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水母の話  2018年3月29日

ひとつあしくらげ の話

 醍醐味は 一本足での ぶらり旅

一本足と呼ばれる手のクラゲを眺めてみようと思うが、折角だから、足を持っているとしか思えない種もいるので、その辺りを絡めて少し考えてみようと思う。

ここで、"足あり"と言っているのは、漂泳活動を止めている種。しかし、ほぼ海藻上移動に特化している這い水母[→]や十文字水母[→]とは違うって、"アクチヌラ体"を持つ種なのだ。と言っても、"ポリプ体"を持たない硬水母と同じ体質で、"アクチヌラ体"を持つグループ[→]と言う訳でもない。あくまでも、ヒドロ虫で無鞘の"ポリプ体"を持つ花水母なのだ。

この"アクチヌラ体"だが、固着を旨とする"ポリプ体"と、水中漂泳を旨とする"クラゲ体"の、丁度中間のようにも思えるが、その位置付けはなんとも定まらない。独特な形態ではあるが、それが原因で解釈が難しいということではなく、クラゲそのものの生物としての解釈が難しいことに起因する。要するに、成熟・老衰とこのような形態がどう結びついているのか、さっぱりわからないということ。

なんといっても厄介なのは、クローン増殖と♂♀生殖が混じりあっている点。しかも生まれてくる生命体の形態は様々とくる。さらに、成熟に向かって変態プロセスが加わる。だが、これは多種多様で複雑というレベルの話ではなく、常識的に通用している成熟・老衰の概念がクラゲには適応できない点にある。
不老不死の種[→]の存在はいみじくもそれを物語っている訳だが、変態前駆体の"ポリプ体"は生殖可能だからすでに成体ということになり、変態後の"ポリプ体"も成体だから、どうにもとらえどころがないのである。

素人的にはこんなフォームが混在(混沌と)しているように見える。・・・
【胃腔・触手(刺胞)・生殖腺存在の完成形態】
  ポリプ体…吸着盤+茎+花/触手 + (遊走根) + (芽)
  クラゲ体…傘+触手+口椀
  幼体成熟?
    (アクチヌラ体)
    (エフィラ体)
【ポリプ体派生部位/変態形態(増殖組織)】
  ポリプ走根…ポリプ個体発生による群体化
  ストロビラ(輪状窪ポリプ茎)…上部板状剥離でエフィラの連続的遊離
  ポリプ芽…遊離体産出器官
  (ポリプ)…クラゲ体化
【未完成の中途形態】
  エフィラ(薄板割れ目入り傘のみのクラゲ前駆体)
  稚クラゲ(生殖腺未成熟)
  プラヌラ(受精卵孵化後体:繊毛動物様)
  団子(ポリプ前駆体)
   殻的外皮の団子(生命活動休止状態)
  アクチヌラ(足[触手]移動ポリプ体?)
  (ポリプ体)


"アクチヌラ体"が出現する種は少ないが、 ヒドロ虫の【花水母】《Aplanulata》系該当種についてはすでに記載したので再掲しておこう。
  紅管海ヒドラ
  プサンモヒドラ
・・・ポリプにできた生殖嚢から"アクチヌラ体"を産出し、これが定着して新たな若ポリプ(Hydrula)を形成する。
  梯子水母
・・・受精卵が"アクチヌラ体"となって海中を浮遊。海底を転がる如くに歩くと記載されているが、ともあれ、最終的には"クラゲ体"に変態する。

ということで、この辺りの類縁種をザッと見ることにしたい。

先ずは、コレ。
  一足[ヒトツアシ]水母
確かに一本足。類縁も含め、見ておくにしくはなし。
→写真 (C) Aino Hosia/Universitetsmuseet Bergen
→図絵 [PDF]Jeanette E. Watson:"Two new species of tubularian hydroids from southern Australia" Memoirs of the National Museum of Victoria 45 1984

他の触手が食べられてしまってどうやら一本だけ残っても生き続けている姿と間違いすな、珍妙なボディプランである。
傘には4本の放射水菅が走るが、これにつながる胃腔部分というか、口が、傘の内側にだらりと伸びているのも一打特徴である。

触手はどうなっているのかという気になる訳だが、それはさらに口が伸びて傘の外まで垂れている近縁種を見るとわかってくる。
  外襟水母
傘径1〜3mm。
傘の縁外側に襟が付いているように見えるからついた名前だろう。何に似ているかは別として、その正体は刺胞の塊。触手が変形したと考えることもできよう。

外襟水母一家とは別とされているが、姉妹種と見る向きもあるのが"ポリプ体"側から見た次の種。
  紅管海ヒドラ
岩礁域でも見かけるようんだが、群棲なので漁網に大量付着してえらいことに、という有名な種。
この種こそ、"ポリプ体"にできた生殖嚢から"アクチヌラ体"を産出する代表である。"アクチヌラ体"は浮遊し、足で動いて新たな地に定着して稚ヒドラとなるのである。雌の口で受精し、孵化すると対外に放出されるということ。

