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2004.1.3
 
 


スローフード運動の勘違い…

 ファーストフード市場の存在意義が問われている、と述べた。
  → 「ハンバーガー文化の転換点」、 「ファーストフードの先行き」 (2004年1月1〜2日)

 そのような動きを感じ、「これからはスローフードの時代」と語る人が増えている。健康を支える本物の食への回帰、との賞賛の声が目立つ。
 なかには、「毒から薬へ」、「餌からグルメへ」、としか聞こえない強烈な主張を展開し、反ファーストフード姿勢を鮮明にする人さえいる。
 真っ当な意見もあるのだが、煽情的な発言でかき消され、現実性を欠く主張が幅を利かせているようだ。

 日本の農業の実態を踏まえないで、頭だけで考えると、どうしてもこうなるのだと思う。

 日本では、例外的な地域を除いて、伝統農業など残っていない。品目絞り込みの上、産品の規格化と農作業の平準化が進んでおり、「地産地消」とは程遠い状態だ。消費者は曲がった胡瓜でさえ、滅多に入手できないのが日本の農業の現実だ。従って、地域特性が主張できる農産品とは、高級品を除けば、伝統農産物というよりは、差別化のために無理に作られた商品と考えた方がよい。

 こうした実情を考えれば、日本におけるスローフード化のバリアは極めて高い。伝統農産品を使えば、規格から外れるため、極めて高価な食事になりかねないためだ。
 (但し、奉仕活動に時間を割ける恵まれた人達にとっては、手間がかかる商品が高価になるとは考えない。)

 もともと、ファーストフードは安価で便利だから消費者がとびついたのである。本来、気分よく食事すれば、相当な出費になるところを、お金や時間が大幅に節約できるのだ。これほど魅力ある食はあるまい。
 お金の余裕があり、暇も十二分にある人は、初めからファーストフードに魅力など感じない。しかし、大多数の人にとっては、ファーストフードは必需サービスである。ここで節約したお金や時間を他に回して、生活レベルを保っているのだ。

 従って、日本に、ファーストフードv.s.スローフードという図式を持ち込むべきでない。
 スローフードにしたいなら、そのために必要なお金と暇をどこからか流用する必要がある。そのためには、さらにファーストフードが必要になるのが日本の現状である。

 だからといって、日本では、スローフードの意義が生かせないと結論付けるべきでない。肝心なのは、表層的なスローフードの主張の取り入れではなく、その思想の生かし方である。

 良く知られているように、スローフード協会(1986年イタリアで結成)の運動とは、地域に根付いた食材/料理・酒の伝統を守り、小規模な高品質素材提供者を育て、消費者にこうした意義がわかるよう食味教育を進める、というものだ。
 ローマのスペイン広場へのマクドナルド1号店出店反対運動で有名になったため、ファーストフードv.s.スローフードとの単純な図式を当てはめる人が多いが、主張のポイントは2つだと思う。
 ・郷土料理の風味と豊かさの再発見
 ・生産性の名の下に進む食の没個性化を阻止
  (カルロ・ペトリーニ著 中村 浩子訳「スローフードバイブル ― イタリア流・もっと「食」を愉しむ術」日本放送出版協会 2002年)

 注意すべきは、2点目である。生産性向上と没個性化は全く別の概念である。従って、ある条件が成り立つ時にのみ、この主張が意味を持つ。この主張は、イタリアでは意味があるが、日本では意味が薄いことに留意すべきだと思う。

 この運動の前身は地場ワインのバローロ愛好協会だったことでもわかる通り、独特の価値ある地場品が存在しており、これを殺すな、という主張に他ならないのである。食材は現地モノに徹し、食材の多様化が図れるほど素晴らしい、という思想を広げて、農業地域の振興を図ったのである。ワインの市場価値を高め、地場食材を用いる地元の家族経営食堂(オステリア)のステータスを上げた訳だ。
 当然ながら、この振興策を奏効させるためには、地域としてのブランドを高める必要がある。その魅力を下げるものは叩かねばならぬ。マクドナルド開店への反対も、その文脈で捉える必要があろう。
  (スローフード協会 http://www.slowfood.it/)

 一方、日本では、農産品自体に地域の特徴が消滅しているから、同じような運動を立ち上げると、イメージ商法になりかねない。このような運動には無理がある。

 しかし、独自の農産物はなくとも、誇れる郷土料理は今もって残っている。これを価値の根源とすることは可能なのである。
 個性豊かな郷土料理を、全国区、あるいは、グローバルにまで展開できるタネがあるのだ。まさに金の卵だ。

 といっても、スローフードのドグマに従って進めたのでは、金の卵を潰しかねない。
 イタリアの農村地帯と違って、日本の農村は特徴が薄い。どこも同じ施設と、同じ仕組みを作ってきたからだ。旅行者やグルメ人を集める力量が決定的に不足しており、イタリアの成功を真似るのは無理なのである。
 しかし、チャンスはある。
 地場料理の提供サービスををシステム化すればよいのだ。ファーストフードの技術を取り入れ、大きな産業に育てあげることさえできれば、一大飛躍もありえる。

 言ってみれば、スローフードのファーストフード化である。

 「株式会社小川の庄」(1986年設立)はそうしたタネの威力を見せつけたといえよう。コメがほとんど取れない長野県北部の過疎地帯、小川村の郷土食が大ヒットしたのである。
  (http://www.nande.com/ogawa/setumei.htm)
 このような事業をシステム化していれば、フランチャイズ化して、巨大産業に育てることができた筈である。


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