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2008年9月29日
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動物園経営を考えてみた…

 2007年度の旭山動物園の入場者数は307万人だったそうである。飛躍的な伸びが続いてきたが、前年度とほとんど同数。経済環境が悪化しているから、致しかたないとは言え、頭打ち感がでてきたのである。
 そして、右表のように、北海道としてはかきいれ時である夏に、ついに、対前年度大幅減少に見舞われた。(1)

 失礼ながら、これで、冷静なマネジメントができるのではないか。

 昔、書いたことを思いだした。・・・「入園者(数)だけから見れば、大成功である。関係者が本気になって、知恵を出しあった成果であることは間違いない。
 だが、これが成功と呼べるかは、動物園マネジメントの問題を越える。成功か失敗かは、自治体のマネジメント如何である。この集客力を梃子にして、地域を発展させることができるかの手腕が問われる。」
  → 「遊べる動物園の意義 」 (2004年8月20日)

 果たして、この採点結果はどうだったろう。

 こんなことを考えてしまうのは、その後、この動物園は、キャパシティも考えず、入場者増大路線を走るという、極めてリスクの高い経営を続けてきたから。民間企業の感覚で見れば、そのうち倒れかねない手の事業に映るのだ。
 アクセスが便利とは言い難い場所だから、300万人来園となれば、周辺の交通基盤整備だけでも大変だろうし、園内で心地よく過ごせるようにするためには、飲食・休憩設備も揃える必要になるので、相当な投資と、運営組織拡大が必要となるからだ。斬新な動物施設だけの問題では終わらないのである。これらを怠れば、楽しみは半減し混雑の印象しかなくなるから、来園者ガタ減りになりかねない。
 しかも、格安入場料で、約半分は無料入園者だし、付帯収益事業が揃っているようにも思えない。こんな事業が、はたして持続可能だろうかということ。

 経営情報が開示されていないようだから、なんともいえないが、税金で補填するから続いているだけのことだろう。果たして続けることができるものか、大いなる疑問。
 この動物園の場合、予想以上に入園者が多かったので、決算上の「剰余」が生じただけ。おそらく、これを「成功」と呼んでいるにすぎまい。
 誤解を与えるのは、経営評論家が「成功」とベタ褒めするからではないか。継続的設備投資、積極的PR、動物挙動観察し易い仕組み、 贅沢な飼育環境、等は優れており見習うべきというようだが、本当かね。

 小生の見方は全く逆である。
 だいたい、300万人もの観衆の目にさらされる野生動物が疲れずにいられるか、大いなる疑問だし。まあ、それはともかく、経営的に見習うというセンスにはとてもついていけない。
 だいたい、日本では、いくら寄付金を集めても、動物園経営を支えるレベルには達しないのだ。それこそ、寄付を誘うイベントや管理費用もカバーできない額しか集まらない可能性が高い。ここをおさえて考えて欲しい。
 この状態で、安価な入場料で、研究まで行うなど無理筋ではないのか。継続的投資、PR費用、贅沢な飼育環境、すべてお金がかかるが、地方公共団体がほとんどを負担するしかないのだ。それが可能なのかということ。
 そんなことは始めからわかっていながら、大規模投資を敢行し続けているのが、旭山動物園ということ。
 余りにハイリスクで、褒めることなどできない。

 ともかく重要なのは、このような投資を続けていて、自治体として、果たしてペイするかということ。・・・まあ、投資の合理性を説得するための経済効果の作文などどうにでもなるが、その話通りになるのは極めて稀というのが、経験論である。
 もともと、経済不調な地域には、事業を興し、利益をあげる意気に燃える人は少ない。「俺もやらないから、君もやるな」という新興勢力嫌いの文化が染み付いていることが多い。もしそんな地域なら、たとえ300万人集客できる仕掛け作ったところで、その投資を上回るような、観光産業からの税収が実現できるとは思えまい。

