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2009.4.22
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気ままに熊本料理…

 先ず一杯 そして乾杯 もう一杯
   肥後狂句という文芸ジャンルがあるそうだ。
   この地は、料理より酒という気もするが。

←Photo by (C)Tomo.Yun “ゆんフリー写真素材集”


 薩摩料理の話をしたら、熊本の話をせずにはいられまい。両者は対抗意識があるというから。「意地は熊本、気は薩摩」だとか。
  → 「“自己流”簡易薩摩料理」 (2009年3月25日)
 と言っても、昔、「晩白柚」を持ってきた学友から聞いた覚えがあるだけのことで、当てにはならぬが。
 ともかく、この熊本名物の大きさには驚かされた。調べたことはないが、世界一の柑橘類ではないか。食べすぎに注意と言われたが、確かに。

 さて熊本料理の方だが、東京ではラーメンが知られているが、現地から見るとそんなものは入っていない。(1)
  ・だご汁: 根菜豊富なだんご汁。
  ・馬刺し
  ・阿蘇高菜: 茎の部分が細い高菜の油炒めをご飯に混ぜる。
  ・からしれんこん
  ・いきなり団子: サツマイモを入れた蒸し団子。
  ・その他
    -太平燕(タイピーエン): 中華風春雨スープ
    -ひともじのぐるぐる: 茹でた太目のワケギの一種「ひともじ」をグルグル巻きにした酢味噌ヌタ

 熊本料理店はみかけるが、メニューのウリはたいていは高級馬刺し。まあ、だご汁商売は簡単ではないだろうから当然か。
 ただ、東京の感覚では、馬刺しというと信州イメージが強い。信州の山に通った人だと、廉価品の馬刺し体験が結構あるからだ。そうなると、どうしても、今更感が産まれがち。
 ただ、熊本県は、馬肉消費量ではトップと言われており、状況は全く違う感じがする。
 驚くのは、超高級品がある点。このことは、馬肉に相当な思い入れがあるということ。多分、牛や豚以上に、肉の部位名や、細かなランクがつけられていると思われる。すべての部位を食べ尽くすスキルも普及しているに違いない。沖縄では豚を食べ尽くすが、熊本は馬を食べ尽くすということではないか。
 阿蘇辺りには、野生化した馬がいて、猪系の豚より、なじみがあったということだろうか。
 ちなみに、鮨を食べるようになったイングランド人が、英国では大陸とはちがって馬肉だけは食べないと教えてくれたことがある。軍友か、はたまた競馬の友だからとても食べられないということか。食の嗜好とは不思議なものだ。

 家庭で馬肉料理なら、スキヤキが無難だが、残念ながら、東京のスーパーでは馬肉は極端なマイナー品で簡単に試す気にならない。生の肉類は素人に良し悪しが判別できないし。

 そう言えば、熊本と言えば、“水前寺”も有名。「水前寺海苔」は、会合が多い人達にはよく知られている食材だ。食べるものというより飾りに近いが。淡水種の苔のようなものらしく、絶滅したと耳にしたが、商品は見かける。もっとも、それは熊本県水前寺産ではなく、福岡県朝倉市の黄金川産のようだ。(2)
 彩りになると言っても、家庭料理に使う代物ではないと思う。

 ほかにも、正月に使う「水前寺もやし」もあるらしいが、まあ試すほどのものでもなかろう。
 どちらにしても、阿蘇山辺りから来る伏流水利用の産物ということだろう。
 これとは違う流れの食材は、「水前寺菜」。沖縄からの来訪品だと思う。
  → 「バンダマ」 (2008年3月18日)

 他には、豆腐の味噌漬もあるようだ。小生は大好きだが、熊本名産とは知らなかった。様々な土地で作られているが、東京では、軟らかくなりがちな「もろみ漬」より、硬くなる「信州味噌漬」が好まれていそうだ。常時陳列している商品ではないから、よくわからないが。

