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■■■ 日本の基底文化を考える [2018.7.16] ■■■
鳥崇拝時代のノスタルジー[6]
−燕は特別扱いだが土着的情緒を欠く−

//𪈏は、馴染み深い鳥なのに、古代の歌には滅多に登場しない。

「萬葉集」にはこれのみかも。
帰る雁を見る歌二首[巻十九#4144, #4145]
来る 時になりぬと 雁がねは 本郷くに偲ひつつ 雲隠り鳴く
春設けて かく帰るとも 秋風に 黄葉む山を 越え来ざらめや
一ニ云ク、春されば帰るこの雁

[古事記」だと、正確には燕ではないが、その分類とされていそうな名称が登場するだけ。・・・
勢夜陀多良比売は天皇の求婚話を以ってきた大久米命の目の黥を見て驚く。それはあめ鳥(胡子=雨燕)、つつ鳥(鶺鴒)、ち鳥(千鳥)。ましとと(真鵐=頬白)みたいだったから。[→]

大陸では由緒ある鳥だというのに。
"燕"は鳥や隹を用いる文字体系から独自した象形であることが、特別扱いされてきた証左とも言えよう。
 廿…頭
 口…胴
 北…翼(本来的には対称形だろう。)
 …尾羽("火"とは無縁なので、部首所属は考えモノ。)
その体躯は独特な感じがしたのだと思われる。
但し、乙鳥/イツチョウという表現もしばしば用いられている。こちらは、スイスイと高速で飛ぶ鳥といったところか。
しかし、なんといっても、尊ばれる理由の1番は、殷王朝の始祖という点だろう。その場合は必ず、"玄鳥"と呼ぶ。体色が黒色ということが重要なのだろう。

日本語の"つばくろめ"も、その黒色にハイライトをあてたかったのだと思う。
これをを"光黒鳥"とみなすのは、単衣に"つばき"と似た用法だから。椿は国字であり、いかにも土着的様相があるが、燕は渡り鳥であるから、感情を込める相手としては不足なのかも。

その代わり、渡りは季節感そのもの。
おしむらくは、それが中国王朝の暦の単なる真似以上ではないこと。というか、"玄鳥"に敬意を払った見るべきか。
言うまでもないが、七十二候のこと。"玄鳥至"は、日本では清明の初候(4月5日〜4月9日頃)だが、大陸では春分の初候。"玄鳥帰"は大陸は白露の次候で日本では末候となる。
("燕知社日辞巣去。":秋日東郊作 皇甫冉---燕は社日を知りて巣を辞し去る[和漢朗詠集])

さて、冒頭の"あまどり"だが、これは生物分類から言えば、ツバメからはかけ離れた種。
しかしながら、この種だけでなく、縁遠くても「燕」と呼ばれる場合は少なくない。6つもの群があるのだから。
順に見ていこう。

真の「燕」とはこのような鳥。
《"越"燕類》Hirundinidae
 //𪈏ツバメ…つばくらめ(光黒鳥)
 岩燕イワツバメ
 腰赤燕/山燕コシアカツバメ
 小洞燕/土燕ショウドウツバメ

この群と対比的に扱われるのが、"あまどり"の仲間。こちらは、中心地域は"越"から大きく離れている。
《胡燕類》
 冠雨燕カンムリアマツバメHemiprocnidae@森林棲(印〜ニューギニア〜メラネシア)
 雨燕アマツバメApodidae…あめどり
 穴燕アナツバメ@熱帯太平洋沿岸・島嶼
雨燕は空中高く飛んでの生活が主体。従って、体躯も大きい。ヒト生活圏で止まることは滅多にない。ヒマヤラ周辺が主棲息地と言われているが詳細な調査結果がある訳ではなさそう。ただ、営巣地はもっぱら岸壁の割れ目と見られている。もちろん、都合によっては、樹木の洞ということもあろう。
尚、食材の燕の巣(燕窩)で著名な種は穴燕。洞窟棲ということか。

この他には、海棲タイプをあげることができる。
《海燕類》
 海燕ウミツバメHydrobatinae
 潜海燕モグリウミツバメPelecanoididae
全身黒褐色であるから、海の玄鳥とは言えるが、親類ではない。
獣が近付きにくい小島で集団営巣するタイプ。帰巣は夜間のみで、燕の習性とはおよそかけ離れている。しかも足に水掻きがある。
ただ、海面すれすれを飛んで、表層プランクトンを捕食するから、その飛翔の姿は似ているといえばその通り。

《南方"希少迷鳥"燕類@西表島》
 森燕モリツバメArtamidae@フィリピン〜豪州北部〜ニューギニア〜マレー半島南部
《南方旅鳥燕類@南西諸島》
 烏秋/山燕オウチュウDicruridae@熱帯マダガスカル〜南アジア〜豪州
《燕似千鳥》
 燕千鳥ツバメチドリGlareolidae
収穫後の田圃や河川敷、礫が目立つ草地といった荒れ地の生活者。千鳥系なので水辺近辺であるのは間違いないが、乾燥地が選ばれる。狙っている餌の都合だろうが。
燕型の体形に似ていると言えなくはないが、歩けば千鳥であるし、体色は黒ではなく単彩的でもない。地面に居ることが多く、活動的ではなさそうだが、飛翔中に餌を獲るようだ。
そこだけ見れば、動きが早いから、燕と燕千鳥の見分けがつかぬということか。
夏、中国〜露南部で繁殖し、東南アジアで越冬というのが基本パターンだが、昔から、日本列島に来ることがあるようだ。

(Wikisource 万葉集 鹿持雅澄訓訂 1891年)
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