↑ トップ頁へ

2009.5.28
 
 


ナギの木を眺めて…

 熱海の来宮神社の楠から古代話に繋げてしまった。
  → 「クスノキを眺めて」 (2009年5月15日)
 ところで、熱海でもう一つの神社を訪れた。伊豆山神社(1)である。北条政子と源頼朝の出会いで有名なため、縁結びの神社とされているそうだ。お守りは梛(ナギ)の葉。

 境内には楠だけで、梛は見かけないが、 海から続く長い階段の中途の道路が横切る広場にある鳥居の両側に数本が植わっていた。特徴はすぐにわかる。葉脈が竹のように縦である点。葉は手で取れる位置にないから確認は厄介だが。
 なんとなく、古代樹の印象を与える木である。
 楠同様に常緑樹。ただ、葉が黄色くなり落ちる。そして、次の葉が産まれるようだ。
 生まれ変わり信仰の琴線に触れる、“譲り葉”の樹木なのである。

 こちらの木も、南洋の木だ。日本では、三重県南部または山口県小郡市より南、台湾と中国本土の南部で自生しているという。(2)伊豆山はほぼ北限かも。

 海が凪ぐというナギに繋がるとされているようだが、(3)南木という意味ではないか。

 クスノキが木偏に南と書くのと同じ。ただ、こちらはそれなりの高木にはなりそうだが、巨木化しそうにはない。

 一説によれば、海路安全の護符とされ、漁師の必携だったとか。それは、熊野神社の御神木だからか。速玉大社の木は巨木だ。(4)熊野三山では禊(みそぎ)の木として使われてきたということのようだ。
 ただ、本宮ではイチイとされているのは合点がいかぬが。(5)

 当然ながら、京都の熊野信仰の中心、新熊野神社でも、御神木である。そのため「梛の宮」とも呼ばれるという。(6)梛と八咫烏が社紋である。尚、社頭の大樟もよく知られている。

 熊野系ではないが、奈良の春日大社の伐採禁止の裏山「御蓋山」には榊や梛が繁っているそうだ。(7)鹿は馬酔木同様に嫌いなので残ったのだろうか。尚、ここにも、飛火野の大楠、若宮の大楠がある。(8)

 ただ、楠と違い、こちらは葉が祭器的に使われる。椿系の榊と用途は同じである。ただ、榊は生垣にもできる低木だし、本土の湿潤な気候には合っている。榊は梛の代替ではないか。

 楠と梛は、どう考えても、これは沖縄から黒潮に乗って人が運んできた木である。柳田國男の絶筆「海上の道」の骨子は当たっていそうだ。
 なにせ、木だけでなく、貝や赤米も渡ってきたのだから。ただそれは、朝鮮半島から先端技術が入ってくる相当前のことに違いない。古事記では、葦船と楠船の頃ということか。

 そして、結局のところ、この赤米栽培ではなく、より効率的な水稲栽培に力を入れ、南海の貝はより高度な模造品を作るようになり、梛ではなく榊を用いて神域の境用途まで作りだし、楠船は作り易く大量生産可能な杉船へとした。国土の状況に合うように徹底した工夫を図り、渡来時には考えられぬほど便利なものにしてしまったのでは。
 コレが、倭人の実像かも知れぬ。
  → 「おおつたのは貝の話」 (2009年5月22日)
  → 「赤米から見えてくる古事記の世界」 (2007年4月17日)

 --- 参照 ---
(1) “神木梛及び神湯梛の湯”伊豆山神社「境内・社殿」
  http://jinjya.info/kyounai-syaden.html
(2) 「なぎ」 跡見群芳譜
  http://www2.mmc.atomi.ac.jp/web01/Flower%20Information%20by%20Vps/Flower%20Albumn/ch2-trees/naghi.htm
(3) 樹木物語 「大銀杏より大切な?の木<<梛>>なぎ」 鶴岡八幡宮
  http://www.hachimangu.or.jp/about/nature/trees/cont01.html
(4) 「ナギの木」 熊野速玉大社
  http://www2.ocn.ne.jp/~sanzan/NTTcontents/hayatama/shaden/shaden2.html
(5) 「神木 なぎの木」 熊野本宮大社
  http://www2.ocn.ne.jp/~sanzan/NTTcontents/hongu/shinboku/sinboku.html#sinboku2
(6) 「御神木・御神鳥」 新熊野神社
  http://imakumanojinja.or.jp/myweb1_007.htm
(7) 「春日大社」 日本の世界遺産 USSA Land
  http://www.geocities.jp/ussa_land/heritage/nara/06.html
(8) “一之鳥居から二之鳥居へ” 春日大社
  http://www.kasugataisha.or.jp/guidance/morisanpo.html
(梛紋のイラスト) 家紋のCrest Japan http://crest-japan.net/


 歴史から学ぶの目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2009 RandDManagement.com