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2009.3.16
 
 


ソニーが成長軌道に乗ればよいが…

 ソニーの経営首脳人事が発表され、エレクトロニクス事業の復活が中途半端なために、社長退任に繋がったというニュアンスの報道が続いた。実情はわからないが、大きな変化を打ち出したのは間違いない。
 ソニーは、日本での、新人事システム・新経営組織の導入に関しては、先駆け企業と言われてきたが、その伝統を守ったということかも。大改革である。(1)
  ・「会長+CEO+社長」の1名に権限が集約する。
  ・ボード層は、ほとんど社外になってしまうのではないか。
  ・トップ(会長+副会長)と事業執行オフィサー(2名x2)の少数チーム型経営になる。
  ・事業牽引役は40才台が多そうだ。
  ・人事から見て、 パソコン事業型経営センスが入るということでもあろう。
 見方によっては、斬新な新商品作りの意思決定を、担当者とCEOで即決できた時代に戻すということかも。しっかりした仕組み作りより、リスクを恐れない若い層に活躍可能な場をつくることを重視したように見える。しかし、リスクを恐れ、サイロ化したとしたら、それには訳がある。その問題を解決しないと、組織を変えても、そう簡単に風土は変わらないのでは。無理矢理に枠組を変えたりすると、表面的には対応して動くが、底流は逆に動いていたりして、時間が経過すると大きな副作用が発生することが多い。そんなことがなければよいのだが。

 ただ、こんな変化はありそうだとは思っていた。と言うのは、どこかチグハグな感じがするし、企業全体の方向感がつかめないから。
  → 「ソニーがどこかおかしい」 [1] 、 [2]、 [3]   (2008年11月16日/27日,12月4日)
 そして、変わるな、とわかったのは、コンシューマーエレクトロニクスの展示会に社長が登場せず、会長が登壇したこと。満場の拍手喝采を浴びた秀逸なものだったらしい。(2)
 誰でもわかる最先端技術が組み込まれている製品発表なら別だが、普通は、トップ自らが将来像を語りながら、自社製品の素晴らしさを訴える必要がある。そこで、どれだけ共感を得られるかが勝負なのである。Appleにせよ、Microsoftにせよ、トップの“華”と、説得力あるプリゼンテーションで飛躍してきたとも言える。そんな時代なのである。
 会長自ら、舞台で、ソニーとはどんな企業なのか、はっきり示したのだから、どうなるかは想像がつこうというもの。画期的な新商品発表という感じはしなかったから、これしか手がなかったということかも。

 それはともかく、ハワード・ストリンガー会長兼CEOの説明によると、ソニーは“エンタテインメント”企業になるのではなく、あくまでも“エレクトロニクス”企業でいくという。(3)
 ただ、“エレクトロニクス”と言っても、ソフトも含めたハードという意味。ネットにつながるサービスを提供することで、革新的な機器を生み出せるという。

SONYのエレクトロニクス関連事業(3)
Networked
Products
&
Seruvices
Game
Vaio
Personal Devices
Network Service
New Business Incubation Projedt
Consumer
Products
TV
Home Audio & Video
Degital Imaging
Semiconductor
&
Conpornent
Chemial & Energy
Electoronic Devices
Semiconductor
 B2B Solution
 この結果、組織体制は大きく変わった。従来は、小分けされたエレクトロニクス製品群、ゲーム・音楽+映画のエンタテインメント群、その他金融等と、派生部品・材料事業と錯綜していた印象を受けたが、これを大括りにまとめたのである。要は、これから牽引する事業を明確にしたということ。
 一言で言えば、テレビ、ビデオ機器、ビデオカメラと言った、ソニーブランドが通用してきた家電分野と部品等が経営を牽引するのではなく、ネットワークに繋がる機器分野を今後の柱にするということ。
 そして、テレビも家電の“もの作り”志向ではなく、パソコン型に変えることになるようだ。職人芸の世界から足を洗うことになるのかも。
 全社で「ネットワーク」時代に対応する方向に振った構想はさっぱり上手くいかなかったが、今度は、ネットワークと非ネットワークに二分したと見れないこともない。テレビを中心にした、家電型のホームネットワーク構想は棚上げということだろう。
 リアリズムに徹すれば、そうなろう。少し遅すぎた感はあるが。

