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2005.8.22
 
 


ソニーの業績を見て…

 ソニーの2005年度第1四半期業績は思った以上に悪かった。
 エレクトロニクス・セクターの外部顧客向け売上7.5%減、営業赤字363億円である。営業利益大幅減の原因は、売上減(-193億円)と変動費悪化(-257億円)とされる。(1)

 悪かった割には、以前のソニーショックの時のようには株式市場で大きく騒がれなかった。日本を牽引するリーダー役の企業と見られなくなったようだ。

 それも無理はなかろう。
 外から見る限り、技術力が生かされているとは思えないからだ。

 この会社は、もともと、電池で動く小型高性能商品の開発力が優れていた。ところが、どうした訳か、この伝統を生かした事業がさっぱり振るわない。
 対象分野が成熟した訳ではない。AV分野なら超小型ビデオカメラやシリコンオーディオ、情報分野なら携帯型パソコンやPDA、通信分野なら携帯電話など、先頭を切れる商品ジャンルは色々あった。ところが、携帯電話の合弁事業を除けば、どれも中途半端なポジションに甘んじているようだ。どう考えてもおかしい。

 振り返ってみれば、こうしたジャンルで、結構、先陣を切っていた商品もある。従って、ネットワーク技術の進展に合わせ、市場開拓型のダイナミックな展開をしていれば、チャンスを生かせた筈なのである。
 折角のチャンスをみすみす逃してきた理由は、市場が見えてから、ブランド力を生かして本格的な事業展開を図っても勝てると踏んだのではないか。そうでなければ、ここまでポジションが落ち込むことはなかっただろう。

 もっとも、市場では、こうした商品群より、テレビ事業を問題視しているようだ。

 それも当然だ。
 ブラウン管時代は“トリニトロン”という武器で席巻できた。しかし、培ってきたブランドイメージだけで、フラットディスプレーテレビ市場でもリーダーの地位を維持できるとは思えない。一体、何を武器にして戦うつもりか、外部からはさっぱりわからない。

 日経ビジネスによると、株式市場関係者はソニーの構造改革を失敗と見なしたという。テレビ事業の再建がアキレス腱という訳だ。ポイントは3つ。(2)
  ・ブラウン管の再編が追いつかない
  ・安くしても売れない「ベガ」
  ・プラズマの攻勢でリアプロ失速

 指摘の通りだろう。

 もともと、フラットディスプレー分野は技術競争が激しかった。
 液晶では、当初、エプソン、シャープ、日立の技術開発が早かった。
 プラズマではNECや富士通は優れた技術を持っていたし、日立、パイオニア、松下は材料メーカーの力を上手くつかった。
 これを踏まえて、現実のビジネス状況を見れば、純技術のガチンコで勝負が決まる訳ではないことがわかろう。勝利の鍵は技術を生かす戦略にある。
 その観点でソニーのテレビ事業を見ると何を武器にどう戦うのか曖昧な方針に映る。これでは勝利の女神が微笑むことはないのではなかろうか。

 一世風靡したプレイステーション事業にも不安を覚える。

 圧倒的な地位を築いたプラットフォーム製品だが、用途は結局のところゲーム止まりである。残念なことだ。
 しかも、圧倒的な地位を築きながら赤字事業である。PS2からの収穫は思ったより小さいことになる。そこへ、高価なハードのPSP浸透のための投資と、次世代機の研究開発費がかぶさる。この先、上手く回るのだろうか心配になる。
    → 「新型携帯ゲーム機投入の意味 」 (2004年12月14日)

 ハードの普及は投資と考え、ソフト販売で収益をあげるモデルが、この先も成り立つとは限らないと思うのだが。
    → 「ゲーム機器の大勝負 」 (2005年5月23日)

 こんな様子を見ていると、危なさを感じる。閉鎖的なビジネス展開に固執しすぎているように見えるからだ。

 確かに、自社規格を世界の標準にすれば、独占利潤を享受できよう。しかし、市場リーダーなら、オープンな標準でも高収益化は可能である。基本技術で差がなくても勝てる戦略を練ればよいのである。こちらの方が収益性も高いかもしれない。
 純技術のガチンコで負けることがない商品でも、収益低迷では勝利者とは言えまい。

 ・・・と見ていくと、半導体上にノウハウを詰めこんだ商品で儲ける仕組みが上手く動いていないのではないかとの危惧の念を抱かざるを得ない。
 半導体設計はお金がかかる。戦略的に練り抜いたロードマップを無視して、無理な開発を行えば衰退の道を歩みかねないのだ。
 例えば、画像処理用の半導体なら、自社開発しなくても極めて安価に外部調達できる。そんな状況下で、重複開発をしたり、新スペックを次々開発など厳禁である。

 無理筋に挑戦しているのでなければよいが。

 --- 参照 ---
(1) http://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/financial/fr/05q1_sonypre.pdf
(2) 「ソニーのテレビ大不振、3つの誤算」(2005年08月09日 大竹剛)   http://nikkeibp.jp/wcs/leaf/CID/onair/jp/biz/390180


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