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2013.11.7

生姜は薬で、茗荷は生野菜

ショウガ/生姜/Ginger, (→ 2007.9.11) (→ 2009.7.29) は明らかにアジアの熱帯で生まれた植物。根を使う点からみて、いかにも芋技術に長けた人達が利用を始めたと見てよさそう。

しかし、ショウガ族には、根以外を利用する植物も多々存在する。

沖縄でのお馴染みは、「サンニン/砂仁」こと、ゲットウ/月桃/Shell Ginger。「月桃」という名前の由来がわからぬが、インド系であることを示しているような感じがする。まあ、いかにもアジアの熱帯/亜熱帯に分布していそうな植物ではある。
言うまでもなく、葉をお茶にする訳だが、今や、観光用「珍しきもの」的なものに落ち込みつつある印象もある。しかし、それは観光客の視点でしかなく、沖縄の人々にとっては、その香りから離れようがないといったところのようだ。なにせ、アイスクリームのフレーバーになっていたりするのだから。

もともとは、蒸しモノを覆うのに使う材料でしかなかったと思われるが、そのフレーバーの嬉しさで茶に発展したということなのだろう。そのラッピング応用の代表がムーチー(餅)。もちろん縁起物である。
本土ならさしずめ粽に使う笹の葉(その昔はチガヤや菖蒲。)に当たるが、フレーバーは全く異なる。香りを大事にするのは同じだが。ただ、粽の中身は糯米なのに対して、沖縄「餅」は紫芋。
いかにも南島らしき好みとは言えまいか。台湾での名称はmôa-chîらしい。中身は混ぜ御飯なので、いかにも大陸の粽だが、笹の葉を用いるので、その香りが付く。(大陸はほとんどの場合、香りを感じさせない葦や蓮の葉である。)
照葉樹林帯の少数民族も粽は重要な食として扱われているようだ。南九州に残っている灰汁巻き系が多そうで、殺菌効果があるから持ちが良くなる訳だが、それよりは、お強より餅に近い食感が楽しめるということでは。そうそう、種子島が鉄砲だけでなく薩摩芋渡来地ということになっていそうだが、もともとこの辺りの南島食文化にピッタリ嵌ったことが大きそう。

小生は、このような食を眺めていると、はるか昔の南食文化時代の芋食食感を思い出すための行事食なのではと思ってしまうのだが。

とはいえ、冒頭に書いたように、なんとなくインド的に感じてしまうのは、ウコン/鬱金/Turmericがショウガ族のなかで余りに有名だからではあるまいか。こちらは、素人が考えてもインド原産以外にありえそうにないからだ。
そうそう、沖縄ではこちらも「うっちん茶」として使用されている。これはインド食文化に染まっている人は別だろうが、健康飲料そのもの。慣れないとかなり飲みにくい。逆に、続けると嵌ってしまうのかも。
紫ウコン(ガジュツ/莪朮/Zedoary)も売られているが、こちらは完璧な漢方薬として使われていそう。ただ、インドから東南アジアにおけるカレー料理圏では白ウコンとして使われている。

こうして眺めてみると、沖縄では、生姜系の香りは薬的な食材とされていそう。ショウガにしても、魚介類料理には使わないようだし。もっぱら中華食文化の豚肉系料理(ラフテーとかポーポー)用スパイスに映る。しかし、中華といっても、定番調味料たる八角や五香粉を外しているのが不思議である。要するに、一番の使い道は山羊肉の臭みに対抗する調味料として、蓬と一緒に使うことなのだろう。この山羊料理だが、「ヒージャー薬」と呼ばれているところからみて、日常食ではなく、体力回復食のようだ。ショウガにもその手の役割を期待しているとも言えそうだ。
そもそも、沖縄食の基本は、海産物の旨みを愉しむことにあるようだから、ショウガ族はそれに余り寄与しない食材と見なされているのかも。しかし、健康には不可欠ということ。食べれば、体が温まってくるのが実感できるのだから当然といえば当然ではある。
考えて見れば、グローバルなスパイスと言っても、ローマ帝国、イスラム帝国、禁酒法の米国で大流行したのも、薬的な効果期待の結果と見るべきかも。ショウガのスパイスとしての用途は付随的だったと見た方がよいのかも。

そうそう、ウコンに触れたから、もう一つのスパイスも見ておかねばなるまい。黒胡椒と双璧の、スパイスの女王こと、カルダモン/小荳蒄/Cardamonである。
もちろん、インド辺りが原産。使う箇所は種だから、根の文化たる南の島々ではさっぱり重用されなかったようだ。インド以西では古くから憧れのスパイスだったことを知らなかった訳でもないと思うが。
西欧文化大好きな筈の日本だが、高価なせいもあるとはいえ、やはり南島食文化なので同じ態度を示したと見ることもできそう。但し、国民食化したカレーには入っているから、好まれているといえばその通りだが。

最後に、例外的なショウガ族野菜を付け加えておこう。
いかにも、霜が下りるような気候の日本で育てるために作り上げたかのような、ミョウガ/茗荷/Myoga ginger (→ 2007.10.16) である。この場合、食べる対象が根ではなく、花芽というのも面白い。
小生は、コレは南島食文化の鉄則に従ったまでと見る。「根」スパイスとの概念は、「根」澱粉文化から見ると違和感を覚えておかしくない訳で、どうしても落ち着かないのだろう。香りを愉しむにしても、「主食+魚介類+生野菜」の枠内に入れたい訳である。従って、茗荷も、生でなければ、せいぜいのところ軽く加熱した汁まで。それ以上の調理は嫌われる。
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