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水母の話  2018年3月22日

うみヒドラ の話

🍷 なんだコレ 肉食でも 草のよう

淡水棲で群体を形成しない"ポリプ体"のヒドラ類については触れたが、様々な環境で対象固着物も違うから、その種類は40余りと大変な数。おそらく探せば、いくらでもが見つかるのであろう。[→]

このことは、"ポリプ体"は特定の条件を好む種の棲み分けが進んでいることを意味しよう。
海水棲でも同じことが言える筈で、ヒドロ虫類の花水母に属している種には、そんなタイプがわんさかと見てよいだろう。
素人には手が余るが、ざっと見ていこう。

海水棲の代表ははっきりしている。
  海ヒドラ

主に、貝殻や甲殻類の甲殻上でヒドロ根を広げて群体をつくる習性があるようだ。外見が花虫の珊瑚に類似しているヒドロ虫の群体でわかるように[→]、個体は役割分担をしている。卵あるいは精子を造る個体もあるし、受精させて抱卵し稚クラゲをにして放出する任務を担う場合もあろう。
ここには、貝に付着すると思われる名前の種がズラリ。
  テビ海ヒドラ
  貝海ヒドラ
  霰貝海ヒドラ
  姫魚海ヒドラ
  毬栗貝海ヒドラ
  北貝海ヒドラ
小振りなのは、
  姫海ヒドラ
魚の場合は、
  魚海ヒドラ
もちろん、甲殻類も、
  蟹海ヒドラ
鰓部分に付くことも多いようだ。
  海鰓ヒドラ
従って、付着する場所は、鱗や殻のように頑丈とは限らないことになる。
  海鼠海ヒドラ
  海鞘ノ宿ヒドラ
従って、内臓部に寄生している可能性もあり、そうなると簡単に見つかることは無いだろう。

上記のような名称でなくても、"ポリプ体"が特定の生物に固着することで有名な種がある。
  枝管水母
対象は、多毛類ケヤリムシ系エラコの生管なのである。
これは、"クラゲ体"に着目しました的に見えるが、人気を博したのは"ポリプ体"が万歳をする半透明な小人の姿である点。人形ヒドラと命名されたので、見てみたい方々が一気に増えたのであろう。
"クラゲ体"の写真を見ると、水管が生み出す模様は6方相称のようである。生殖器官が織りなす意匠は花形というのも、好まれる理由か。

ともあれ、極めて特異な場所に"ポリプ体"が寄生する種が多いのは間違いなさそう。
  玉水母
この種の対象は巻貝。細砂底に棲み、殻長にしてせいぜいが2cm程度の筵貝。実に特殊。[→]その入口部分の貝殻上に固着するようだ。
そんな場所で立派に群体を形成する。貝の防衛隊役である。防衛してもらえないと喰われてしまうから、そんな貝に出会うことはまずありえない。
貝の大きさに合わせ、"ポリプ体"は伸びても2mm。従って、遊離する"クラゲ体"はせいぜい0.5mm。形は立方体に近いから、その後成長しても、体躯は丸っぽいまま。たしかに玉である。大きくなってもようやくにして傘径2mmで、余りに極小だからり、専門家以外に気付く人はいまい。
貝が死ねば、"ポリプ体"も死滅するそうだ。両者は宿命的に切っても切れぬ縁なのである。従って、貝の産卵周期に合わせたライフサイクルになっている筈だが、貝殻への付着観察記録は無い。常識的には、海を漂う間に幼生同士手を取り合う仲になるとしか思えないが。

そうそう、三崎網根海ヒドラも巻貝のキヌボラ殻上に付着。

玉水母を含め、上記は触手が刺糸である類。海ヒドラ的な特徴と言ってもよいのだろう。(ヒドラの名前でないのは、"クラゲ体"で先に名前がついていたからだと思われる。)
これに対して、淡水ヒドラの触手は有頭というか、粘着性を発揮できる構造。
玉水母は、この海ヒドラ系ということになる。ややこしいが、玉海ヒドラという種は有頭系に属す。(他にも海ヒドラという名前がつく有頭系の種がある。)
些細なことが気になってしまうのだが、素人なのでその辺りはさっぱりわからぬ。

尚、固着対象として刺胞動物を考える種も。
  花海楊[ヤギ]海ヒドラ
海鶏冠といった、花虫等の表面に固着するという。
マクロ撮影の写真では、"華やぐ"林にも見えるが、花虫"海楊[ヤギ]"の花ということだろう。茎の上に植物の八手のような球が付くので、有頭系的である。ダイバーの俗称は"葱坊主"。もちろん、それぞれの個虫は役割分担(防衛, 餌捕捉, 消化, 生殖)することになる。

