トップ頁へ>>> YOKOSO! JAPAN

観光業を考える 2005年5月12日
「観光業を考える」の目次へ>>>
 


観光業不振のもと…

 2005年のゴールデンウィークは各地の行楽地のホテル・旅館は好調だったようだ。
 この好調が続けばよいが、今のままなら望み薄な感じがする。

 どう見ても、巨大な潜在需要はあるのだが、観光業界は真正面からこれに応えようとしないからだ。

 温泉の話をしたが、観光地が考えている観光業と、観光客が期待する観光業の間のギャップを考えるには適当な話題と思ってとりあげてみたのである。顧客は温泉そのものの魅力を求めているのに、業界は地域のウリを作り上げて、一生懸命温泉場として訴求を図る。
  → 「天然温泉評価の視点 」 (2005年4月27日)

 要するに、力がある業者が生き生きとして活躍できるように環境を整備するのではなく、魅力が薄れた業者でもなんとか生きていけるようにカンフル剤を投与したり、魅力ある業者に皆でぶる下がる算段ばかり考えるのが、この業界の特徴である。
 ニーズに真面目に応えるために、抜本的な改革で臨む気はないと見てよいだろう。
 こんな体質の業界がチャンスを生かせるとは思えないのである。

 端的な例をあげよう。

 国内向パンフレットを眺めてみたら、28,400円の京都旅行(6月催行:3泊食事無し)が目についた。
 東京発ひかり往復切符+ホテルまでの往きタクシーチケット+京都のスタンダードホテルのツインルーム(2名1室)との設定である。

 う〜む。思わず唸ってしまう安さだ。

 東京〜京都の新幹線切符の片道正規料金は12,710円、宿泊指定ホテルのスタンダードクラスツインルームのリストプライスは23,100円だからだ。
 しかも、催行者は安売り業者ではなく、大手旅行エージェント。

 この4月から法律が変わり、企画旅行が盛んになると言われていたが、その通り驚くような企画である。
 どう考えても、ホテルがダンピング価格を設定したとしか思えない。

 相当前から、中華系団体旅行者に対しては、1泊4,000円で提供するホテルがあるとは聞いていたが、ついに国内客に対しても大幅ディスカウントを始めたようである。
 部屋を埋め、多少でも固定費の足しになればよいという経営がまかり通っている訳だ。

 赤字経営から脱出する術がなくても、最後まで営業を続けるのがこの業界の伝統なのだろう。実に迷惑千万である。

 合理化しか生き残りの道が無いのなら、すぐ踏み切るしかないし、それも無理なら、傷の浅いうちに早く廃業すべきである。とりあえず目先の資金繰りさえつけば営業続行という経営は、被害を大きくするだけである。

 都銀が数行に集約した経緯を見ているにもかかわらず、ホテル・旅館だけは別と思っているのだろうか。どうかしている。

 などと語ったところで馬の耳に念仏だろう。時代感覚が違うのである。

 今もって、日本の観光業の主流派は、立派な資産を持っていれば、競争力があると考えている。
 おそらく、それを支える金融機関の担当者も同じ考えだ。
 好立地の素晴らしい施設があれば、価値が高いと見なすから、不振なホテル・旅館であっても資金繰りを助ける。地域もそれを褒め称えるようだ。お陰で、改革の気力がない業者が主流派の地位にいる。
 お陰で、魅力を打ち出す能力に欠ける人達が、観光地の将来展望を議論することになる。
 有名ブランドを持ち、立派な工場はあるが、新商品開発能力の無いメーカーに、業界の将来方向を決めさせるようなものである。観光業こんなことがまかり通っている。

 その一方で、経営好調なホテル・旅館には、税金支払いを減らすために無駄な出費を勧めたりする。儲かっている業者に、たいした価値もない地域振興事業への多額な賛助金を要求することも多い。業界の集約を進める動きや、圧倒的な競争力発揮のための戦略的投資をさせない企みとも言える。

 経営力ある業者が、不調なホテル・旅館を買収し、抜本的な建て直しを図ることで、観光地の魅力を高める方向には決して進まない。
 好調組も利益を戦略投資に振り向けることができない上、無駄な投資を強いられたりする訳が。好調組も、そのうち不調企業に転落することになりかねないのである。

 どう見ても、悪貨が良貨を駆逐する仕組みである。

 --- 附記 ---
 そもそも、未だに、中華系顧客にダンピング価格のパッケージ旅行を提供するセンスが理解しかねる。修学旅行や企業の宴会旅行発想で企画しているのだろうか。
 日本の生活レベルをはるかに越している膨大な数の富裕層が存在しているのに、この層を狙った企画を開発する能力がないようだ。
 箱根に行けば、ベンツの車列を連ねて観光する中華系の人達を見ることができる時代である。


 「観光業を考える」の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2005 RandDManagement.com