 これは、証券アナリストが好感しそうな方針かも。
 と言うのは、旧エレクトロニクス部門は製品開発に人と時間を大量投入する必要があり、製造拠点への多額な投資と雇用維持のための費用負担も不可欠となり、資本効率が低いからだ。これから重点化する“ネットワ−ク”の製品・サービスビジネス分野は、投入資本は比較的少なくてすむ。つまり、総資産利益率の大幅改善が図れるとの期待感が生まれておかしくないのである。すでに、先端半導体分野からは撤退しており、さらに資本効率を考えた経営へと突き進むことになるのだろう。
 しかし、それが奏功するとは限らない。競争力を生み出す根源を間違って解釈していれば、リスクの高い転換になりかねないからだ。組織的な知恵の源泉を失う施策でなければよいのだが。
 特に厄介なのは、ネットワーク志向の現製品群の顧客がソニーのコア顧客として妥当かという点。セグメント毎に問題点を見ていこう。

【ゲーム機器】
 この分野で強いのは、ゲーム機器であるが、PS2の時代ならよかったが、PS3の時代に入ってしまい、家庭で楽しむシーンの中心のコンソール機器をおさえたとは言えなくなってしまった。Wiiに地位を奪われたからである。従って、PS3普及をバネに飛躍的なビジネス展開が可能とは限らないということ。
 WiiとPS3の両者を購入する家庭は少ないと思われるから、どうしても、PS3利用者は高性能を求める層に偏る。ゲーマーと呼ばれる人達が中心になってしまうと、ゲームのリードユーザーは確保できるという点ではプラスだが、一般の人達には思った程浸透していない可能性はかなり高い。
 しかも、マイクロソフトのゲーム機器のようなネットワークゲーム中心イメージが乏しい。ブルー・レイ・ディスクのプレーヤー機器だからだ。ネットワーク型ビジネスに合う顧客がついているとは限らない。
 その点では、広く普及しているPSPの方がネットワークビジネス用のプラットフォーム期待できそうな感じがする。だが問題もある。
 携帯電話がすでに類似の機能を搭載し始めており、こちらが主流になるかも知れないのだ。
 ソニーの場合は、携帯電話分野は電話機器企業とのJVが担当。戦略的自由度が低いく、整合性ある戦略はとりにくい。厄介そのもの。

【パソコン】
 今や、パソコンはノート・ミニノート全盛。HP、Acer、Dell、東芝と、ミニノートで風靡したAsusが5強というのが世界の通り相場のようだ。
 ソニーはマイナーな地位に甘んじたまま。2008年第3四半期の台数シェアは4%。ほとんどの競合が対前年度比で2割以上伸張しているのに、2%成長である。(4)
 しかも、本来は得意な筈の超小型ミニノートで存在感がないから、どういうことなのだろう。ノートにしても、独自OSのAppleのような製品を生み出している訳でもないから、儲けの出るニッチ層向けビジネスを狙っているように映る。その手の商品が売れる層をコア顧客として、業容の飛躍的拡大を狙うというストーリーを実現するのは簡単ではなさそうである。

【デジタル機器】
 この分野でソニーの存在感を語る人とは、ソニーファンと思われる。シリコンオーディオはAppleの世界になってしまい、ソニーはその他大勢に入りかねないというのが、現実ではなかろうか。
 と言うより、独自規格の機器メーカーというイメージができあがってしまい、本来なら熱烈なユーザーとなるべき層がそっぽを向いてしまった可能性があるということ。ソニーファンが孤立してソニー製品を使っている状況かも。
 自社独自の魅力的なコンテンツを利用して飛躍を図るという方向を打ち出すと、閉鎖的な仕組みイメージがさらに強まり、飛躍は難しくなるかも。

