表紙
目次

■■■ 日本の基底文化を考える [2016.1.2] ■■■
日本の色彩感覚の原点(東西南北)

四方の春についての話[→]をしたので、正月らしく、続いて東西南北について。

色をエッセイ的にとり上げた文章に必ずと言ってよいほど登場するのが、お相撲。
土俵には神様が宿り、それを見守るのが吊り屋根から四方に垂れ下がる黒・青・赤・白の4色の房とのお話がなされる。その起源は中国の五行での四方に対応するとの解説付き。ご親切にも、この色は季節も現す用語とも。さらに、それが誰でも実感できるように、この季節色は年齢を示唆しており、結構使われる用語があると記して話を終えるパターンが多い。(青春期→朱夏期→白秋期→玄[厳]冬期)
その、五行の東西南北色彩感とは以下のようなもの。
  【中国五行感】  →四神獣 →四時(四季)
■青・・・成長中のの葉 →龍 →春
西□白・・・属光沢 →白虎 →秋
■朱・・・灼熱の輝く炎 →雀 →夏
■黒・・・深い底 →武 →冬
■黄・・・中原黄 →龍+天子 →土用
■紫・・・■陰+■陽 →天帝

相撲の件だが、その通りかも知れぬが、疑問が湧かないでもない。
アナウンサーは度々「正面黒房下」で、「向こう正面赤房下」と語るからである。北と南ということで、力士は、東方と西方から登場するから、それでかまわないとはいえ、小生は大いに気になるのである。東西の土俵の上り口に房が下がっているとの表現にしか思えないからだ。そのころは、正面席から真っ直ぐ土俵を眺めるとそこに房が見えることになる。
そもそも、昔は、屋根は4つの柱に支えられていた筈。柱の間から土俵に上るしかない。当然ながら、柱の方位とは、東北と東南、西北と西南だろう。房が柱の代替だとすれば、東西南北との設定はおかしくないか。言葉通りに解釈すれば、吊り屋根の角が東と西にあり、そこから土俵に上ることになる。しかも、その角に暖簾のように房を垂れ下げる訳だ。
そもそも、もともとの土俵の四本柱が四色だったのだから、こんなことはあり得まい。
常識的には、本格的な大相撲興行では、四本柱はすべて、神社の鳥居同様に朱に塗られるのが自然。そまなくば、素木の丸太が似つかわしい。
もしも、そうだったとすれば、柱代替と言われている房に、五行の四方色を当て嵌めるのは後世になって考案した飾りとは言えまいか。調べた訳ではないので、間違っている可能性も高いが。

そもそも、日本には春夏秋冬の色彩感が定着しており、上記の様な五行の東西南北色をあてはめるのは無理筋。
  【日本の四季の色 v.s. 五行色
■桜 v.s. ■木・・・東
■紅葉 v.s. □金・・・西
■新緑 v.s. ■火・・・南
□雪 v.s. ■水・・・北

つまらぬことをグダグダ言うのは、小生は、日本のこうした色は、中華の五行が直接入ってきた訳ではなく、伝来した中国仏教の決まり事に従っているからと見ているからだ。些細な話だが、コレ、結構、重要。

五行の色が実感できるのは、なんといっても、仏教行事の五色幕。
"白・赤・黄・緑[青]・紫/茶[黒]"が定番だと見るが、多分、それぞれの宗派毎に正式な色調が規定されているのだろう。この幕は一度見ると忘れられないなるのは、寺院そのものは年季が入っているので褐色系なのの、幕は派手でその色使いが矢鱈に目立つから。どうしても、一瞬違和感を覚えてしまうが、もともとは、これこそが荘厳さを示すものだったのだ。東大寺の式典も色とりどりだった訳で。
密教系は、もともと色使いが経典で指示されているようで、本来の仏殿は、カラフルな像が溢れかえっていた筈である。
五色は五行と一致しているが、こちらは火水木金土ではない。黒は風、白は金属ではなく水、青は木でなく空。無理矢理五行の色に合わせた訳ではないと思うが、実際のところはどうなっているのかさっぱりわからない。
  【密教感】 →東大寺鎮護仏教感
■青・・・空=阿如来 →持国天
西□白・・・水=阿弥陀如来 →広目天
■赤・・・火=宝生如来 →増長天
■黒・・・風=不空成就如来 →多聞天
■黄・・・地=大日如来■金盧舎那仏

わざわざこのような一知半解的説明をするのは、チベットでの曼荼羅作成の写真を見ると、この五行色とは違っていたりするからだ。地域性なのか、宗派性なのかはわからないが、違った発想があるのは間違いない。
  【西蔵金剛界曼荼羅彩色図感(例)】
■青・・・阿如来
西■赤・・・阿弥陀如来
■黄・・・宝生如来
■緑・・・不空成就如来
□白・・・大日如来

