかけて友好相手をどちらか1つ選べとなれば、他との関係を無視できるなら、ソリャ間違いなく中だろう。50%を切るということは、好かれていないことを意味する訳で、誤解しない方がよかろう。

 インドの日本観 46% 中国観41%

オーストラリアの姿勢を見ればわかるが、それは米国にとっても全く同じこと。
最重要パートナーはあくまでも中国である。中国あっての世界経済なのだから当たり前。

ただ、米国では覇権国たるべしとの民意が強いから、時にして、口先の中国批判の言葉は過激になる。
もちろん、ここ最近はネガティブな見方が広がってはいる。それは覇権が移行しているのが面白くないというにすぎまい。現実的には仕事が奪われているキャンペーンが拡がっていることの影響だと思われるが、それはTPP反対と同じような性格。
リーマンショックでのアブソーバー的役割には拍手喝采な訳で。但し、根っからの共和党支持者と老人はどうだかわからぬが。その辺りの人達は、本心では日本も好きではなさそうだし。

 <米国での中国観@favorable v.s. unfavorable>
 2015年 39-54
 2014年 35-55
 2013年 37-52

 2012年 40-40

 2011年 51-36
 2010年 49-36
 2009年 50-38

 2008年 39-42
 2007年 42-39

言うまでもないが、中国共産党とは言論・宗教抑圧を旨とする軍事独裁を進めるための組織である。従って、本来的にはキリスト教国である米国で"favorable"にはなり難い筈。しかし、それはそれ、生活を考えれば仲良くするにこしたことなしである。そもそも、チベットやウイグルの人権抑圧問題など、遠の昔に両国間で政治的に封印することに決めたのである。だからこそ中国がグローバル市場に入ってこれた訳で。それが米国流の打算。

そんなことが可能だからこそ、完璧な宗教独裁の産油国と同盟関係を維持できるのである。中国はそれに比べれば、ずっとつきあい易い筈。体質的に親和性があるからだ。(米国は人種の坩堝を信条とする覇権国で、同様に覇権大国化を信条とする中華思想とは親和性があっておかしくない。記述文字を共有することで漢民族化を進めて行く国であり、よく似ているからだ。(2大国で世界を統治する話なら、当座、両者ともに満足できる方策である。)
そんな観点で眺めれば、日本観の方は当てにはならぬ。カネの切れ目は縁の切れ目。その気になれば、いとも簡単に"鬼畜米英の神国"と見なす用意ができている訳で。米国政治に影響力を与えるような工作はしないというのが、日本外交の鉄則らしいから、そのリスクは抱えたまま。

そんな外交を続けているから、米国で、日米軍事同盟が世論的に米国で人気が湧く筈がない。
米国の第一義的優先事項は、中国への経済進出であり、資本の自由な移動。軍事バランスとは、その仕組みを護るためのもの以上ではない。日米同盟とは、そのなかの一部分でしかなく、不要になれば放棄されることになろう。

欧州など、遠の昔にその方針に沿った中国シフトが進んでいる。ドイツにとっては、イの一番が中国との親密な関係維持である。いかにもオバマ政権とは相性が悪そうな、メルケル独首相の対中外交の動きを見れば一目瞭然と言えよう。すでに第一義は米国ではなく中国。
中国との緊密な連携こそがこの先生き残る鍵と見ている訳だ。

東アジアの米国のパワーシフトを見れば、誰だってそう考えるのでは。・・・
維持には膨大な費用が発生するにもかかわらず、人民解放軍は敢えて南沙に軍事基地を構築するのだから。
すでに、沖縄-台湾-南沙諸島ラインの西側の海で米国海軍は存在しないと言ってよかろう。米軍幹部がいくら口頭で中国脅威に対抗すると言おうが、軍事的に引き上げつつあるのが現実。米軍は、南沙では、なにもできない。無い袖は振れないだけの話。国内向けなのか、外交なのか判断がつかぬが、口先だけは威勢が良いが。(時々、海南島周辺に飛行部隊を派遣するが、軍事的にはほとんど意味が無い。)
当然ながら、米国が撤退した領域は中国の軍事支配下になる。防空識別圏拡大とは、唐突に見えるだけで、基本的に米国政権との長期に渡る暗黙の了解の下に進んでいる以外のなにものでもない。両国に齟齬が生まれたとすれば、パワーシフトのスピード感の違いに過ぎない。

中国沿海エリアは中国軍の支配下ということで、米中は了解済みということ。表明できないだけのこと。従って、その外部への領域拡大が人民解放軍の現在の使命ということ。台湾併合の地ならしとして、台湾の外のグアム以西の太平洋圏、日本海はもちろんのこと、北のアッツ島にまで力を発揮できる体制構築に進んでいる訳だ。

つまり、国賓として歓待を受ける習主席とオバマ大統領の会談の肝は、台湾併合と朝鮮半島の中国圏化のステップということになろう。換言すれば、資本移動を含む、中国市場のさらなる開放と、進出米国企業保護の確約とのバーターで東アジアの地勢図が決まるということ。
経済成長のタネは中国にしかないのだから、プラグマティズムに立つ限り、他に選択肢は無い。
サイバー攻撃、南沙埋立軍事基地化、弁護士弾圧、等々の暴虐許さず式の声明は、支持率低下を防ぐめの政治的方便でしかない。いかにレトリック的に演出するかに精を出しているだけ。

ともあれ、世界経済は中国で持っている。それに深く関与できるドイツと米国が経済好調となる訳で、これに乗せてもらおうと蠢くのが、周辺国との図が出来上がってしまったのである。
日本はこの流れに乗るのは極めて難しい。日中ともども、民が"favorable"ではないからである。国境での戦争を経験し、今も海上での漁民のトラブルに直面している、歴史的に長い対立があったベトナムの数字より低いのだから、簡単にどうにかなる話ではない。

 日本の中国観  9
 ベトナムの中国観 19

ちなみに、習政権の反日政策は国内的には大成功を収めている訳で、そこらも間違わない方がよい。臥薪嘗胆の儒教国では子々孫々までかけで恥辱をあらがうためになんでもする。中華思想の国であるから、これだけはいかようにもし難い。

 中国の日本観 12

もともと、抗日戦線の当事者は中華民国政権であるが、そちらも本来的には変わらない筈だが、存立基盤を米軍に依存しているから方針を転換したのだろう。それはただならぬこと。日本的儒教道徳者からみれば、台湾には恩義ありと感じるに違いない。
ここらも、台湾併合の時代を迎えることになると、問題が生じる可能性があろう。

なにせ、日本社会は老衰化一途。30年前と変わらぬ発想の人々が大勢を占めている。そこに、上記のような状況とくる。どう泳いでいくかは極めて難しい問題と言えよう。
財政破綻国だから、政府ができることには限りがある。そのなかで、国際社会から孤立化させられないように切り抜ける「頭」が必要なのは言うまでもない。

知恵の無い宰相を抱えるとどうなるかは、民主党政権で経験した訳で、同じ轍を踏むことなきよう願いたいもの。

(Source:Pew Research Center)
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