→表紙
2013.11.6

ワラビ食とは南島食文化と違うか

裏が白いシダは、理由は知らないが、縁起が良いらしく、正月飾りにはつきもの。しかし、食用でもないし、花は咲かず実もならない。光沢葉で長持ちする訳でもない。にもかかわらず、どうして重用するのかよくわからないが、なんとなく親しみが湧く植物である。これは好みだから、人によるのかも知れぬが。
小生は、高校生の頃、清澄山でのシダ採集につきあったことがあり、シダにも色々種類があることを教わったがもう忘却のかなた。その時思ったのは、まあ、常識人ならこれを食べようとは考えないということ位か。
 ・葉には軟い肉質部分がほとんど無い。
 ・葉の柄は硬く表皮がガザつく鱗状。
 ・根は非常に硬い。

しかし、それを本気で食用にした人達がいる訳である。
と言っても、地下茎に多量に含まれる澱粉を食べるのである。それが可能になったのは、水晒し技術とされる。照葉樹林の食文化とされているようだ。

日本の場合、その技術の適用は葛粉が主流の感じがするが、それは現代でも名称が通用しているからだろう。言うまでもないが、異なる澱粉で、同じような食感を出すことで代用している訳である。
蕨粉も高価な食材になってしまったから、同じこと。本物の蕨餅はビックリするほど美味しいから、伝統がどうやら続いている訳だが。
ただ、この食感はたまらぬというのは、日本人だけかも。
  → 和菓子を作ってみよう (2008.5.28)

照葉樹林の食文化とされているが、根の澱粉を食すという点に着目すれば、これは紛れも無き南島の「芋」食文化そのものである。そこにも目を向けて欲しいもの。
よく知られているように、マオリ族のシダ根菜料理がエンデヴァー号探検記録に記載されているからである。詳細を調べていないが、繊維分を分離せず、ネバネバ分を食べて食べれない部分を吐き出したのではなかろうか。小生は、このネチョネチョ食感を愉しむ食と見るが。どんなものか。とは言え、いくらなんでも余りに硬い食物だから、根の先端部分だけ食べるのが普通だったと思われる。もちろん、日本のトロロと同じで生食が一番美味しいとされていた可能性が高い。・・・すべて想像にすぎぬが。

日本食におけるワラビ (→ 2009.7.14) に戻るが、言うまでもなく、食の対象は澱粉質の根だけではない。若芽というか、伸び始めの産毛のようなものが見られる頃のものも食べる。コゴミ(→ 2008.12.2)に至っては山菜的な灰汁感もない訳だし。それに、沖縄では大型木製「ヒカゲヘゴ」の芽と芯は珍しい野菜ではない。先島だと一年中採取できることもあるし、行事食にも登場するそうだ。 (若芽は毛を取り茹でるだけでもOKとか。普通は、米糠を入れ茹でて灰汁をとるそうだが。)

コレ、南島食文化の視点で眺めれば、本来は生野菜のカテゴリー。マオリ族なら、生食でおかしくないということ。
日本ではそれは無理で、徹底的に灰汁ヌキする訳だ。現代の視点で見れば、発癌物質除去処理である。
その技術で考えれば、山菜料理の代表はワラビよりはゼンマイ。まあ、どちらにしたところで、ずいぶんと面倒な作業が必要だが、そこまでしても、ワラビ・ゼンマイ食を続けたいのが日本の食文化の特徴。小生は、こうした山菜に拘るのは、南島の野菜文化を残しておきたいということもあったのではないかと見るが、賛同してくれる人はおそらくいまい。

とりあえず調べてみると、粟食だと思われる台湾先住民はクワレシダ/Vegetable fernを食べるようだ。調理方法としては、炒めることが多いようだが、それはどう見ても中華文化。(まあなんでも食べる訳で、ゼンマイも使われているし。)しかしながら、茹でるだけの料理もありそう。これこそ、野菜生食文化圏の食といえまいか。(尚、沖縄では絶滅種のようだ。)
ついでながら、お隣とは言い難いが、ハワイ(マウイ)にもワラビ/Wild Pohole Hawaiian Ferns食が存在する。原語ではho'i'oらしい。

ここまで並べれば、ご想像がつこう。
実は、ポリネシアを含め、熱帯/亜熱帯には食用シダが広く分布している。インド大陸にまで及んでおり、たまたま台湾だけに残っている訳ではないのである。ちなみに、マレーシアではpucuk paku、フィリピンではpacoと呼ばれているそうだ。

常識で考えて欲しい。
暑い地域になればなるほど植物の成長は速い。シダなぞその最たるもの。葉に土中からの灰汁成分を貯める時間は短くなる訳で、熱帯の島嶼で生で食べられない筈が無い。
温帯になればそういう訳にはいかない。従って、灰汁抜きが不可欠ということ。
まあ、それを凄い食文化だと呼ぶことができなくもないが。

そうそう、小生が考える食用シダ葉の南島食メニューを最後に記載しておこう。
すでに述べた、日本食の原型でもある、「主食+魚介+生野菜」の南島食のパターンを適用するだけのこと。日本人が好みそうな形態を考えるとこうなろう。・・・
シダ若葉で、生蝦や蒸しタロイモをくるんだ海苔巻きのようなもの。もちろん、トング取り箸とめいめいの椰子葉皿を使って手食である。塩味が欲しいなら、塩辛を皿に。多分、絶ウマ。(ただ、日本的な塩辛は御飯用で、それとは全く違う、稚魚の塩漬けのようなもの。))もちろん、それにピッタリ合う蝦と芋の種類があろう。タロイモなどという、一般名になってしまう前は、様々なイモがあったに違いないのである。なかには毒芋もあった訳で。

という具合に理屈をつければ、日本のワラビ食は南島食文化の血筋を引いているといえなくもなかろう。

(ご注意) 日本語Wikiではなく、海外版を見る必要がある。
 文化論の目次へ>>>    HOME>>>
 
(C) 1999-2013 RandDManagement.com