そもそも、チベットの配色自体が中華五行と異なっているとの指摘もあるようだ。残念なことに、それぞれの色の意味はよくわからない。と言うことは、以下に示す配色がチベットを代表している形式であるとは限らないということかも知れぬ。
  【西蔵仏教的感覚(例)】
■黄
西■緑
■赤
■青
□白

それはある意味当然のこと。信仰する経典が違えば、配色は違って当たり前。聖書の色感覚はえらく違う。
  【聖書的感覚】
■赤・・・日の出=贖罪の血
西□白・・・神
■灰・・・斑状況の死
■黒・・・暗闇
■青・・・青銅蛇の天国

しかも、それはギリシアの感覚とも相容れないようだ。
  【古代ギリシャ的感覚】
■黄・・・火
西■黒・・・水
■赤・・・大気/風
□白・・・大地
__

東方正教圏とも一致点があるとは思えない。
  【スラブ的感覚】
■緑
西■赤
■黒
□白
__

中華圏と似ていると感じるのはトルコである。イスラム圏だから、その象徴たるムハンマドの旗色を中央に配するのは当然であり、それ以外は中華圏と同じ発想かも。
  【トルコ的感覚】
■青
西□白
■赤
■黒
■緑

ちなみに、ユーラシア大陸でもかなり文化的には遠そうな部族には、全く当てはまらない。
  【オイラート的感覚】
□白
西■赤
■青
■黄
__

ついでといっては何だが、文化的にユーラシアの民族とは切れていると思われる北米原住民のインディアン系部族の砂絵も参考に眺めておこう。ナバホ族砂絵は、古代信仰の典型的考え方だとの印象を受けるが、ここまで眺めてきた例を見る限り、そのような発想で色が決められれてはいないのである。
  【ナバホ族砂絵感覚】
□白・・・夜明の空と山
西■黄■赤・・・黄昏の空と山
■青・・・日中の空と山
■黒・・・夜の空と山(暗闇)
__

実際、同じ北米原住民でも部族が違えば、そんな感覚は通用しないのだ。こちらは、いかにも戦争の影を感じさせる定義。
  【北米チェロキー族感覚】@powersource.com
■赤・・・勝利
西■黒・・・死
□白・・・平和
■青・・・失敗
■緑
■黄
■茶

南半球では、南北感覚が異なってくるので、どうなっているか参考迄。少々違いはあるものの、これは上記のナバホと似た信仰が根底にありそう。
  【南米マヤ文明的感覚】
■赤・・・日の出=再生=生贄の血
西■黒・・・日の入=暗闇=死
■黄・・・復活前=苦闘=トウモロコシの穂
□白・・・天頂の太陽=最高=王位
■緑・・・生命の木=中心

ダラダラ情報をあげつらいたい訳ではないので、そろそろ、本論。

中華帝国が愛好する四方色は何から来ているのかである。一般には、冒頭で示すように、木=東、金=西、火=南、水=北、中原=土という五行の思想に基づいているだけだから、それで納得せよということになる。
しかし、それでしっくりくるかネ。水の湿地帯は北ではなかろう。北は針葉樹の森である。南方ほど温かくなるが、それは火の概念と一致するとは限らない。ギリシアでは火は黄色で東方を示している。それは拝火教なのかも知れぬが。
そもそも、中央は黄色という設定が小生には訳がわからぬ。どうして中央の一番大事なところが土なのだ。常識的に考えれば、ここは金でなくては。

そのように考えると、この四方の色とは、中華大帝国樹立の思想が根底にあると見なした方がすっきりする。

おわかりだろうか。
中央に中原の象徴たる黄色を設定したのなら、それ以外も「土」でなければ、なんの意味もなかろう。東西南北の土を当て嵌め、それに後から、「火水木金土」の一番近いものを持ってきたにすぎまい。
つまり、こういうこと。・・・
  【推定:中国土壌分布】
■青・・・沿海河川デルタ青灰色湿泥土
西□白・・・砂漠/乾燥薄灰色土
■朱・・・火山系赤土
■黒・・・針葉樹森林黒土
■黄・・・黄土高地/沖積地

さすれば、等税南北の色は変わらぬが、五行の当て嵌め方は違っていてもおかしくないのでは。
  【一案】
■青・・・木→水・・・湿地の世界
西□白・・・金→土・・・砂塵の世界
■朱・・・火→火・・・火山の世界
■黒・・・水→木・・・森林の世界
■黄・・・土→金・・・覇権(武器)の世界

折角だから、お正月の与太話をさらに続けようか。
本日はここまでとして。
  本シリーズ−INDEX> 超日本語大研究−INDEX>  表紙>
 (C) 2016 RandDManagement.com