 家庭料理を試すなら、そんな食材を追求するより、肥後独特の汎用調味料をお勧めしたい。「赤酒」(3)である。
 東京の限られたスーパーの酒売り場で稀に並ぶという程度の商品。プロ相手では大いに流通しているらしいが、素人はほとんど使わないようだ。そのため、始終切らすことになるのが、残念至極。
 直接飲んだことはないから、味はよくわからないが、味醂と酒を兼ねたようなものだろう。瓶口に付着する、硬い砂糖のような塊は味醂以上だから、かなり甘口で濃厚な筈。
 それはともかく、これ、煮物に使うと抜群の威力を発揮する。素人には、実に有難い調味料と言える。

 と言うことで、「赤酒」を入手して、魚の煮付けに挑戦したらどうか。それだけで、肥後料理感がでてくるという訳にはいかないが。

 肥後らしさが欲しいとなれば、煮付けの魚は、なんといってもヒイラギ。
  → 「ひいらぎ」 (2006年12月22日)
 余り知られぬ魚だが、漁港が近いスーパーで、時に、獲りたてのヒイラギがとてつもない安価で売られていることに気付いた。もちろん一山。名前の通りイガイガがあるし、表面がヌルヌルしているので嫌われるらしく、ほとんど価値が認められていないようだ。
 ところが、この魚、何の処理もせずに煮つけるだけで美味なのである。新鮮で、水っぽい身なら、この手の調理が向くというだけのことだが。(もちろん、魚好き感覚での話だから、割り引いて聞いて欲しい。)
 どこでもとれそうな雑魚の部類だが、有明海辺りでは「椎葉」とか「しいのふた」と呼ばれている。(4)名前から見て、かなり大きくなったものだろうが。それを煮付ければ、イガイガを食べずにすむから、人気品だと見た。実態はわからぬが。

 ただ、一般には、新鮮なヒイラギは簡単に手に入らないから、代替品として、タチウオはどうだろう。“熊本を代表する魚の一つ”だそうだし。(5)フライや天ぷらもよいが、ここは是非「赤酒」を使った煮付けで。

 さて、汁だが、「だご汁」は避けたい。郷土料理だが、醤油味に人気があるそうだから。
 それはそれで美味しくて素敵だが、文化の香りという点では味噌汁でいきたい。
 浅蜊と麩で十分。重要なのは、麦味噌を使うこと。加賀同様に「水前寺菜」が残っているのだから、雅がお好みの筈であり、基本は甘めの白味噌ではないか。

 せっかくだから、「ひともじのぐるぐる」(6)も作ろう。まるごと一本のワケギをグルグル巻きにするのだから結構面倒な作業だ。こうすれば沢山食べることができるからなかなか考えた料理と言える。「菜」だが、酒の「肴」としての一品ではないか。
 「ひともじ」とはどんな葱類なのか写真では判断しかねるが、自作の場合はワケギよりは、細葱の方が合っていそうだ。葉の食感を愉しむつもりなら、最近のワケギは細すぎる上に、中の軟い部分が少なすぎる。
 尚、酢味噌だが、白味噌に酢、赤酒、練り芥子を加え混ぜて作るとよいのでは。ともかく、何を加えようと、自分好みの味にすること。口に合わない酢味噌は食べれたものではない。

 これだけでは寂しいから、高菜漬けも。火山麓に適した野菜は余りなさそうだが、向いているということか。あるいは、雅の菜として最適なものを探したのかも。そして、その辛味がこの地域では好まれたと見たのだが、どこまで当たっているか。
 漬物そのものを購入しただけではつまらないから、やはり油炒めにするのがよかろう。だが、高菜チャーハンは折角の魚の煮物の味を壊しかねないからよそう。
 水に漬けて塩出して炒めるだけの簡便な料理だ。こちらも、できれば赤酒で。必要なら醤油も加えたらよいが、そう簡単に塩抜きできない商品が多いから、鹹すぎるかも。

