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■■■ ジャータカを知る [2019.4.26] ■■■
[47] 鷲鷹・隼
昼行性猛禽類はえらく目立つ。いかにも鳥社会の頂点に立っている雰囲気を感じさせるからだろう。

猛禽類と言っても、大きさの違いだけでもかなりのバラエテエィがある。しかし、それが種の違いなのか、成長段階を示しているのか、はたまた周囲の環境要件によるものか、といった判断は相当に難しい。成長によって羽の色が変わることが多いし、全く同じ種でも場所や季節によって目立たなくするためか色がかなり異なるからだ。唐代の書「酉陽雑俎」に至ってはこうした鷹の薀蓄だけで1章丸々あてているほど。
従って、鷲・鷹類の通俗分類はほとんど当てにならない。大きければ鷲で、小振りなら鷹という言い方さえ、ほとんど通用しないのである。
但し、小振りになると、判別できる種が増える。と言うか、鷲・鷹とは言えそうにないほどの違いを、ほんの一瞬の動きから感じさせるのだ。もっとも、鳥に興味のない人にはわからぬかも。
隼はそんな種。(分岐分類上でもかなり離れている。)

そんなことを考えて、ジャータカにおける猛禽類の描き方を見ると、他の鳥ほど観察していなかったように思える。インドでは猛禽類を飼うことを嫌う人が多かったのだろうか。

大雑把に見ればインド辺りの代表的猛禽類こんなところか。
《鷲鷹系》
  ●鳶Black Kite/黒鳶
  ▲白頭鳶Brahminy kite@東南アジア
  ▲白腹海鷲White bellied sea eagle@東南アジア海岸部
  ●冠鷲Crested serpent eagle/大冠鷲
  ●灰鷹Euracian sparrowhawk/雀鷹
  ●草原鷲Steppe eagle/草原G…渡鳥
  ●鮫色犬鷲Tawny eagle/草原G
  ●高砂鷹Shikra/褐耳鷹
  ●目白差羽White-eyed buzzard/白眼
  ●蜂熊Crested honey buzzard/風頭蜂鷹…渡鳥
  ●替熊鷹Crested hawk-eagle/鳳頭鷹G
《隼系》
  ●隼Peregrine Falcon/遊隼
  ●ラナー隼Lanner falcon/草原隼
  ●稚児隼Eurasian hobby/燕隼
  ●長元坊"common" Kestrel/紅隼

鷲鷹類のジャータカと言えば、母虎に身を捧げる話に次いで有名な仏教説話が思い浮かぶ。
"シビ王の捨身"Sibi Jataka/尸毘本生譚だ。

ここで言う「ジャータカ」とは"本生譚"と言う、釈尊前世小話という語彙としての意味なので、そこらは留意が必要。
本シリーズで取り上げているのはあくまでも南伝本の書名「ジャータカ」で、北伝の別書や経典にバラバラ収載されている散逸本生譚「ジャータカ」は含めていない。
「古事記」と「日本書紀」をゴチャ混ぜにして読みたい人は別だが、古代インドの感覚を知りたいなら、先ずは南伝本「ジャータカ」での記述を読むべきだと思う。編纂者の意図や感覚が伝わってくる可能性が高いからだ。

一番よく知られていると思われる話はおそらく「マハーバーラタ」収載話。・・・
鷹に追いかけられ逃げ込んで来た鳩を助けようとするシビ王Śibi/尸毘のくだり。
自分の肉を切って鷹に与えても鳩を救おうと、尋常ならざると言うか、並外れた対応をする。そのため、王の真意を試した帝釈天が"感動"する訳である。

投身餓虎-捨身飼虎に似た点もあるが、そちられは釈尊の菩薩行であり、コレとは題材が違う。シビ王の場合、何を目指した"功徳"かがはっきりしていない点には注意が必要だろう。「酉陽雑俎」の著者的な発想だと間違いなくそれが気になってくる筈。表だって口にすべきことではない訳だが。
と言うか、自分の肉を切って鷹に食わせた後のオプションは大きくは3つ考えられるが、そのどれになるのか興味をそそられるのだ。ホホウ〜、シビ王とはそういう位置付けかとなるのである。
 1 死んで転生。
 2 すぐに元通りになる。
 3 帝釈天が治癒の手配をする。


日本では、鳩と同じ重さの肉を鷹に布施することにしたが、天秤で測るとそれは王の全身だったとの話が紹介されることが多いようだ。多分、命の目方は皆同じという説教用。こちらの出典は、紹コ 慧詢[訳]:「菩薩本生鬘論」卷第一"尸毘王救鴿命縁起第二"(言うまでもないが、冒頭譚は有名な"投身飼虎縁起第一"。こちらも南伝パーリ語「ジャータカ」には収録されていない。[→虎] 全訳漢籍は現存しない。)

これに該当する南伝のシビ王譚には動物は登場してこない。[#499]
尸毘王はバラモン僧のために両眼を布施。(モノの布施では満足できなくなったからである。)その僧とは、王の真意を探ろうとした帝釈天。結局のところ両眼を元に戻してあげるのだ。

ジャータカでの昼行性猛禽類の記述は少ない。・・・

[#427]自らの力を過信して、父の忠告を聞き入れなかった一羽の鷹が、強風にあおられ、命を落してしまう。
[#486]動物達が全力を出し、鷹の雛を狙う猟師を撃退。
[#164]鷲達は、命を助けてもらったお礼に豪商に恩返ししようとする。
[#168]これは隼。すでに取り上げた。[→鶉]

鷹を鳥の王と見なすのは自然な姿勢だが、そのイメージは余りよくないのかも。九曜ナヴァグラハNavagrahaでは、鷹はケートゥKetú/計都[月の降交点]に当てられているからだ。
現代人から見ると、死体に頭を突っ込んで内臓をほじくり喰う禿鷹・禿鷲の姿は"凄惨"に映るが、ある意味、それは清掃役であるが、鷹・鷲は若い鳥を追いかけ回して捕獲し、食い散らかすだけとも映る訳で。

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