表紙 目次 | 🌱 2016年2月7日
水仙の風土(一帯一路花) 言うまでもないが、「一帯一路」とは習近平主席用語。東南アジア、中央アジア、ロシア、ヨーロッパを網羅する中華的汎ユーラシア経済圏構想を指す。人口を合計すると約30億。 その大陸回廊の象徴として、小生は地中海原産である「水仙」をあげたい。 → [参考]「河西走廊[付録] 」[2010.11.20] 極東の日本では、渡来した水仙類のうち、精神的に根付いたのはシシリー島原産種のニホンスイセンのみ。それ以外は今もって外来種か栽培雑種扱い。スイセンは漢語だが、後述するように、雪月花的呼称の日本語別名がある。だが、それは中国では余り使われていないだけ。つまり、決して和語を造ろうとはしなかったのである。海外文化を取り入れて楽しもうという姿勢と見てよいだろう。おそらく、水仙とその逸話が渡来した時に、「極西」の葦的神聖な草と見抜いていたということ。 言うまでもないが、中華帝国がこのような姿勢を見せることは無い。公的に天子が認定しない神聖な植物などありえない社会だからだ。言うまでもなく、水仙が通ってきた道を差配するのは、天から命を受けた中華帝国の天子のみなのである。 従って、そんな思想の下で、スイセンの名前を官僚文人達が決めてきたのである。
日中の風土的違いがわかるように、そこらを解説してみよう。
まず、RHSの13分類だが、以下のように整理したのは、日本的な見方から。 [→] [1] いかにも西洋タイプ・・・喇叭(八重)、等 [2] 反り返りタイプ・・・日本ではマイナー [3] ベースの2つ・・・日本水仙(白)と黄水仙 [4] 他(口紅、等) 日本は、この程度の大雑把なもので十分なのである。 それがわかるのが、どのように誕生花に設定しているか。同一日に水仙以外の花も指定されているが、概ねこんなところ。(様々な説がある。これはWiki掲載。) 白水仙:1月3/4/13日 黄水仙:1月2/4日、4月3日 糸水仙:3月16日 喇叭水仙:1月13/16日、2月9/16日、3月1日 口紅水仙:4月3日 笛吹水仙:4月3日 つまり、マニアを除けば、この程度の関心ということ。
しかし、これが中国になると、このレベルで収まる訳がない。官僚主導国家では、情緒的な大雑把な見方は厳禁。なんとなく「水仙」類と言う訳にはいかないのだ。(勿論、1987年制定の国家として誇るべき十大名花に選定されている。)以下の誕生花の設定を見れば一目瞭然。 【中国生日花】 水仙/Autumn-flowering Narcissus:10月29日 黄水仙/Daffodil:2月9日 〃/Wild Jonquil:3月27日 〃/Yellow Sternbergia:9月30日 野生水仙/Wild Daffodil:2月29日。3月6/7日、4月13日 白色野生水仙/White Wild Daffodil:4月18日 野生黄水仙/Wild Jonquil:3月8日 喇叭水仙/Petticoat Daffodil:3月9日 純白水仙/Paper-White-Narcissus:3月16日 雪白水仙/〃:4月21日 絶世水仙/Pearless Narcissus:3月23日 小型水仙/Dwarf Narcissus:3月31日 紅水仙/Red Polyanthus:4月9日 紅邊水仙/Poet's Narcissus:4月27日 雉眼水仙/Pheasant's Eye Narciss:5月3日 (秋水仙/Meadow Saffron:8月6日、9月11日)
上記は「水仙」であるが、用いられた名前は色々ある。順に見ていくことで、その体質が見えてくるのでは。
先ずは、渡来直後の名称から。 【𧛮祇】(唐代漢字音:nai-gi) ・・・シリア国の産。地中海的。(東ローマ帝国か?) 花弁から精油。(作香澤,塗身理發,去風氣。) 色からすると、口紅水仙系だろう。 間違いなく、アラビア語音の当て字。 祇であるから「神」的植物扱い。 (source) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎 3」東洋文庫/平凡社 1980---"巻18廣動植之三・木"#774では、「𧛮」ではなく、「扌+柰」だが大漢和辞典非収載文字。下記のように「捺」を異體字扱いしているものも。 「酉陽雜俎」云:捺祗出拂林國,根大如雞卵,苗長三四尺,葉似蒜葉,中心抽條,莖端開花,六出紅白色,花心黄赤,不結子,冬生夏死。取花壓油,塗身去風氣。據此形状,與水仙倣佛,豈外國名謂不同耶?[「本草綱目」]
