[→本シリーズ−INDEX] ■■■ 日本の基底文化を考える [2018.7.30] ■■■ 鳥崇拝時代のノスタルジー[20] −換羽鳥− 雁と違って、鴨の仲間については、細かく分別がされている。昔から細かな観察が進んでいる。水に浮かんでいるから、じっくり眺めることができたせいもあろう。海人として、親近感を覚えたことも大きそう。 この2種の違いであるが、大きな鳥である雁系は草食に徹しているが、鴨系は雑食と言うか動物を好む種が多い。肉食系的体質とは良く言ったもので、鴨系は換羽にえらく熱心であり、♂は婚姻色でのプリゼンテーションに精力を使う。これに対して、雁系はいたって淡泊で、換羽を徐々に進めるのが普通で、多くて年1回どまり。当然ながら、雌雄は見た目にもたいした違いがない。 男は精いっぱい頑張って、歌で女の気を引く社会だったから、当然ながら、両者への関心の度合いは違ってくる。 「枕草子」"鳥は"でも、鴨は、当然ながらあげられることになる。 鴨は羽の霜うち払ふらむと思ふにをかし 番で一緒に過ごしている鳥だから、霜を打ち払うのは異性ということになる。そこが嬉しいのだと思う。 尚、鴨系とは広範には雁まで包含することにもなるが、以下のような種の集まりと考えるのがわかりやすい。もちろん、この他にも○○鴨は存在する。 [狭義]《鴨》カモ…かも [KEY] ⎐水面採取鴨 ⎏潜水採取鴨 山鴨ヤマガモ@南米 埃及雁エジプトガン@アフリカ 筑紫鴨/花鴨ツクシガモ@北九州のみに渡来⎐ 秋沙アイサMerginae⎏…あきさ 川秋沙カワアイサ⎏ 海秋沙ウミアイサ⎏ 高麗秋沙コウライアイサ⎏ 巫女秋沙ミコアイサ⎏ 氷鴨コオリガモ⎏…ながひき 晨鴨シノリガモ⎏ 鴛鴦/鸂鶒オシドリ⎐…をし [→ −愛の鳥−] 羽白ハジロ⎏ 鈴鴨スズガモ⎏ 金黒羽白キンクロハジロ⎏ 喉白鴨ノドジロガモ@南米 舟鴨フナガモ@フォークランド諸島 巴鴨/䳑鴨トモエガモ⎐…あぢ(味) 縞味(白眉鴨)シマアジ⎐ 嘴広鴨ハシビロガモ⎐…あしかも 真鴨マガモ⎐ 緋鳥鴨ヒドリガモ⎐ 葦鴨ヨシガモ⎐ 尾長鴨/尖鴨オナガガモ⎐…をがも *家鴨アヒル 軽鴨/夏鴨カルガモ⎐…かる(本来的には夏鴨は留鳥) 小鴨コガモ⎐…たかべ 「萬葉集」から歌を引いておこう。 ほとんどの鴨は広義の名称と考えた方がよさそう。繁殖期真鴨♂の特徴的な青色が想定できる場合は別だが。 ▼藤原の宮営りに役てる民のよめる歌 [巻一#50] やすみしし 我が大君 高ひかる 日の皇子・・・身もたな知らに 鴨じもの 水に浮き居て 吾が作る・・・ ▼慶雲三年丙午、難波の宮に幸せる時の歌 [巻一#64] 葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ 右の一首は、志貴皇子。 ▼鴨君足人が香具山の歌一首、また短歌 [巻三#257] 天降りつく 天の香具山 霞立つ 春に至れば 松風に 池波立ちて 桜花 木晩茂に 沖辺には 鴨妻呼ばひ 辺つ方に あぢ群騒き ももしきの 大宮人の 退り出て 遊ぶ船には 楫棹も なくて寂しも 漕ぐ人なしに ▼或ル本ノ歌ニ云ク [巻三#260] 天降りつく 神の香具山・・・池波立ち 辺つ方は あぢ群騒き 沖辺には 鴨妻呼ばひ ももしきの・・・ ▼湯原王の芳野にてよみたまへる歌一首 [巻三#375] 吉野なる 夏実の川の 川淀に 鴨ぞ鳴くなる 山蔭にして ▼紀皇女の御歌一首 [巻三#390] 軽の池の 浦廻廻る 鴨すらも 玉藻の上に 独り寝なくに ▼大津皇子の被死はえたまへる時、磐余の池の陂にて流涕みよみませる御歌一首 [巻三#416] つぬさはふ 磐余の池に 鳴く鴨を 今日のみ見てや 雲隠りなむ 右、藤原宮、朱鳥元年冬十月。 ▼又家持がよめる歌一首、また短歌 [巻三#466] 我が屋戸に 花ぞ咲きたるそ を見れど 心もゆかず 愛しきやし 妹がありせば 御鴨なす 二人並び居 手折りても 見せましものを・・・ ▼丹波大女娘子が歌三首 [巻四#711] 鴨鳥の 遊ぶこの池に 木の葉散りて 浮かべる心 吾が思はなくに ▼天皇に献れる歌二首 [巻四#726] 外に居て 恋ひつつあらずは 君が家の 池に住むといふ 鴨にあらましを ▼覊旅 [巻七#1227] 礒に立ち 沖辺を見れば 海藻刈舟 海人榜ぎ出らし 鴨翔る見ゆ ▼笠女郎が大伴家持に贈れる歌一首 [巻八#1451] 水鳥の 鴨の羽色の 春山の おほつかなくも 思ほゆるかも ▼武藏の小埼の沼の鴨を見てよめる歌一首 [巻九#1744] 埼玉の 小埼の沼に 鴨ぞ羽霧る おのが尾に 降り置ける霜を 掃ふとにあらし ▼寄物陳思 [巻十一#2720] 水鳥の 鴨の棲む池の 下樋無み いぶせき君を 今日見つるかも ▼物陳思 [巻十一#2806] 我妹子に 恋ふれにかあらむ 沖に棲む 鴨の浮寝の 安けくもなし ▼寄物陳思 [巻十二#3017] あしひきの 山川水の 音に出でず 人の子ゆゑに 恋ひわたるかも(青頭鶏) ▼寄物陳思 [巻十二#3090,3091] 葦辺行く鴨の羽音の 音のみを 聞きつつもとな 恋ひわたるかも 鴨すらも おのが妻どち あさりして 後るる間に 恋ふといふものを ▼ [巻十四#3524,3525,3527] まを薦の 節の間近くて 逢はなへば 沖つ真鴨の 嘆きぞ我がする 水久君野に 鴨の這ほのす 子ろが上に 言緒ろ延へて いまだ寝なふも 沖に住も 小鴨のもころ 八尺鳥 息づく妹を置きて来のかも ▼ [巻十四#3570] 葦の葉に 夕霧立ちて 鴨が音の 寒き夕し 汝をば偲はむ ▼古き挽歌一首、また短歌 [巻十五#3625] 夕されば 葦辺に騒き 明け来れば 沖になづさふ 鴨すらも 妻とたぐひて 我が尾には 霜な降りそと・・・ ▼豊前国下毛郡分間の浦に到着きぬ。ここに艱難を追ひ怛みて、よめる歌八首 [巻十五#3649] 鴨じもの 浮寝をすれば 蜷の腸か 黒き髪に 露ぞ置きにける ▼筑前國志賀白水郎歌十首 [巻十六#3866,3867] 沖つ鳥 鴨とふ船の 帰り来ば 也良の崎守 早く告げこそ 沖つ鳥 鴨とふ船は 也良の崎 廻みて榜ぎ来と 聞こえ来ぬかも ▼ [巻二十#4494] 水鳥の 鴨の羽の色の 青馬を 今日見る人は 限りなしといふ (Wikisource 万葉集 鹿持雅澄訓訂 1891年) 本シリーズ−INDEX> 超日本語大研究−INDEX> 表紙> (C) 2018 RandDManagement.com |