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「我的漢語」
2015年12月7日

霙霈霰雹霏雰の雪世界

「初霜白菊の世界」 [→2015年10月23日]では、[しも]と如[ゆき]の白色の世界を描いた、有名な白楽天の詩を取り上げなかった。大雪の頃なので、ここで引用しておこう。降雪シーンを詠んだものではないので季節外れではあるが。
よく知られるように、ご母堂逝去で実家で喪に服していた時期の作。
蕎麦畑しかない農村のただ中で、月夜、ふと外に出てみた時の詩である。独り静かに、虫の音を「しみじみ」聴くというだけのモチーフ。題材としては、なんということもなく、わざわざ取り上げる意味などなさそうな風景である。しかし、それが感動を呼ぶ。いかにもヒットを狙っていそうな都での作られた然芬々の詩とは、一線を画すものだからだろう。自分の境遇への憂いや、政治的な批判めいた言葉の欠片も、ここには無い。

    「村夜」  白居易
  草蒼蒼切切、村南村北行人絶。
  獨出門前望野田、月明蕎麥花如


霜と雪が登場しているので、この周辺の雨冠文字を取り上げてみようか。雨露はおおかた見たので。 [→2015年10月30日]

72候ではこんな具合に登場するが。・・・
立秋[・-・-蒙霧升降]-処暑-白露[草露白-・-・]-秋分[雷乃収声-・-・]-寒露-霜降[霜始降-霎時施-・]立冬-小雪-大雪-冬至[・-・-雪下出麦]-小寒-大寒-立春

以下、よくわからない文字が結構登場してくるが、勝手に解釈してみた。専門家の解釈の引用ではないので鵜呑みにしたりしないこと。

  [しも]
  [ゆき]
   ・・・花吹雪的降雪?
  [みぞれ]
   ・・・荒々しい降氷的雨?
   ・・・降雨降雪交互?
      (北風其 雨雪其霏)[詩経風]
   ・・・凄まじい雪混じりの降雨?
   ・・・凄まじい雨まじりの降雪?
      (北風其涼 雨雪其)[詩経風]
  [あられ]
   𫕣・・・球形の霰?
  [ひょう]
   ・・・雹に近い霰?
   ・・・キラキラ輝く雹?
  𩂓・・・雨貌で氷雪系ではなさそう。
  𫕡・・・雪を知らない地域の創作?

タイトルの最初6つの漢字はフォントが用意されているから、よく使われる文字と認定されているのであろう。
確かに、みぞれ、あられ、ひょう、の3つは、日常的とは言い難い気象とはいえ、知らぬ人なき言葉。しかし、漢字は滅多に見かけないので忘れていた。それ以外になると、少なくとも小生は、漢詩の世界で偶に出会う程度の文字である。 
厄介なのは、それらは、文字から意味が想像しにくいこと。霏など、ついつい、非雨とはどういうことか頭を捻ってしまう。悲雨的氷雨かと。たいていは畳語だから擬音のようにも思えるが。・・・

    「詠廿四氣詩 大雪十一月節」  
  積陰成大、看處亂霏霏
  玉管鳴寒夜、披書曉絳帷。
  黄鐘隨氣改、鳥不鳴時。
  何限蒼生類、依依惜暮暉。


    「遊三游洞」  蘇軾
  凍雨霏霏半成、游人凍蒼苔滑。
  不辭攜被巖底眠、洞口
深夜無月。

畳語でも、紛々ならよく使う言葉だからよいが。もっとも、同じ意味とは限らないから要注意だ。

    「秦中吟十首 重賦」  白居易
  厚地植桑麻、所要濟生民。
  生民理布帛、所求活一身。
  身外充征賦、上以奉君親。
  國家定兩税、本意在愛人。
  厥初防其淫、明敕内外臣。
  税外加一物、皆以枉法論。
  奈何月久、貪吏得因循。
  浚我以求寵、斂索無冬春。
  織絹未成疋、繰絲未盈斤。
  里胥迫我納、不許暫逡巡。
  暮天地閉、陰風生破村。
  夜深煙火盡、
霰雪紛紛
  幼者形不蔽、老者體無温。
  悲喘與寒氣、並入鼻中辛。
  昨日輸殘税、因窺官庫門。
  鋤蜚@山積、絲絮如雲屯。
  號爲羨餘物、隨月獻至尊。
  奪我身上暖、買爾眼前恩。
  進入瓊林庫、久化爲塵。


政治的色彩濃厚の詩なら、紛々はピッタリ嵌るが、情景描写には適さないような気がする。零知零解的ではあるが、雰雰は文字イメージ的には嬉しい。

    「四愁詩 其四」  張衡
  我所思兮在雁門、欲往從之雪雰雰
  側身北望涕沾巾。
  美人贈我錦段、何以報之青玉案。
  路遠莫致倚搨Q、何為懷憂心煩


「霈」という文字もナンダカネ〜。
適当に、冬の季節の言葉かナと考えてしまったが、全くの考え違いである可能性は限りなく高い。

    「放後遇恩不」  李白
  天作然コ澤開。
  東風日本至、白雉越裳來。
  獨棄長沙國、三年未許回。
  何時入宣室、更問洛陽才。


上記詩題に登場する「霑」もフォントが用意されているが、面倒なので調べていない。
雷が登場したので、「神鳴」系の漢字もあげておこう。以下のように推定。雷は蚊帳や夕立と一緒の夏の風物詩的気象と思いがちだが、冬季に発生する恐ろしき自然現象を指すのであろう。鍋料理の頂点とも言うべき魚の漢字、[→はたはた]がそれを物語る。

  =魂到来的雰囲気"云"+雨冠
  [かみなり]
  [いかづち]
  [いなずま]
  ・・・過去に例なき猛烈な落雷?
  ・・・辰由来の落雷が引き起こした大振動?
    (天神遣であり、地中の「鯰」とは無縁。)
  ・・・天神様、長雨を止めてとの願かけ?
  ・・・天のお告げの雨粒?

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