↑ トップ頁へ

2008.9.4
 
 


悲観論主導の時代か…

 どの国でも、悲観的な将来予測は嫌われる。ただ、いい加減で大雑把な悪夢話は該当しない。どうせ当たらないと見なされており、それなりの警告の意義があるから、かえって人気がでたりする。
 だが、緻密に作られた悲観論に耳を傾けざるを得なくなる時はある。(1)
 黙示録のような結末を迎えないで済んで欲しいと願っていても、現実が、悪夢のシナリオに沿って進んでいるように見えてくれば、(2)関心を払わずにはいられないからである。
 そう、前にお話したRoubini教授の予想のことである。
  → 「米国はまともに考えているのか 」 (2008年3月12日)

GDP growth in the G7 economies
OECD economic outlook [2008.9.2]
08Q1 08Q2 08Q3 08Q4
USA 0.9 3.3 0.9 0.7
Japan 3.2 -2.4 2.4 1.4
Euro Area 2.9 -0.8 0.4 0.8
Germany 5.2 -2.0 0 0.1
France 1.6 -1.2 0.2 0.6
Italy 2.0 -1.1 0 0.6
UK 1.1 0.2 -0.3 -0.4
Canada -0.8 0.3 0.8 2
G7 1.8 0.8 0.8 0.7
http://www.oecd.org/dataoecd/0/51/41229145.pdf
 大恐慌以来最悪の危機が訪れるという教授の話が、この7月、Bloomberg TV Interviewで流れたから、(3)金融マンも穏やかではいられなくなってきたようだ。
 と言っても、OECDの2008年の米国成長率予測は、年率1.2%から1.8%へと上方に改定されたのではあるが。

 ともあれ、この悪夢のシナリオの核となっているのが住宅価格低落である。下がれば、英国のように経済は低迷する。さらに、下げ止まらなければ、多くの金融機関が破綻することになる訳だ。そして、気になるのは、未だにこの流れに歯止めがかかっていないように見える点。(4)これでは、悪夢のシナリオを否定できまい。
 と言っても、データをよく眺めると、期待を持たせる数字も無い訳ではないが、それを確信できる人はまずいまい。

 ここまで来てしまうと、えらく厄介である。
 借金が返せない低所得者層の問題で留まらず、返せる力がある、非低所得者層が債務不履行に走るかも知れないからだ。
 米国では、家とは換金物であり、金融商品となんらかわらない存在だ。もし購入価格の半値の価値になったとしよう。残債を考えると、おそらく、この家の現在価値はマイナスとなってしまうだろう。借金を返せる能力があっても、返すインセンティブが失われてしまうことになる。
 返済を停止し、住宅を放棄する選択肢に俄然魅力がでてくることになる。信用情報に汚点は残るものの、数年間我慢するだけでよい。こんな流れが始まってしまえば、取り返しがつかなくなる。

 そんな状況が見えてきたら、ドルは暴落する・・・などということはないぞとばかりに、「日米欧、ドル防衛で秘密合意 3月の金融危機時」と日本経済新聞に書かせた政府高官がいるようである。(5)
 まあ、ドル保有国に奉加帳を回して、支えろという以外に手はないのだから驚くことでもないが。

 米国政府のいい加減さにはあきれるが、考えてみれば、日本の政治はそれ以上に滅茶苦茶だから文句をつけるどころではないかも。

 日本でも、住宅ミニバブルは発生していたが、政府の施策のお陰で、不動産業界は今や惨憺たるありさま。海外からの資金の流入も止まったようだし、この影響は他業界に伝播していくのは間違いない。資本義経済を壊したいのではないか思われるほどだ。
  → 「景気腰折れか」 (2007年11月26日)

 そして、これはチャンスとばかり、半ば国際公約でもある、2011年度のプライマリーバランス均衡実現を反故にする動きを始めるのだからたまらぬ。
 「基本方針2006」堅持との、財政制度等審議会の方針(6)など、どこ吹く風。バラマキ型財政出動を復活させようというのである。
 成功裏に首相の首をとばしたから、次はナショナリズムを煽りながら、バラマキを武器に選挙戦を早急に始めることになるのだろう。

 こんな方向に進んでしまえば、もう処置なし。
 貯蓄率は下がる一方であり、2011年度はゼロでもおかしくないからだ。言い換えれば、経常赤字化の可能性がでてくるということ。国債の買い手が国内にいなくなるということでもある。保険と年金の国庫負担は大幅に増える訳だが、これでどのようにファイナンスするつもりなのだろうか。

 ともあれ、我々が直面している問題は、“crisis”であることは間違いないのである。・・・(7)
 “We have a live crisis on our hands
   −although others could be coming−and we have to be ready for those as well.
  Behind the current crisis are two major shocks: The oil and commodity shock and the financial shock.
  The effects of the first have been much smaller
     than one would have feared based on similar shocks in the 1970s.
  The effects of the second have been much bigger
     than most of us expected when the crisis started.”

 --- 参照 ---
(1) STEPHEN MIHM: “Dr. Doom” NewYorkTimes [2008.8.15]
   http://www.nytimes.com/2008/08/17/magazine/17pessimist-t.html?em
(2) William Pesek: “ Here's to Hoping Nouriel Roubini Is Proven Wrong” Bloomberg [2008.8.22]
   http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601039&sid=aETnD_QSZYWU&refer=home
(3) Bloomberg TV Interview: Worst Financial Crisis Since the Great Depression and Worst U.S. Recession in Decades [2008.7.15]
  (Transcript)http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=newsarchive&sid=aXkTyUujvVKk
(4) “National Trend of Home Price Declines Continued through the First Half of 2008
   According to the S&P/Case-Shiller Home Price Indices” S&P [2008.8.26]
  http://www2.standardandpoors.com/spf/pdf/index/CSHomePrice_Release_082653.pdf
(5) “U.S., Europe and Japan planned dollar rescue: report” Reuter [2008.8.28]
  http://www.reuters.com/article/newsOne/idUST72020080828
  「日米欧、ドル防衛で秘密合意 3月の金融危機時」 日本経済新聞 [2008.8.28]
  http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080828AT3S2702D27082008.html
(6) 「平成21年度予算編成の基本的考え方についてポイント」 財政制度等審議会 [2008.6.3]
   http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseia/zaiseia200603/zaiseia200603_03.pdf
(7) “Blanchard Sees Global Economy Weathering Financial Storm” IMF [2008.9.2]
  http://www.imf.org/external/pubs/ft/survey/so/2008/INT090208A.htm


 「政治経済学」の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2008 RandDManagement.com