 それに、公的な動物園の経営に期待を寄せることも間違いだと思う。
 その理由は、簡単。会計が現金主義だからである。借金を歳入と考える経営で、減価償却の考え方が無いから、健全な経営ができる訳がないのだ。剰余金がでれば、成功と考える経営では、危なくて信用できないということ。
 民間企業で言えば、資本を食いつぶすだけの経営なのに、それを大成功と見なしかねないからだ。旭山動物園にしても、赤字のレベルは、外からは、皆目わからないのである。実に危険な話である。
 そのうち、来園者にも、その実態はわかってくる筈である。償却年限を越えれば、施設はボロボロになるからだ。
 そして、投資せよ、となる。ひょっとすると、すでに直面しているかも知れない。

 もちろん、この問題は旭山動物園に限らない。
 上野動物園にしたところで、問題は同じこと。

 こちらでは、自治体に投資してもらうため、パンダを呼んで、客足を復活させたいと考える人も少なくないようだ。(2)入園者が増えれば、自治体が投資してくれるという発想なのである。もしかすると、金融界も応援しているのかも知れない。(3)
 ともあれ、公的動物園の経営とは、自治体から予算を沢山とること以上でも以下でもない。

 ちなみに、民間なら当たり前と思われる点検項目を、適当にあげてみよう。これがまともに行われていると思えるか?
   ・資金調達 (将来債務不履行の可能性はないか?)
   ・予算管理/売上実現 (まともな経営計画か?)
   ・価格設定 (プライシングの仕組みが機能しているか? 特典設定は妥当か?)
   ・入園料徴収手続 (適切なプロセスで全額収納できているか?)
   ・テナント収益 (付帯収益事業のマネジメントは妥当か?)
   ・人件費 (正当なレベルの労務費か?)
   ・委託料 (委託内容は妥当か? サービスに応じた適正な費用か?)
   ・設備メインテナンス (維持計画はあるか?)
   ・新規設備投資 (費用/効果の評価がなされているか?)
   ・設備保全/安全管理 (安全確保体制は整備されているか?)
   ・顧客クレイム (苦情や要望に対応しているか?)
   ・PR活動 (認知されているか? チェックのプロセスはあるのか?)

 小生は、公的機関に、こうしたマネジメントを期待することは無理があると見ている。そもそも、こんなことができれば、パンダを上野へという話が生まれるとは思えないからである。これはどう見ても政治屋の発想。

 どうしてそんな大胆なことが言えるかと言えば、日本生まれのパンダが揃っている動物園がすでにあるからだ。パンダを見たければ、民営の、南紀白浜の「アドベンチャーワールド」へ行けばよいのだ。まあ、名目上は、「成都大熊猫繁育研究基地」の日本支部の運営だが。(4)
 当然ながら、入場料はそれなりのもの。園内でのオプショナルツアー料金も別途かかる。だが、おそらく、それこそが大人気の筈だ。客単価を十分とれなければ、経営が成り立つ訳がないからこんなことは当然の話。収益性が悪化すれば、心地よい施設作りもできなくなり、客足も遠のくから、どう収益を保つかは、経営の最重要事項である。もし失敗すれば倒産の道。その緊張感はただならぬものがあろう。

 公的動物園は、どういう訳か、こうした経営をえらく嫌う。そして、ただただ自治体からの予算引き出しに頭を使う。経営に緊張感が湧くはずがないのである。
 そんなにお金を頂戴するのがご不満なら、入場無料にしたら、と言いたくなる。地域住民のための動物園と位置付ければよいのだ。江戸川区自然動物園(5)(面積4,900m2、棟獣舎22、入園者54万人、運営費6,977万円)(6)を真似するだけのことである。

 --- 参照 ---
(1) 旭山動物園の月別入園者数 平成20年8月31日現在
  http://www5.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/zoo/siryou/nyuen-tuki.html
(2) 「上野動物園 客足パタリ 300万人割れか パンダ不在響く」 東京新聞 [2008.9.3-夕刊]
  http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008090302000288.html
(3) 「〜クオンツ情報〜 上野動物園のパンダと株価」 大和総研[2008.5.15]
  http://www.dir.co.jp/research/report/equity-mkt/quants/08051501quants.pdf
(4) 「パンダランド しあわせパンダファミリー」 アドベンチャーワールド http://aws-s.com/panda/pandafamily.htm
(5) 江戸川区自然動物園  http://www.city.edogawa.tokyo.jp/sec_jigyodan/sec_zoo/index.html


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