■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[11f釋山]■■■
釋山篇について色々と書いて来たが、トータルの印象としては、儒者官僚校閲のために薄い記述になったというところか。・・・雅語使用推奨とは、儒教国としての沽券にかかわる問題でもあることがよくわかる。
(「詩經」も、収録作品数が少なすぎ。儒教的解釈もできそうな作品のみを限定収録したと見てよかろう。権威者の解釈に諾々と従う仕組みが望ましい訳で。)

「山海經」が存在しているのだから、本来なら、この篇は大部になっておかしくないが、そうはいかない。下手に引用でもすれば、古代の部族信仰やその基底に存在する神話を呼び覚ましかねないからだ。
(「山海經」の山とは金銀銅錫鉄丹玉"竜骨(化石)"草木茸[菌茹]の元であり、各水を生み出す源でもある。その各山で、奇怪に映るトーテム(生肖合成ミイラ)を掲げている部族が逐一紹介される。)

・・・この「山海經」の精神を外して"山"を語れる訳が無いので、この篇の編纂には相当に苦労したに違いない。山文字をそれなりに収録しているし。
一方、「說文解字」は素直に文字状況を示すだけでよいから、楽だったかも。しかし、「爾雅」記載文字すべてを収録している訳ではない。




├┬┐
甶厶
  │
  山…岱嶧岡崒巒岵崔岫嶽嵩 …[n.a.]
  ├┐
  屾屵
   ├┐
   广厂…厜[厜㕒 山顚]

・・・要するに、山文字を語るなら、"嵬"を根幹に位置付ける必要があるということ。
【嵬/𩲀/𩲈】≒【𩲉/𩱿】≒【魅】…素魂@山[宣气𢿱 生萬物 有石而高]
  【崔嵬】 …崎嶇不平的→高峻&高大→[比喩]心中不平
  陟彼崔嵬 我馬虺隤 我姑酌彼金罍 維以不永懷 [「詩經」國風 周南 卷耳]

「說文解字」非収録文字を見ておこう。

【ッ】 …=嵩
  ッ高維嶽 駿極于天 維嶽降神 生甫及申 [「詩經」大雅 蕩之什 ッ高]
【巋】
小而衆 巋…小山叢列
 巋=歸{𠂤[丿+㠯]+≪止≫+帚[𫜹+冖+巾]} + ≪山≫ (=𡿢[+免])
  掌三易之法
    一曰「連神農氏]
    二曰Return to the Hidden
    三曰「周易」 [「周禮」春官宗伯 第三 大卜之職]
   …はたして夏[for 伏羲]→殷[for 黄帝]→周なのだろうか。
 この"歸"だが、字義は、わかっていそうに思いがち。
 しかし、実は、よくわからない。・・・
  小篆から見た原義は[女嫁]<とつ-ぐget married(e.g."桃夭")>で、
 <かえ-るgo back/かえ-すreturn something to>ではないから。
  鬼之爲言歸@釋訓
📖
   精神離形 各歸其真 故謂之鬼 鬼之為言歸也 [「漢書」列傳卷六十七楊王孫]
  歸孫@釋親 …姪之子
  歸異@釋水
   所出同 所歸異曰淝泉 本同出時所浸潤少 所歸各枝散而多似淝者也 [「釋名」釋水]
【峘】 おそらく、もともとは山名(桓)@夷水
【嶬】 ⇒㕒
【峐】 おそらく、もともとは山名(垓)@突厥
【厒】 ≒𠩂

: "鬼"の甲骨と小篆の字体には、<厶>の有無での違いがある。本体から離れた箇所に記載してあり、甲骨の字体の一部と見なすのには無理がありすぎ。秦王朝官僚が追加した部品( or 文字)と見なすしか手がなかろう。
その<厶>だが、合字の種類は多く、≪厶≫部検討は至難。・・・≪又≫厷 ≪八≫公 ≪儿≫允 ≪口≫台 ≪牛≫牟 ≪矢≫矣 ≪去≫[非収載]云(雲) 𠘯[足跡] 弁(覍) 𢁔 etc.
   ---[参考]<人は死ぬと鬼になる。[人所歸爲鬼]>---
  白+儿+厶=キ(おに)「古事記」非使用 もの@「萬葉集」
      【繞】@「說文解字」⇒ 䰡 魖 魃 鬽 鬾 䰧 𩴴 魋 魑
    鬼+云= コン(たま)/䰟 [jp. 概念形成]たま→くも
    鬼+白= ハク(たま) [jp. 概念形成]n.a.
    鬼+靈= 䰱
・・・鬼文字は道教コンセプト色濃厚。
道教は各地の土着信仰を混在させた宗教なので、網羅的で雑駁にならざるを得ず、定義は難しいが、天帝-官僚統治国家での根幹を担うのが宗族宗教たる儒教とみなせば、その外縁を埋め尽くす宗教ということになろう。たとえ国教化しても、常に補完的位置付け以上では無いと考えるべきだろう。(「呂氏春秋」「淮南子」を初期経典と考えると儒教との対応がつく。)各地での実生活と結びついた巫覡(鬼道)が大雑把に4つの流れに乗ったと見るとわかり易い。・・・
  ①符籙系(呪字) ②丹鼎系(仙丹) ③玄学系(黄帝-老子哲学) ④占筮系(陰陽道)
文献学的には、神仙/方仙との用語で規定できそうな派が小篆成立期以前に存在していたのは間違いない。最初期を①とすると見通しが効く。(小篆成立直後に、すでに、呪術に用いる秘儀の鬼繞文字@竹簡が多種存在していた可能性もあろう。)②仙丹は始皇帝拘泥の信仰で、毛色が相当に違う。③④は、後世、理論武装が必要になって登場。
  
     

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