つまらぬ分類話になったが、その関連で、ついでにもう一種取り上げておこう。

マ、漁民的視点なら、刺糸か有頭という話ではなく、一般用語の「海ヒドラ」で十分。その代表は自明。
  枝海ヒドラ
名前の通り樹木状。
網に付着するので、そんなモノに興味を覚える手の人なら、名前や生物分類に全く興味が無くても知っているような生物。見た目でも色々の種がありそうだが、それ以上追求する人は滅多にいまい。(紛らわしいのだが、"枝ヒドラ"は珍しくも汽水域棲息なのでご注意のほど。)軟水母[有鞘]の仲間である「海芝」・「海盃萱」[→]と、「海ヒドラ」の3つを識別する程度で十分だと思われる。
要するに、花水母[無鞘]の刺糸系でなく有頭系にも海ヒドラが存在しているのは、枝海ヒドラと同じように網によく付着するということだろう。

【刺胞動物/Cnidaria
花虫/Anthozoa…ポリプ型(珊瑚, 磯巾着)

Jellyfish/Medusozoa
ヒドロ虫/Hydrozoa
┼┼【Leptolinae】
┼┼水母([無鞘]Anthomedusae(=Athecatae or Stylasterinae)
┼┼┼《刺糸:ウミヒドラFilifera》
┼┼┼-Bougainvilliidae
┼┼┼┼○Rhizorhagium・・・ヒメウミヒドラ類
┼┼┼┼┼姫海ヒドラsagamiense)
┼┼┼-Bythotiaridae
┼┼┼┼○Bythotiara・・ホヤノヤドリヒドラ類
┼┼┼┼┼海鞘ノ宿ヒドラ(-)
┼┼┼┼┼小判水母(depressa)
┼┼┼┼┼酸縄[スグリ]水母
┼┼┼-Cytaeididae
┼┼┼┼○Cytaeis・・タマクラゲ類
┼┼┼┼┼玉水母(uchidae)
┼┼┼┼┼江ノ島玉水母(imperialis)
┼┼┼┼┼ナガニシ玉水母(nuda)
┼┼┼┼┼沖合玉水母(tetrastyla)
┼┼┼┼○Perarella・・・ナマコウミヒドラ類
┼┼┼┼┼海鼠海ヒドラ(parastichopae)
┼┼┼-Eudendriidae
┼┼┼┼○Eudendrium・・・エダウミヒドラ類
┼┼┼┼○Myrionema・・・ミナミエダウミヒドラ類
┼┼┼-Hydractiniidae
┼┼┼┼○Hydractinia・・ウミヒドラ類
┼┼┼┼┼テビ海ヒドラ(cryptogonia)
┼┼┼┼┼貝海ヒドラ(epiconcha)
┼┼┼┼┼霰貝海ヒドラ(granulata)
┼┼┼┼┼姫魚海ヒドラ(piscicola)
┼┼┼┼┼毬栗貝海ヒドラ(sodalis)
┼┼┼┼┼北貝海ヒドラ(uchidai)
┼┼┼┼〇Podocorella・・・サカナウミヒドラ類
┼┼┼┼┼魚海ヒドラ(minoi)
┼┼┼┼○Stylactaria[未承認]・・・アミネウミヒドラ類
┼┼┼┼┼三崎網根海ヒドラ(misakiensis)
┼┼┼┼┼蟹海ヒドラ(carcinicola)
┼┼┼┼┼(multigranosi)
┼┼┼-Pandeidae
┼┼┼┼○Hydrichthys・・・サカナヤドリヒドラ類
┼┼┼┼┼魚宿ヒドラ(pacificus)
┼┼┼-Proboscidactylidae
┼┼┼┼○Proboscidactyla・・・エダクダクラゲ類
┼┼┼┼┼枝管水母 or 人形ヒドラ@ポリプ(flavicirrata)
┼┼┼-Ptilocodiidae
┼┼┼┼○Hydrichthella・・ハナヤギウミヒドラ類
┼┼┼┼┼花海楊[ヤギ]海ヒドラ(epigorgia)
┼┼┼┼○Ptilocodium・・ウミエラヒドラ類
┼┼┼┼┼海鰓ヒドラ(repens)

┼┼┼-Cordylophoridae
┼┼┼┼○Cordylophora・・エダヒドラ類
┼┼┼┼┼枝ヒドラ(japonica)@汽水
┼┼┼┼┼マシコ枝ヒドラ(mashikoi)

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