外来語で取り込むのは面白くないので、新たに命名する必要がある訳だ。それがよく知られている用語。 【金盞銀臺】 ・・・花形が金銀台花之状。 → 「金盞銀台でなく冬知らずでは 」[2015.11.16] 「金盞銀台。時珍曰:此物宜卑濕處,不可缺水,故名水仙。金盞銀台,花之状 也。」[李時珍:「本草綱目」 第13巻]
葉や根での命名ならこうなる。 【雅蒜、天葱、儷蘭】 ・・・葉は大蒜類似。球根は葱類似。
官僚的には、棲息状況で命名したいから、こうしたかったに違いない。 【水鮮】 ・・・卑湿処棲息。
ただ、これでは、天子が中華の花と認定するような気高さを欠く。神聖な花として伝来したのだから、それなりの遇し方があろう。 【水仙】 ・・・香りは清にして幽。仙境に咲く花。 「用子服韵謝水仙花」 [宋 朱熹] 水中仙子来何處,翠袖黄冠白玉英。 報道幽人被渠惱,著詩送与老難兄。
道教的社会からすれば、「水仙」の身近な表現も必要となろう。 【凌波仙子 凌波客】 ・・・球根が海に流され、波間を漂い、 異郷に到着し、そこで繁殖。 と言うより、群生し青々した葉が揺らぐ様。 日本では、反逆児的禅僧が使っている。 「美人陰有水仙花香」 [一休宗純] 楚臺應望更應攀,半夜玉牀愁夢顏。 花綻一莖梅樹下,凌波仙子繞腰間。 えらくエロチックな表現であり、冗談にしては過ぎる感じもするから、この言葉は面白くないのかも。 宋代の詩人としては、どうも黄庭堅が水仙一途だったようだ。当然、様々な表現を試みることになろう。 「王充道送水仙花五十枝欣然会心為之作咏」 [宋 黄庭堅] 凌波仙子生塵襪,水上輕盈歩微月。 是誰招此斷腸魂,種作寒花寄愁絶。 含香體素欲傾城,山礬是弟梅是兄。 坐對真成被花惱,出門一笑大江。 この他にも、黄庭堅の詩には「呉君送水仙花并二大本」、「劉邦直送早梅水仙花四首」、「王充道送水仙花五十枝欣然会心為之作咏」がある。
さて、ここで日本表記を。 【雪中華】 ・・・寒冬期に白い花弁の花を咲かす。 雪の歌とてよめる 霜枯れの まがきのうちの 雪見れば 菊よりのちの 花もありけり [藤原資隆朝臣 千載和歌集卷第六] 上記の歌では、水仙の名称は無い。真っ白な「雪」が「雪中華」を示唆しているにすぎない。 室町時代の漢和辞典によれば、水仙花は「日本名雪中華」。「是弟梅是兄」とされる。東麓破衲:「下学集2巻 早木門」(1444年) NDL所収 54/75 [→] と言うことは、梅同様に貴いという位置付け。梅も渡来植物だが、"mUme"は漢語とは思えない。しかし、雪中華はどう見ても漢語であって、大和言葉ではない。和名を造ろうとはしなかったのである。どうしても大和言葉でなければという歌人だと、「山人」を花名にするしかないのである。 水仙といふ花のゑに 梅よりも なほさきだち 山人と 名におふ花や 花のこのかみ [本居宣長 鈴屋集]
植物と一緒に渡来した神話が土着風伝説化するのはよくあること。道教の神々は、官僚制度で統治されているから、このような位置付けなくして、単なる「仙」とされたのではおさまりが悪いのである。 【女星、姚女花、女史花】 ・・・舜帝姚重華。 舜帝の后となった、堯の娘であるの娥皇と女英は、帝崩御で湘江にて投身自殺。その化身が臘月的花神水仙。 兪樾「十二月花神議」では、水仙花はその12月で、女神は梁玉清[=太白星竊織女侍兒@太平廣記]。
そのような話が定着すれば、富貴大好きな風土だから、それなりの言い回しも生まれる。 【玉玲瓏】 ・・・八重咲の玉のような様子。
ここでほぼ終わりということだが、よく引用される名称があるので、それを付け加えておこう。 【百葉水仙】 ・・・福建名花の漳州水仙[→]。卷皺的花瓣如百摺裙子。 なんだ、ローカルな有名な品種かと考えるなかれ。もちろん各地で競争というのが、官僚制国家の特徴だが、おそらくこの品種が「一帯一路花」とされるだろう。イランのBehbahan産を追い落とし、中華帝国圏の飾り華の標準品化を狙うことになろう。官僚独裁国家とはそういうもの。為政者は変わり、見かけの体制は異なるが、何千年間もそうしてきた国なのである。
(水仙漢詩類の参考になる記載) 「御定佩文齋广群芳譜卷五十二」 卷五十二 花譜 水仙 (C) 2016 RandDManagement.com |
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