同じように、"ポリプ体"が"アクチヌラ体"を放出し、新"ポリプ体"を形成する近隣種がこちら。・・・
  梯子水母
4mmのキューブに近い傘だが、箱虫ではなく、ヒドロ虫花水母の仲間。当然、放射水菅は4本。放射水菅の筋に合わせて傘の外側に4段に渡って触手が出ている。
→写真 "庄内浜の冬のクラゲの代表選手はハシゴクラゲ。"鶴岡市立加茂水族館2013年3月7日@facebook
→図絵 [PDF]Shin KUBOTA:"Morphological Notes on the Polyp and Medusa of Climacocodon ikarii Uchida (Hydrozoa, Margelopsidae) in Hokkaido (With 8 Text-figures)"北海道大學理學部紀要 22(1) 1979

深海1000m級にまで広げれば、日本海で"アクチヌラ体"が見つかっている。[Sofia D. Stepanjants:"Deep-water Hydrozoa (Cnidaria: Medusozoa) in the Sea of Japan, collected during the 51st Cruise of R/V Akademik M.A. Lavrentyev, with description Opercularella angelikae, sp. nov." Deep-Sea Research II 86?87 (2013)]
推定であるもののその種は、こちら。
  片足水母
"クラゲ体"の特徴としては、胃は太く下に垂れている点。そして、触手は2種類あり、1本だけ瘤が並ぶ形で伸びている。

【刺胞動物/Cnidaria
花虫/Anthozoa…ポリプ型(珊瑚, 磯巾着)

Jellyfish/Medusozoa
ヒドロ虫/Hydrozoa
┼┼【Leptolinae】
┼┼水母([無鞘]Anthomedusae(=Athecatae or Stylasterinae)
┼┼┼《有頭:ヒドラ(Hydra)Capitata》
┼┼┼-Hydridae*
┼┼┼┼○Hydra・・・ヒドラ類[淡水棲"ポリプ体"]
┼┼┼-Corymorphidae*
┼┼┼┼○Branchiocerianthus・・・オトヒメノハナガサ類
┼┼┼┼○Corymorpha・・・オオウミヒドラ類
┼┼┼┼○Euphysomma
┼┼┼┼○Euphysilla・・・コモチウチコブヨツデクラゲ類
┼┼┼┼○Euphysora・・・カタアシクラゲ類
┼┼┼┼┼片足水母(bigelowi)
┼┼┼┼○Fukaurahydra・・・フカウラヒドラ類
┼┼┼┼○Gotoea・・・ゴトウカタアシクラゲ類
┼┼┼┼○Hataia・・・ハタイヒドラ類
┼┼┼┼○Vannuccia・・・バヌッチィクラゲ類
┼┼┼-Euphysidae
┼┼┼┼○Euphysa・・・カタアシクラゲモドキ類
┼┼┼┼┼片足水母擬(aurata)
┼┼┼-Tubulariidae*
┼┼┼┼○Ectopleura・・・ソトエリクラゲ類
┼┼┼┼┼(crocea)
┼┼┼┼┼外襟水母(dumortieri)
┼┼┼┼┼管海ヒドラ擬(minerva)
┼┼┼┼┼袋外襟水母(sacculifera)
┼┼┼┼┼姫管海ヒドラ(venusta)
┼┼┼┼○Hybocodon・・・ヒトツアシクラゲ類
┼┼┼┼┼一足水母(prolifer)
┼┼┼┼○Tubularia・・・クダウミヒドラ類
┼┼┼┼┼紅管海ヒドラ(mesembryanthemum)
┼┼┼┼○Zyzzyzus・・・アフリカウミヒドラ類
┼┼┼-Margelopsidae*
┼┼┼┼○Climacocodon
┼┼┼┼┼梯子水母(ikarii)

┼┼┼《Aplanulata》
┼┼┼┼上記《有頭:ヒドラ(Hydra)Capitata》所属の
┼┼┼┼以下追加
┼┼┼-Acaulidae
┼┼┼-Boeromedusidae
┼┼┼-Boreohydridae
┼┼┼┼○Psammohydra・・・プサンモヒドラ類
┼┼┼-Candelabridae
┼┼┼┼○Candelabrum
┼┼┼┼┼(cocksii)
┼┼┼-Myriothelidae
┼┼┼-Paracorynidae
┼┼┼-Protohydridae

┼┼【Trachylinae】
┼┼アクチヌラActinulidae
┼┼┼-Halammohydridae
┼┼┼┼○Halammohydra・・・ハラモヒドラ類
┼┼┼┼┼(adherens)
┼┼┼┼┼(coronata)
┼┼┼┼┼(intermedia)
┼┼┼┼┼(neglecta)
┼┼┼┼┼砂間[スナアイ]ヒドラ(octopodides)→[2018.3.11]
┼┼┼┼┼(schulzei)
┼┼┼┼┼(vermiformis)
┼┼┼-Otohydridae
┼┼┼┼○Otohydra・・・オトヒドラ類
┼┼┼┼┼(tremula)
┼┼┼┼┼(vagans)

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