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オジサンのための料理講座 ←イラスト (C) SweetRoom 2010.10.6 |
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和の塩味を楽しむ…1381年の宴会献立も参考にできる時代がきた。菓子(梨)、干物(干鳥)、生物(鱸)、 窪坏物(水母)、冷汁、追菓子といったところ。 → 「大饗記 」 (C) 慶應義塾図書館 左図は、1136年の配膳図。[リンク先は下記文章中] ←平松文庫「類聚雑要抄」 (C) 京都大学附属図書館 調味料として、味噌/醤油、油、酢、砂糖は一切使わず、塩と出汁だけでご飯の味を楽しむレシピを作ってみた。 → 「和食の原点を考える 」 (2010年9月3日) コレ、内容的には、実にくだらない“試し”にすぎない。しかし、塩の重要性を知るためにはこの類の“試し”は一度は経験しておく必要がある。極めて重要な訓練なのである。これなくして日本料理の勉強でもなかろうと言ったところ。
素人向けのテキストには、よく“塩梅”の話が書いてあり、本質的な技法を解説しているように見える。しかし、たいていはまったく逆。塩の美味しさを理解する訓練がないからだ。 だいたい、塩味の好みは個人差がある。よく言われるように、地域でも相当違う。最適な塩辛さを簡単に決めることはできないのである。にもかかわらず、最適値を知らずして“塩梅”せよという本ばかり。どうもピンとこない。 薄すぎても、濃すぎても、それなりに美味しく感じさせる技術は、料理人には不可欠だろうが、家庭料理の初心者には猫に小判だからである。自分にとっての最適値を知るほうが余程重要だと思う。 実は、こんなことを考える切欠を与えてくれたのが、賀茂祭神饌メニュー。収穫物を並べたものではなく、降臨した御祭神のお食事である。その特徴は、調味料もなく、たいして手がかかっていそうにないものが並ぶという点。しかも、海から離れた地というのに、海産物だらけ。 このメニューの核は“御飯”と“御塩”だ。そして海の味と、その旨味を凝縮した“御汁”を愉しむ設計といえよう。特別な調味料やスパイスなど不要なのである。 これこそ和食の原点と言えまいか。 ・御箸+「御飯,御汁,御塩,御最花,御餅」+神酒+「干鯛,打鰒,鱒,塩引,鰆,海老,あゆ,ごまめ」 ・御箸+「まがり,ぶと.昆布.長芋」+神酒 ・「おこし,州浜,かち栗,吹上」 ・「鰹,小鯛.鯖,鯵,鮒」 → 【古都散策方法 京都-その41】 体質を見抜く。[潤色放置] (2010年6月8日) ただ、調べていないから、この献立が何時のものかは定かではない。しかし、はっきりしている献立もある。“保延二年(1136年)十二月@東三条殿「内大臣大饗」”である。 → 平松文庫「類聚雑要抄」 [v.1,12/22] (C) 京都大学附属図書館 ご存知、“大臣の大饗は、さるべき所を申し請けて行ふ、常の事なり。宇治左大臣殿は、東三条殿にて行はる。”[徒然草156 段]に登場する、藤原頼長の大臣昇進の宴会である。皇居を借りたため今上天皇が行幸せざるを得なくなったことをして、余りに非常識だと清少納言が指摘した件である。 この献立の詳細は以下の通り。 【菓子八種】 餅 伏菟(ぶと) [食偏に勾](「まがり(曲勾)」だろう。) 大柑子 小柑子 橘 栗 串柿 【干物八種】 蒸鮑 焼蛸 干鳥 楚割 干鯛 干鱸 干鮭 大海老 【生物八種】 雉 鯉 蛸 鱒 鯛 B鱸 煮塩鮎/鮒丸焼 鲐鮎(鲐の口は月かも) 【窪坏物四坏】 海月 老海鼠 (蟹)蜷 細螺 【飯】+ “匙、箸”[箸台]+ 【四種】(塩, 酢, 酒, 醤) 別途、【酒】 この場合、メインは“御飯”と“御塩”だろうが、調味料として、酢、酒(どろどろの酒か)、醤(醤油とは違う)が加わる。前もって味付けをするのでなく、各人の好みの量を匙でとり、お数にかけるやり方。神饌メニューよりは調味料の幅は広がったが、それでも香辛料の類は一切使わない。おそらく、そこまでしなくても、ご飯は美味しく食べられるので、余計なことはしたくなかったのだろう。 小生は、このレシピを眺め、和食の本質は、米、塩、多彩な海産物を材料として、“御飯”と“御塩”の美味しさを堪能する料理にあると感じてしまったのである。 しかしながら、そんな料理は現代では滅多にお目にはかかれない。それより美味しく感じる料理が山のようにあるからだと思う。ただ、この味の原点は重要だと思う。自分の味覚の骨格部分を形成している可能性があるからだ。 それを実感したいなら、中国人に“美味しい”金目の煮付けをご馳走するとよい。おそらく一口も食べる気がしない不味い部類の料理と見なされる。甘い割りには塩がきつく、なんの旨味もないトンデモない代物との評価。 