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2006.9.25
 
 


品質問題の記事を見て…

 従来型の品質担保策が奏功しないのではないか、と言うことで話を始めたのだが、品質問題が大きく取り上げられているので、ちょっと触れておこう。
  → 「重大事故と製品品質の連関はあるのか 」 (2006年9月14日)
  → 「アセンブリ産業での不良発生現場とは 」 (2006年9月21日)

 典型は、2006年9月21日付けNew York Times の記事。(1)

 ここまで大騒ぎするのも、当然かも知れない。
 なにせ、20日開催されたトヨタ自動車の“2006年度経営説明会”(2)で、「足元を固めながら成長する」ということで、トップが、品質についてのコミットメントを語ったからである。
 品質が問題視されていることを受け、原因を追求し、早期発見、早期対策、問題発生の未然防止を図るそうだ。

 お客様視点とゼロ・ディフェクトの進化・深化とのスローガンで、品質担保に邁進するとのことだ。トヨタらしい意気込みが感じられる発表である。
 どうも技術人材の育成強化で突破していく腹づもりのようだ。いかにもこの企業らしい姿勢である。

 正論ではあるが、ヒトの育成強化には時間がかかる。一方、技術の複雑化はさらに進むから、簡単に追いつかない可能性もあろう。
 ここが、一番の問題だと思う。

 日本の品質向上運動が奏功したのはヒト作りにあったことは間違いない。チーム活動による切磋琢磨が世界に誇る品質を実現したのである。
 気付いた点はできる限り直そうという態度を、ヒト作りの基本としたから上手くいったとも言える。ここには、たとえ小さな問題に見えても、よく考えていくと大きな問題に繋がる可能性があるとの思想が根底にある。考え方としては、その通りだろう。ここからイノベーションが生まれる可能性さえある。

 この発想のマネジメントとはどんなものかは、80年代初頭の半導体製造での例がわかり易い。・・・半導体チップの型番表示の印刷が曲がっているものを日本では不良品と見なした。言うまでもないが、型番が読めない訳ではないし、機能が劣るものでもない。これは行き過ぎたやり方という意見もあったが、日本流では見逃す訳にはいかないのである。絨毯爆撃のように問題を潰す過程を通じて、ヒトを育てたからである。
 しかし、それが奏功し続けることはなかった。

 それはともかく、絨毯爆撃の意味を考えてみよう。
 課題分類を示す右図で考えるとわかり易い。企業にとっては、先ずは、解決が「不可欠」な課題に取り組み、余力で「挑戦」課題へと展開していくのが基本だろう。
 ところが、品質問題のポイントは、「?」分野をどうするかにある。ここに該当する課題は、解決したところでインパクトは小さい。「回避(放棄)」してもたいした影響はでない。しかし、それは浅知恵かもしれない。ネズミの穴から堤防が崩れることもあるからだ。だが、そんなことを言っていたらマネジメントにならない。「?」分野でなく、「挑戦」分野に注力するというのも一つのやり方だ。
 ただ、「?」領域の課題に丹念に対応してきたのが日本流マネジメントである。ここだけ見ると、効果が薄い努力を重ねていると解釈することもできる。他の重要な課題に資源を回した方が合理的とも言えるからだ。

 しかし、全体を俯瞰すると、この、一見非効率な動きが、長期的には大きなプラスに働いてきたのである。

 その理由は単純である。
 誰でもが「不可欠」とわかっている課題は、組織体制が整った部隊が担当する。すると、これ以外の部隊は、ルーチンワークだけで、知恵を発揮する機会を失いかねない。そこで「?」分野を詰める仕事を担当するとも言える。
 それほど難しい問題ではないから、力を割けば必ず解決する。ただし成果としては小さい。しかし、これを積み重ねれば、量はいつか質に転化する。まさに弁証法の世界だ。
 だが、それ以上に大切なのはヒトの育成効果である。
 大きな課題ではないから、それぞれの部隊が自律的に動いて解決する。ここが肝。
 問題を発見し、それを効率よく解決する仕組みを自ら動かすからのだ。たとえ、課題自体は小さくても、ヒトは育つ。この訓練を続けていけば、小さいと思われた課題のなかから、インパクトが大きな課題を発見したりする。優秀なヒトが生まれてくる訳だ。自律的な動きだから、自動的にヒトの選抜も行われる。
 素晴らしい仕組みが出来上がっていると言えよう。

 ところが、技術が複雑になってくると、この構造が破綻しかねない。問題発生が多岐に渡るから、「?」領域で絨毯爆撃を続けたところで、対象範囲が広すぎて、役に立つ人材が育たないかもしれないのだ。

 要するに、従来型展開で力を発揮できる領域と、そうはいかない領域の峻別が必要になったということである。

 これはパラダイムが変わるということでもある。
 誤解を恐れず語れば、ゼロ・ディフェクトを確約すべき領域を明確化するということ。
 “本当の”カスタマー・ファーストを追求すると、こうならざるを得なくなるのかもしれぬ。
続く → (2006年9月28日予定)

 --- 参照 ---
(1) MARTIN FACKLER:“Japanese Fret That Quality Is in Decline”New York Times[2006.9.21]
  http://www.nytimes.com/2006/09/21/business/worldbusiness/21quality.html?_r=1&oref=slogin
(2) 渡辺捷昭社長のプリゼーテンション資料と録音 http://www.irwebcasting.com/060920/01/3f76b53ea5/index.html


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