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■■■ 日本の基底文化を考える [2018.7.26] ■■■
鳥崇拝時代のノスタルジー[16]
−林禽系の大集団渡り鳥−

交喙(いすか)をとり上げたので、[→]同族の代表と言える"あとり"にも言及しておこう。

鳥に特段の関心が無い人達にとっては、この名前、初耳のことも。バードウオッチャーは、非水辺のポピュラーな渡り鳥との印象を持っている筈で、不思議に思うかも知れない。高尾山でも見かけるほどで、珍しい訳では無いのだ。

その理由は単純。知識ギャップが甚だしいだけのこと。

地域にもよるが、もともとは皆に知られた鳥だった。冬になれば、ブナ林や田畑の近辺に百万羽単位の大群でやってきたからだ。それが、環境が変わってしまい忘れ去らつつある。
日本列島に木の実や昆虫が豊富だった時代が終わってしまえば当然の話。

集鳥(あとり)とは、その名残と言ってもよかろう。
集団生活を好む鳥で、田畑近くの枯れ木に一斉に止まったりすれば壮観そのものだたろう。冬枯れのモノトーン的景色のなかに、喉から胸がオレンジ色の鳥が彩を添えるのである。冬の華と言うか、木に花が咲いたように見えたかも。しかも、小鳥ではあるが、雀より一回り大きい。有り難いことに、食べることができる。肉的観点では、雀的と言うより鶏的であろう。

"しかし"と言うべきか、"だから"と書くべきかはなんともだが、和歌の題材としては余り人気がなかったように思える。

それは、色恋沙汰を感じさせず、大陸からの難民対応を彷彿させたからでは。
言うまでもないが、この鳥の本拠地はユーラシア大陸亜寒帯に広がる針葉樹の森。現代日本ではもっぱら樺太からの渡来か。感覚的には、白樺林が似合う鳥。

そう感じるのは、「萬葉集」登場は防人の歌だから。
[巻二十#4339]
国めぐる 当か任けり(アトリ・カマ・ケリ) 行き廻り 帰り来までに 斎ひて待たね
[口語訳]@佐竹昭広,他:「新日本古典文学大系」四 岩波書店
国々を渡るアトリ・カマ・ケリのように、任地を回って帰るまで、身を慎んで待っていて欲しい。
代表的な大集団渡り鳥が登場していると見てよかろう。防人のように行き巡る訳だ。
 あとり(集鳥) 子鳥/花鶏/色鳥…は狼的な獸を指す。
   現在は大陸では"燕雀"、台湾では"花雀"。
 かま (東国語)⇒かも
 けり 鳧/計里/水札
後注はカットしたが、それによると作者は官位記載が無い刑部虫麻呂。755年、駿河から筑紫に派遣された模様。国内治安というより、大陸からの難民対策の方が重要だったろう。現代とは違い、中華帝国の貴重な文化を伝えてくれる貴族を迎え入れ、護衛する役割ということで。

(Wikisource 万葉集 鹿持雅澄訓訂 1891年)
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