→INDEX ■■■ ジャータカを知る [2019.5.13] ■■■ [64] 鯨 (海棲動物なので漢訳は参考にしていない。) [#360]須遜第妃譚[→金翅鳥]の話のなかで次のような事件が記載されているからだ。 《王妃探索を命じられた音楽師が乗船中に商人にせがまれて奏楽。海で聞いていて酔ったモンスター魚が飛び跳ねて、船はバラバラに。》 これはどう考えても鯨以外の何モノでもなかろう。 ジャータカ登場の動物の描き方を見ればわかるように、豊富な知識とその概念的把握力は傑出したものがあり、鯨を知らない訳がないからだ。おそらく、なんらかの理由で後世の編纂者は「鯨」という言葉を使わなかったのである。 そう思うのは、唐代の書「酉陽雑俎」で天竺来訪の僧侶から鯨らしき潮を吹く生物の話を聴いたとなっているからでもある。[→井魚] 実際に鯨を見たことがある人は限られていたようだが、その話は広く伝わっていた筈。 鯨類が魚とは言い難いことはよく知っていたのである。潮を吹く穴がある訳で、それは息を意味していることも理解していた可能性は高い。育児動物であることを知らない訳もなく、身体の構造も魚のように尾鰭が垂直方向ではないから、海棲で流線形の体躯からすれば大型魚と言わざるを得ないが異端そのもので、モンスターと見なして当然である。 現代の分岐分類では、海棲の鯨類とは、【アフリカ大陸由来哺乳類】的なカテゴリーに属し、象の遠戚に当たるが、そのような概念を持ち合わせているとは思えぬものの、「鯨類」的な見方はしていたのではなかろうか。 海棲鯨類のインド的代表種はこんなところ。 ●ジュゴンDugong/儒艮@紅海〜インド洋〜西太平洋 --- ●長須鯨Fin whale/長鬚鯨[⇔21m] ●白長須鯨Blue whale/藍鯨[⇔25m] ●似鯨[ニタリクジラ]Tropical Whale or Bryde's whale/布氏鯨 上記のモンスター魚は白長須鯨だと思うが、それとは大きく違うジュゴンや似鯨もジャータカ譚のどこかに登場していると考えるのが自然。 言うまでもないが、これらは、どの本にも必ずと言ってよいほど説明がされている【怪魚】マカラMakara/摩伽羅 or 摩竭魚ではない。非海人の人達は、鯨族を独立させず、モンスター魚すべてを一緒にしてしまいたかっただけのこと。 本来、南伝仏教は海人によって伝播されたものであり、その最古の経典として釈尊が詠んだ詩篇をパーリ語で復活編纂させた書がジャータカなのだから、本来的には正確な呼び名だった筈。 →ジャータカ一覧(登場動物) (C) 2019 RandDManagement.com →HOME |