表紙 目次 | ■■■ 本を読んで [2018.1.6] ■■■ 「民話比較」斜め読み 「酉陽雑俎」の"葉限"が引用されているので、読んでみることにした。 → 「シンデレラの原典」[2016.2.25] 書評では、テーマ毎、三つの民話を「要約再話」した本として紹介されているが、評価の方はよくわからない。注目されるという程度の書きっぷりなので。・・・ "よく知られたものも含め、どの民話も簡潔だが含蓄に富む。世界中に類話があるのも興味深い。"[毎日] シンデレラで選ばれているのはコレ。 [4]いじめに挫けない者 ○サンドリヨン【仏】 ○葉限【中】 ○手なし娘【西】 言うまでもなく、継母に虐められたきた継子が、結局は幸福な結婚をするというモチーフ。そんな民話としては、欧州では「灰かぶり」が有名で、日本だと「糠福米福」らしいが、ユーラシアの各地に様々な話が存在すると言われている。 これをどうとるかだが、この著者は「勧善懲悪」を否定している点を重視している。 そうなのである。 継子はリベンジしない訳で、それがご不満な風土の土地ではイジメた側に"天罰"が下るように改変されることになる。 反儒教の段成式先生もそこらを踏まえていたに違いない。 婚姻関係を通じ、権謀術数を駆使した尋常ならざる権力闘争が絶えない世の中で、継子イジメなどとるに足らぬ出来事だった筈だが、その手の風土を嫌っていたに違いないのである・ 宗教としての儒教は、そのような社会だったからこそ力が発揮できたともいえよう。長子・嫡子相続という原則論を高く掲げることで。もちろん、実態は力で決まる訳だが、それはそれで承認する役割を担うことができるので、好都合なのである。 儒教はあくまでも血族の繁栄が第一義。家督相続のルールなどいかようでもよいのだ。従って、継子排除が生まれない方が不可思議と考えることもできるのである。 つまり、成式的に考えるなら、この民話のポイントは、継子の能力が卓越しており、人柄も素晴らしい点。理想論的には、そのような人物がそれこそ家を継いでいって欲しいとの発想が根底にあるとも言えよう。恣意的に誤解する人が多いが、ここには血族への尊崇観念は無いのである。つまり、反儒教思想そのもの。 そしてもう一つ見ておくべき点があろう。 一旦イジメや侮辱をうけたら、血族が続くかぎり、何百年かかろうが、それをあがなうべしといのが宗教としての儒教の本質である。 これほど馬鹿げた思想はなかろうというのが仏教徒たる成式のスタンス。 そんな気分での"葉限"話採用と考えるべきだと思う。 血族話はさておいて、婚姻譚としては、異類婚も採択されている。無理矢理、身分違いの娘を強引に妻にする話である。当然のことながら、結局は別れることになるのだが。 ただ、古事記のように、一種のトーテム違う部族間婚姻を扱っている可能性もあるので、安易な分類だと意味をとり違える可能性もあるので、なかなか難しい分野である。 [2]無理やりな結婚 ○天人女房【日】 ○アザラシ女房【アイスランド】 ○タニシ女房【中】 「酉陽雑俎」を読んでいると、異界の話の取り上げ方も気になるところ。 → 「異界の時間」[2016.3.5] [23] 時間の神秘性 ○浦島太郎【日】 ○王質爛柯【中】 ○アシーン王子・ハーラ王【ケルト】 [21]異郷の神秘性 ○地蔵浄土【日】 ○飴人形【中】 ○サンドフレーサの島【ノルウェー】 小生は、時間軸は、娑婆、天、地獄で、変わるという点を見落とすべきではないと思う。 浦島太郎の話は、なかでも厄介。母なる"うみ"信仰の海人系の世界観が土台となっていると思われるからである。 従って、似ていても大陸系とは根本のところで違うかも知れない。そもそも、開けてはいけない箱を太郎はどうして喜んでもらい受けたのか謎である。 → 「時間感覚は幻想」[2016.6.20] 地蔵浄土はシンデレラ型とダブル場合があったりして、変形版が多いが、ここでは"珍奇モノ"は異郷からというセンスで取り上げている。 神秘性と題してはいるが、ビックリするような技術や、全く異なる習慣あり、と示唆している話ということか。 「酉陽雑俎」はそこらについて、じっくり書いている訳である。みたこともない動植物などいくらでもあるソ、と。 国際派の成式ならではの問題意識を感じさせられる書である。 神秘と呼んでしまうと、小生的には、該当する地域は桃源郷。こちらは現実感覚の延長上にすぎないと思う。 そんなことを考えると、出色は、以下の比較か。 [6]運まかせの人生 ○わらしべ長者【日】 ○運のいいハンス【独】 ○間抜けのジャック【英】 ご存知のように、わらしべ長者は、ドンドコ富んでいく話だが、そこには観音祈願の結果という底流も。ストーリーは面白いが、何が幸せとしているのかは実は自明ではない。祈願して、一発で富籤に当たったのとは違うとはいえ。 ヒトには、たとえ不運に遭遇しても、イヤ、それこそが幸運と見る人もいるし、その一方で、ただただ愚直に生きることこそ幸せの根源との考えもある。 ここらは宗教観も絡んでくる訳で、民話とはいえ、考えさせられますナ。 (本) 野中涼:「読みくらべ世界民話考: 庶民の豊かな想像力と集合的認識を読み取る」松柏社 2017年10月31日 本を読んで−INDEX >>> HOME>>> (C) 2018 RandDManagement.com |