 肝心なのは、お酒か。
 熊本は、焼酎主流地域と清酒主流地域がありそうだが、できれば、熊本酵母の純米吟醸を探そう。
 何故、そんなことにこだわるかといえば、それが肥後の歴史の象徴でもあるから。
 なにせ、お殿様が赤酒以外の醸造を禁止したのだ。そんなことをすれば、清酒の技術は地に落ちて当然。それをなんとか復活させようとして産まれたのが、熊本酵母。(7)本格清酒の渇望に応えて登場したのが熊本酵母の吟醸酒である。

 これが、何故象徴的か。
 ご存知のように、ここは、古事記の時代から連綿と続いてきた“火の国”。独特な文化もあったと思うが、京文化が色濃く、沖縄のように古代信仰の繋がりを感じさせるものは見つけることができなくなっている。為政者による身勝手な規制が多かったに違いないのだ。しかし、それに抗して、独自のものを打ち立ててきたのだと思う。「赤酒」とはそういうものと睨んでいるのだが。

 さて、甘味だが、四百年以上の伝統を誇るとされる「朝鮮飴」(8)か。デパートで購入したことがあるが、通販以外では簡単に入手できそうにない。そこで、類似品の自作といこう。

 製法はよくわからないが、餅米粉・水飴・砂糖を練って蒸しあげるのだろうか。
 白玉粉と上白糖を水で練ってから、水飴を加えながら、電子レンジで何度かに分けて暖め、じっくり練り続ければ同じようなものは作れそうだ。十分冷ましてから食べれば、それなりの味がでるだろう。素人の座興の作品だし、すぐ食べるのだから、粉は振る必要はなかろう。
 売れている商品は、プレーン、黒糖、抹茶の3種類のようだが、折角だから、柑橘系のジャムを入れたら、熊本らしさがでるのでは。
 なんとなく、土産物屋の企画菓子臭くなるので面白くはないが、この方が美味しそうだ。と言っても、正直のところ、すぐにやってみる気力がでない。
 ついでながら、お茶も熊本と考えるなら、釜仕上げの矢部茶がある。(9)釜で炒るから、形状が丸くなるようだ。どの程度味が良くなるのか一度飲んでみたいものである。
 水が良くて、贅沢を抑える割に、雅に凝っている土地柄のようだから、美味しいに違いない。

 --- 参照 ---
(1) 「熊本宝御膳物語」 西日本新聞社 http://www.kyushu-takaragozen.com/introduce/kumamoto_takara.html
(2) 「水前寺のり本舗」喜泉堂 http://www.kisendou.com/
(3) 「熊本特産 東肥赤酒」 瑞鷹(株) http://www.zuiyo.co.jp/akazake/
  http://www.akazake.com/
(4) http://www.zukan-bouz.com/zkanb/hougen/shubetu/hiiragi.html
(5) 「太刀魚」くまもと時間[2008年冬] 熊本県観光キャンペーン http://web.kumamoto-kankou.com/journal_08wi/
(6) 「ひともじのぐるぐる」 気になる!くまもと第99号 [2003年5月23日] http://www.kininaru-k.jp/bns/back_doc/05232003/syun.html
(7) 「阿蘇の名水生まれの酒」 酒文化研究所
  http://www.sakebunka.co.jp/sakemeguri/kumamoto/kumamoto02.htm
(8) 「老舗園田屋」 http://www.higokanmi.com/area/kumamoto4/sonodaya.html
  「朝鮮飴のこだわり」 心月堂製菓 http://www.shingetudou.co.jp/kodawari.html
(9) 「矢部茶」 芳田園 http://www.yoshidaen.co.jp/SHOP/366397/366398/list.html
(阿蘇山の写真) (C)Tomo.Yun “ゆんフリー写真素材集” http://www.yunphoto.net


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