表紙 目次 | 「新風土論」 2015年9月2日 「草原の道」言語は衰退の運命平城京(奈良)はシルクロードの最東端であったことは、東大寺の存在で自明であるため、朝鮮半島経由の道だと思ってしまうが、それは全体像を見失うことになりかねない。朝鮮半島は中華帝国(天子支配下)の傘下にあったし、東西交易を取り仕切ったきたのは中原の政権ではあるが、朝鮮半島は文化的にはシルクロードの北の「草原の道」を押さえていた民族の最東端たるツングース系文化であると考えるべきだと思う。→ 朝鮮半島はツングース文化[2015.8.23] 考えてみれば、それは当たり前の話である。 「シルクロード」と「草原の道」は"万里の長城"で隔絶されていたからだ。その西端は、渤海沿岸の天津の北であり、東端はタクラマカン砂漠の内部である。北方勢力の脅威は絶大なるものだったことがわかる。 しかし、結局のところ、「草原の道」は「シルクロード」にその地位を奪われたと言ってよいだろう。その地位の凋落ぶりは使用文字がどの範囲いまで通用するか眺めて見れば一目瞭然。国立公文書館で日本語と満州文字で記載された清との条約文書現物を見たことがあるが、そのような書類はもうありえまい。モンゴル文字やウイグル文字も限定的な地域でしかお目にかかれまい。おしなべて、漢字あるいはキリル文字へと進んでいるのは間違いなかろう。 漢民族を支配したつもりでも、統治のために官僚システムを採用すると、結局のところ中華思想に飲み込まれていく訳である。 そんな長期的な流れを考えると、ハングルも消えていく可能性があろう。ソ連の支配下にあった朝鮮族は日帝の手先と見なされ内陸部に強制移住され、結局のところハングルを失っている。中国東北部の朝鮮族も満州族同様に漢化されていくのではなかろうか。 → 「草原の道」族の言語の特徴[2015.8.19] もともと、元祖漢民族とは、中原の僅かな人々の筈。周囲は、西戎、東夷、南蛮、北狄と呼ばれた異民族。しかし、そういった勢力の方が優勢だったことの方が多いのである。漢民族は被支配層になるのだが、そのうち支配層が同化していき融合することで新たな漢民族が出来上がるという繰り返し。何千年もの間、様々な異民族支配下にありながら、「歴史が途切れない」と考えることが中華思想の真髄であるが、それこそら「漢化」の本質とも言えよう。 例えば、南北朝時代とは中原を擁する北魏と南の宋から始まるが、前者は鮮卑の拓跋氏王朝である。「草原の道」の国家だから、部族性統治一色の筈だが、漢族地域統治のために貴族-官僚制国家に改編するしかなくなってしまうのである。その結果、均田制のような、革新的な統治システムを編み出すことになるが、それは裏を返せば漢化である。あげくの果てには、鮮卑荻祭祀を止め、草原の民的服装を無くし、言語も被支配層のものとすることになる。 一般常識とは真逆で、支配者が自らの文化を捨て、漢民族化を図ったのだ。天子を抱く中華帝国とは、そうならざるを得ないのである。 契丹の耶律氏王朝「遼」もモンゴル〜華北〜満洲/渤海を一大帝国を樹立した。こちらの場合は、契丹文字を用い、「草原の道」の部族文化濃厚な国家だったと言われる。つまり、アンチ漢文化。しかし、華北を併合した途端、統治のために官僚制を敷かざるを得なくなる。天子が支配する国家を目指さざるを得ない訳で、それは部族統合国家の文化とは両立し得ないのである。 征服王朝と呼ばれる満洲族の清も、黒竜江から新疆、チベットまでを支配する大帝国を樹立したが、満洲文化ではなく、漢文化に傾注することになる。と言うか、徹底的な思想統制で天子が望む漢化を徹底したのである。満洲色はせいぜいが服装と髪型位のもの。 もともとツングース系は万里の長城を越えた南下政策をしなかったのだが、覇権を握るべく一線を越え、それによって気付かないうちに自ら漢民化の道を歩んでしまった訳である。 繰り返すが、漢民族とは異民族の融合体。天子の下、漢字を用いる官僚制によってそれが可能になるのである。 ─・─・─文字の系譜─・─・─ → 日本語だけは、類縁性検討に特別な方法論が必要そう[2011.1.20] ┼┼┼┼[795年万葉集〜] ┼┼┼┌和漢字【音節(表意&表音)】 ┼┼┼│(ママ漢字+万葉仮名+国字→カタカナ[略字]/ひらがな[草書]) ┼┼┼│ ┼┼┼│ ┼──┤【音節(表意→表音)】漢字系 ┼┼┼│ ┼┼┼│┼┼┼┼[13〜20世紀中期] ┼┼┼│┌───チュノム[喃字]文字 @越南/ベトナム ┼┼┼││ ┼┼┼││┼┼[1036〜1502年] ┼┼┼││┌─西夏文字 ┼┼┼│├┤ ┼┼┼│││ ┼┼┼│││【音素的音節(表音)】 ┼┼┼│││┼┼┼┼[1446年李氏朝鮮〜] ┼┼┼││└──ハングル文字 ┼┼┼││┼┼┼↑ ┼┼┼││┼┼┼|【音素+フォントモジュール】 ┼┼┼││┼┼┼モンゴル新字(パスパ方形:チベット仏教) ┼┼┼││ ┼┼┼└┤┼┼[12〜15世紀] ┼┼┼┼│┌─女真文字 ┼┼┼┼└┤┼┼↑ ┼┼┼┼┼│[10〜12世紀] ┼┼┼┼┼└契丹文字 ┼┼┼┼┼┼┼┼↑ ┼┼┼┼┼┼┼[8世紀〜] ┼┼┼┼┌ウイグル文字 ┼┼┼┼│┼│ ┼┼┼┼│┼│┼[1208年〜] ┼┼┼┼│┼└─モンゴル文字 + 新字(パスパ方形:チベット仏教) ┼┼┼┼│┼┼┼┼│ ┼┼┼┼│┼┼┼┼│┼[1599年〜] ┼┼┼┼│┼┼┼┼└─満州文字 ┼┼┼┼│ ┼┼┼┼[4〜11世紀] ┼┼┼┌ソグド文字 ┼┼┼│ ┼┼┼│[5〜13世紀] ┼┼┼├突厥文字 ┼┼┼│ ┼┼┼[B.C.6世紀〜・・・] ┼┼┌ブラーフミー文字 ┼┼│【音素(子音-母音付加記号「アブギダ」)】 ┼┼│┼│ ┼┼│┼├───梵字(悉曇文字) ┼┼│┼│ ┼┼│┼└(チベット,クメール,ジャワ文字) ┼┼│ ┼┼├(ヘブライ,シリア,ナバテア,パルミラ,マンダ,パフラヴィー文字) ┼アラム文字[B.C.600〜A.D.600年]【音素】 ┼┼↑ ┼フェニキア文字[B.C.1050〜・・・] →ギリシア文字 ┼┼↑ ┼カナン文字[B.C.1400〜B.C.1050] ┼┼↑ ┼シナイ文字[B.C.2000〜B.C.1500] ┼┼↑ ┼ヒエログリフ/エジプト文字[B.C.3200〜・・・] (C) 2015 RandDManagement.com |