実は、そんなことに気付いたのは、中国人にきいたからではない。人気店で、新鮮でそれこそ特級と言えそうな金目を、煮付けてもらった経験から。絶賛する人がいるにもかかわらず、小生にとっては、味わったなかで最低の出来としか言いようがなかったのである。こんなもののどこが美味しいのか理解に苦しむようなものだった。 しかし、魚は上質だから、綺麗さっぱり食べつくした。 だが、これが、湯(スープ)の旨味で塩を愉しむ人達だったら、耐え難い食事なのは間違いない。・・・飢餓なら別だが、中国のお米では、醤油(塩)だけでご飯は食べれまい。しかも、塩辛さを緩和させるために甘くしてあったら、それこそ吐き出したくなるかも。 言いたいことは単純なのに、話が長くなって申し訳けなかった。 要するに、料理初心者は、先ずは塩以外の調味料や香辛料を一切使わない料理を作って、塩味の感覚を知る必要があるから、その訓練からということ。 ということで、塩味訓練の続き。 上記の大饗の真似事をしてみようか。ただ、折角の美味しい刺身を塩のみで食べるのは勿体ないので、簡単メニューでいこうか。 そうそう、“ご飯”ということになっているが、室温の純米酒とつまみということでどうだろう。尚、できればお酒は塗り物で。拙宅では、塗り物のワイングラスを使う。そして、ダラダラと飲む。(もっとも、高血圧を防ぐためには、一日1合が適量だとか。しかも、上記の表に示すように塩分も控えめに。それを守ると、以下はできかねる。まあ、自己責任で。) 尚、主眼は酒の味をトコトン愉しむことにある。従って、それなりのものを。(高級ということではなく、まともな取り扱いがなされていて、最近瓶詰め品という意味。) 【菓子一種】 ■「塩おかき」の“久助”(割れたり欠けたりしたもの)■ 拙宅では、麻布十番の豆源の、米/胡麻油揚げ品を購入するが、「塩おかき」などどこででも売っている。古いものは油が酸化しているので止めた方がよい。尚、純粋に塩だけのものが欲しいところだが、調味料が加わっている。残念だが、それで我慢しよう。 □避けるべき食材□ 小麦製品や、醤油やスパイス味をつけたものは駄目。 △参考△ 揚用薄切り餅も市販されているので、面倒でないなら自家製も。拙宅ではしないが。 【干物二種】 ■「瀬戸内いりこ」■ 上質な食べる煮干(片口鰯)を購入。煮干類はピンキリなので、上質なものの少量パック品を。瀬戸内海産をお勧めしている訳ではないが、比較的安定して供給されていそうだから。尚、炙ったりしないこと。 ■「駿河湾産素干し桜海老」■ 少量パックを購入。深海生物で、現代の産品だが、殻ごと食すことができるから、お勧め。 □避けるべき食材□ 鱈、烏賊、等の伸ばしたものや、味付・燻製品や、焼く必要があるものは駄目。鮭やコマイのように堅すぎるものは避ける。釜揚げシラスは柔らかすぎるし、この手の小魚はたいていは塩がきつすぎるのでやめておこう。小女子類だが、インチキ商品が多いのでご注意のほど。 △参考△ ウルメ鰯の完全に乾燥した堅いものは、擂粉木で少し潰して酒をかけ、しばらくおいておくとよい。軽く炙ると素晴らしいが、主旨が一寸違うか。炙るつもりになれば、畳鰯が欲しくなる。そうなると、折角だから、カラスミの薄切りもとどんどん外れてしまう。それはそれで楽しいが。 【生物二種】 ■水蛸の刺身■ 水タコの足を購入。少量でよい。厚さ3mm程度に切る。吸盤は最初に取り去るが、これも一緒に食べよう。調味料は塩と純米酢だけ。かぼす汁が欲しくなるが、我慢。しかし、これだけで、その味わいはなかなかのもの。お米(酒)の味がよくわかる気がしてきたりすることうけあい。 ■甘海老の酒掛■ 甘エビの最小パックを購入。食べる30分ほど前に処理する。頭・尻尾・殻を取り、背側に包丁で切り込みを入れる。ほんの微量の酒に塩を振り入れよく混ぜてから、小皿に広げた甘エビに満遍なくかけて、冷蔵庫に入れておく。酢味や付香は駄目。 □避けるべき食材□ 塩と酢だけでお魚の刺身を食すと、味わい不足で、余りにもったいない。 【窪坏物一坏】 ■尻高の塩茹■ シッタカが売っているとは限らないが、これがあれば最高。数分(例えば6分)塩茹でしたら、楊枝で本体を出して食べる。不器用な人は、都度頼んで取りだしてもらった方がよい。代替品としては、バイ貝があるが、それなら、できるだけ小さなサザエにしたい。小振りのものは安価なので売っていないことが多いが。 以上、塩味とはこんなものなのだとわかれば十分。コレはなかなかいけると思っても、続けないこと。塩分は結構多いのである。その上野菜は全くないし、油脂ゼロ。このようなメニューが好みになったりすると間違いなく体を壊す。 「料理講座」の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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