【ネットワークサービス】
 ゲーム以外にも、So-netや音楽配信のインフラを構築しているが、メジャーな地位を確保しているとは言えまい。一般人からみれば、ソニーの独自サービスを選ぶ必然性は薄そうだ。ゲームにしても、コンテンツはソニー以外のゲーム機器でも稼動するようになりつつあるのが実情であり、オープンな仕組みに慣れつつある消費者が、閉鎖的なイメージのサービスに魅力を感じるとも思えまい。
 ここら辺りをどう突破するかで、ソニーが飛躍できるか否か決まるのではないか。製品の細かな仕様ではなく、枠組の斬新さが求められているように思う

 一方、従来の家電分野は、テレビが牽引することになるようだ。高収益のビデオカメラ事業はこの先大きな成長は見込めそうにないし、ネットワークに繋がらないタイプのビデオやオーディオに注力する訳にもいかないということか。

【テレビ】
 存在感が薄くなっていたテレビ事業を、数年で、シェアの上で回復基調にのせたのは流石。2009年第4四半期の北米市場での液晶テレビのシェアを見るとSamsung20%、ソニー14%、Visio12%、LGE8%、東芝8%である。(5)
 このことは、安価な商品で市場を席捲するVisioとの競争をいとわずという方針だったに違いない。基幹部品の液晶ディスプレーで技術的ヘゲモニーを握れなかったから、量の経済効果で戦う必要があり、自然な方向といえるが、収益面での回復は簡単ではなかろう。
 液晶テレビ用大型液晶ディスプレーは、2008年が1億台と対前年度2割増だが、パソコン用は大きさが小さいとはいえ、その3倍の市場だ。モニター用は1.7億台でほぼ横ばいだが、ノートパソコン用は1.4億台で2割強の増加。(6)
 この各分野での強豪は、Samsung、LG Display、AUO、CMOといった企業である。ソニーはこうした企業との合弁生産で対応することで、なんとか、テレビ市場でマイナーな地位に落ち込まずにすんだという状況だろう。

 こうやって、眺めていくと、どこを見ても大変な感じがする。だが、優れた企業とは、緊張感が満ち溢れている時に、イノベーションを創出するものである。
 組織的に知恵を生み出すとは、どういうことをすればよいか、見本を示して欲しいものである。

 --- 参照 ---
(1) 「ソニー社長、会長が兼務 強固な成長戦略へ権限集中」 Business i.(産経デジタル) [2009/2/28]
  http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200902280033a.nwc
(2) “【CES 2009基調講演レポート】 ハワード・ストリンガーCEOが語る「Total Sony Experience」
    −開発中のメガネ型ディスプレイなど。豪華ゲストが応援” AVWatch (Impress) [2009/1/9]
  http://av.watch.impress.co.jp/docs/20090109/ces06.htm
(3) 「中鉢現社長は副会長に【更新】ソニー、ストリンガーCEOが社長兼務
   − ネットワークやコンシューマーを統合した2つの事業グループを新設(3/3)」 Phile-web [2009年02月27日]
  http://www.phileweb.com/news/d-av/200902/27/23128_3.html
  [ソニーの新たなオペレーション体制] http://www.phileweb.com/news/d-av/image.php?id=23128&row=2
(4) 「Q3'08 ノート/ミニノートPC出荷実績・ブランド上位ランキングを発表
   −ミニノート市場は活況、大手メーカ参入でノートPC市場に追い風−」DisplaySearch [2008/12/12 ]
  http://www.displaysearch-japan.com/release/2008/12/r12.html
(5) 「Q4'08 北米市場 薄型TV出荷実績・上位ブランドシェア(速報値)を発表
  −LCD TV出荷台数は初めて前年同期比マイナス(-2%)に−」DisplaySearch [2009/02/13]
  http://www.displaysearch-japan.com/release/2009/02/r13.html
(6) 「Q4'08 大型TFT LCDパネル出荷実績を発表
  −2008年(年間)上位メーカランキングが決定−」DisplaySearch [2009/02/06]
  http://www.displaysearch-japan.com/release/2009/02/r06.html
(メモリースティックのイラスト) (C) 3D+WEB MIX http://webweb.s92.xrea.com/


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