[→本シリーズ−INDEX]

■■■ 日本の基底文化を考える [2018.5.30] ■■■
蜘蛛をこよなく愛した人々[6]

歌での蜘蛛の初出は、「万葉集」の山上憶良:「貧窮問答歌」[#892]ということで、その後の蜘蛛の和歌を逍遥してみたが、実は、「万葉集」には蜘蛛が起用されている歌がもう一つある。・・・
    寄物陳思
  垂乳根之 たらちねの
  母我養蚕乃 ははがかうこの
  眉隠 まよごもり
  馬聲蜂音石花蜘荒鹿 いぶせくもあるか
  異母二不相而 いもにあわずして
   作者不詳 万葉集巻第十二巻[#2991]

意味は概ねこのようなものとされている。
   命のたまものたる(重そうに垂れた乳房状態の)
   母が飼っている蚕子が
   マユ(繭)に籠って隠れているように
   気が晴れないことである。
   妹に逢う機会がつくれずだから。

この歌は、書き言葉と、発声する言葉が別途発展していた頃のものとされる。いかようにも表現可能だったので、コミュニケーション的にはバリアが高かったのだろうが、逆に、仲間内では様々な言い回しできたのでそれを大いに楽しんでいたに違いなかろう。
その典型が、上記の歌の"いぶせく・も・あるか"
「いぶせ[欝悒狭←息伏迫 ]は"どうしようもなく息がつまる感じがしてきて気が晴れぬ"という発音言葉だが、これを文字で表現するのに漢字をあてている訳だ。・・・
 【イ】馬は嘶き (参考) 橋本進吉:「駒のいななき」@青空文庫
 【ブ】蜂は羽音を立て
 【セ】亀の手[→]は石花を咲かせ
 【クモ】蜘蛛はそこらに居り
   ["暖暖日欲冥, 觀騎立蜘。"用法から見て蜘蛛.]
 【アルカ】そして、鹿は荒れて跳ぶ。

一種の戯れ歌だが、馬、蜂、亀の手、蜘蛛、鹿と、回りには活き活きとして♀を求める生物だらけというのに、この私といえば、恋人との逢瀬もかなわず、籠りっぱなしで欝々とするばかり。コリャ一体ナンナンダと言うのだろう。歌でも作って憂さ晴らしサ〜。

  本シリーズ−INDEX> 超日本語大研究−INDEX>  表紙>
 (C) 2018 RandDManagement.com