↑ トップ頁へ

2007.2.22
 
 


英国から学ぶとしたら…

 グローバル経済にどのように対処するかで、国の浮沈が決まる。

 先進国で「浮」に当たるのは、英国と言えそうだ。
 ブレア政権人気は低落一途だが、経済は好調そのもの。
 今や、一人当たりGDPは独仏を凌駕する。

“揺り籠から墓場まで”の沈滞する大国、と呼ばれていた昔を知る人にとっては、隔世の感。1970年代から、ずっと成長軌道を歩んできたのだから、当然の結果かも知れぬが。

 英国の経済発展は、産業政策とはこうあるべきという見本のようなものだろう。
 まず、第一次産業の農業を切り捨てた。次に世界の冠だった毛織物産業といった軽工業をあきらめる。そして、金融業を主軸にした高度なサービス産業へと軸足を移してきた。
 その過程で国内物価は大きく下がり、労働者の流動性は高まり、動きが活発になった。
 素人でもわかる、教科書的な流れを作った訳だ。

 なにせ、本来なら、経済発展を目指せと叫びそうな保守党の党首が、“broken society”問題をとりあげ、家庭の絆の復活を主張し始めた位だ。(1)グローバル化の波に乗ったのはよいが、歪みが余りに大きくなりすぎた、ということだろう。
 おそらく、隣国の独仏にとっても、英国の好調ぶりは大いに気になろう。保護政策と労働組合との協調主義を続けていけるか、問われることになるのではなかろうか。

 2006年、スエーデンで12年間続いた社民政権の敗北もこの流れで発生したと見てよいだろう。
 労働協約・高福祉を続けていて、この先も大丈夫か、大いなる疑問が湧いたということ。
  → 「同一労働同一賃金へ進むのか」
   (2007年2月7日)


 実際、巨大企業や、優れた技術者を沢山抱えているにもかかわらず、周囲の国に比して、発展性で見劣りする。どう見ても、人々の知恵を活かす仕組みが機能していない。

 この点では、日本もよく似ている。

 ただ、2007年2月15日に発表された、昨年第4四半期のGDPは、名目で年率5.0%成長と絶好調である。(2)(実質4.8%成長)
 これで、日本経済が軌道に乗ったと考える人もいそうだ。
  → 「国力衰退」 (2006年2月5日)

 しかし、日本は、まだグローバル化の波に乗る体制はできていない。ここで一安心してしまうとえらいことになりそうだ。
 成長力底上げ戦略構想チームのアウトプット(3)を眺めると、実に不安である。提言が「働く人全体の」で始まるからだ。
 格差是正要求に応える必要があるのはわかるが、グローバル化の波に乗るためには、労働者の二極分化は避けられない。それを正直に語るべきではないか。

 マクロで見れば、一番重要なのは、知恵を出して稼げる、力がある人を生み出すこと。
 ただ、この貴重な人材を、どこから、どのように探し出し、どう育成し、その力を経済発展にどう活かせばよいのか、皆目わかっていない。ここが肝である。
 従って、そのような人材は、労働者全体から探し出すしかない。
 そんな取り組みを始めるつもりなら、間違いなく経済発展にプラスに働くだろう。

 ただ、この取り組みには、格差を是正する効果は無いし、雇用の安定にも繋がらない。
 知恵で競争に勝つつもりなら、水ぶくれ組織を避ける必要があり、コスト削減も徹底することになる。重要でない業務の賃金は下がるということ。
 グローバル経済のなかで、熾烈な競争にさらされれば、低賃金化か、雇用の移転しかない。

 そんな社会は間違っていると言う人もいようが、避ければ経済力が落ちる。“日本の雇用慣行との調和”(4)を大事にすれば、グローバル経済の流れから取り残されるだけになりかねない。

 英国の経済成長にしても、低賃金労働者の存在あってこそ。言うまでもなく、それは移民である。国籍を与え、この力を活用したのである。
 そして、もう一つの流れは、知恵を出して稼げる人を世界から集めてきたという点。
 いまや、EUの27ヶ国のどこにでも人は移動可能だ。このダイナミズムが経済発展の鍵である。

 これこそ、経済のグローバル化の一大特徴、労働力の流動化だ。一番遅れる流れだが、これをどうコントロールするかが一大問題だといえよう。(5)

 日本が「底上げ」を図るなら、先ずは人の流動化から始めるべきではないか。いくら教育しても、流動性を欠けば、効果はでまい。
 産業の枠組みの固定化、企業間の壁、アカデミズムとビジネス分離、といった人の移動の障壁を無くさない限り、ダイナミズムが生まれることはなかろう。

 --- 参照 ---
(1) http://www.ft.com/cms/s/84249c94-be2b-11db-bd86-0000779e2340.html
  http://news.independent.co.uk/uk/politics/article2278084.ece
(2) http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe064/pointj.pdf
(3) 「成長力底上げ戦略(基本構想) (案)」 [2007.2.15]
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/seichou/dai3/siryou1.pdf
(4) http://www.asahi.com/job/news/TKY200612110080.html
(5) Daniel Altman: “Managing Globalization: The global quest for a second passport” International Herald Tribune [2007.2.6]
  http://www.iht.com/articles/2007/02/06/business/glob07.php


 「政治経済学」の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2007 RandDManagement.com