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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.1.24] ■■■
[208] 普賢菩薩
普賢菩薩による除難譚は、観音菩薩であってもよさそうに思うが、人々に広く尊ばれていた時代があったのだろう。学僧はもっぱら智慧の文殊菩薩崇拝で、慈悲の面では普賢菩薩ということだったのかも。往生祈願一途の時代以前と思われる。

法華経持経・読誦の功徳譚だが、普賢菩薩による除難譚となっている話がある。
  【本朝仏法部】巻十三本朝 付仏法(法華経持経・読誦の功徳)
  [巻十三#20]石山好尊聖人誦法花経免難語
 好尊聖人は【近江】《石山寺@大津》に住しており、
 若くして法華経を習い、日夜読誦。真言を受習。法を断たなかった。
 ある時、丹波に下向し
 罹病したので、歩けなくなった。
 しかたなく馬を借りて石山に返ったのだが、
 途中、祇園で宿泊。
 そこに男が現れ、先年、盗まれた馬だという。
 捜し廻っても発見出来なかったが、
 ようやくにして見つけたと言い、馬を取り上げたてしまう。
 好尊は、馬盗人の法師とみなされ、捕縛去れた上に打ち叩かれた。
 夜は柱に縛りつけられたのである。
 事情を詳述すれども、全く聞き入れないのである。
 これは、前世の因果と考え、涙を流して悲しみ嘆いた。
 その夜のこと。
 祇園に住む老僧3人が同じ夢を見た。
  好尊を縛りつけている男の家で、
  
普賢菩薩を縛って責め叩き、柱に縛りつけてていた。
 夢から覚めた僧達は、驚き怪しみ急行。
 好尊は解き放たれ、事情を聴いてもらって
 馬で去ることができた。
 その翌朝、
 京から馬盗人を追う沢山の人達がやって来た。
 件の男も、盗人を捕らえようと思って家から出たてきたが
 丁度、逃げている盗人に矢が射かけられた時で、
 それが当たってしまい死んでしまった。
 法華経の持経者を捕縛し責め叩いた報いと見なされた。


  【本朝仏法部】巻二十本朝 付仏法(天狗・狐・蛇 冥界の往還 因果応報)
  [巻二十#13]愛宕護山聖人被謀野猪語 [→野猪]

  【本朝仏法部】巻十二本朝 付仏法(斎会の縁起/功徳 仏像・仏典の功徳)
  [巻十二#34]書写山性空聖人語 [→性空聖人]

  【本朝仏法部】巻十四本朝 付仏法(法華経の霊験譚)
  [巻十四#16]元興寺僧蓮尊持法花知前生報語 [→前生蟋蟀の僧]

典型譚の収載先は、もちろん巻十七である。3譚連続。
特に、法華経の文句を記載している譚は、仏教説話的色彩濃厚感をアピールしていると見てよいだろう。
  【本朝仏法部】巻十七本朝 付仏法(地蔵菩薩霊験譚+諸菩薩/諸天霊験譚)
  [巻十七#39]西石蔵仙久知普賢化身
 仙久は【京 西山】《西岩蔵の山寺》に住する持経者。
 法華経を日夜読誦。
 もともとの寺では法文を学んでいたので、それも続けていた。
 房の傍に、草庵を建造。
 法華八曼陀羅を懸け、八香印を焼いて法を行っていた。
 ところが、ある時、人々の夢に
 「もし普賢菩薩を見たいなら、
  西岩蔵の山寺に住む仙久聖人に会え。
  普賢菩薩の化身であるから
  お近づきになるように。」
 とのお告げがあった。
 これが聞き継がれ、
 結縁のために、全国から沢山の人々が訪ねて来た。
 この後、年老いて心乱れず入滅。


  [巻十七#40]僧光空依普賢助存命語
 光空は【近江】の山寺《金勝寺》に住する持経者。
 法華経を日夜読誦。
 その声は素敵で、聞く人は貴ばすにはられないほど。
 この国に兵平介という哀れむ心がない猛き男がいた。
 朝に、山野で鹿鳥狩猟。夕は、江河で魚貝捕獲の生活。
 しかし、光空の読誦の声を聞く時は、悲しみ貴ぶのであった。
 そこで、自宅に迎えてお経を読ませていた。
 そんなことで、兵平介は帰依していた。
 ところが、
 従者が、兵平介の若い妻と光空が密通していると告げ口。
 怒り怒り心頭になり、真否を確かめることもせずに
 山寺へ行くと称し光空を連れだして殺害を図る。
 ところが、いくら弓矢を射ても、光空に当たらない。
 光空は
 無実なのに命を失いそうになり
 声を挙げて法華経を誦していたのである。

  「於此命終 即往生安楽世界 阿弥陀仏
   大伝薩衆 囲遶住所 青蓮花中 宝座之上」

 これは護法のせいということで、
 兵平介、泣いて咎を懺悔。
 2〜3日後、光空は世を厭てその家から去った。
 その日の夢に普賢菩薩が現れ、
 兵平介のもとを去ると告げられたのである。


  [巻十七#41]僧真遠依普賢助遁難語
 【比叡山】《西塔》の貞遠は三河出身。
 幼くして出家。
 受戒後、師に随い法華経受習し、昼夜読誦。
 暗誦できるようになり、ものすごく早口なので、
 普通の人が法華経1巻を読む間に、2〜3部を読誦。
 そのため、一日、30〜40部を読誦。
 さらに、真言の秘法を受習。日々、法を行う。
 身・口・意を調え、六根は清浄そのもの。
 年を経て比叡山を下り、三河に戻ることに。
 先祖の堂があるので、そこに籠って静に、
 後世のための勤めを行おうと考えたのである。
 所用があり、騎乗で下って行った。
 その途中、舘から出て来た国司と出会った。
 しかし、馬から降りなかったので、
 無礼と見なされ、館に連行の上、厩に入れられ
 痛めつけられた。
 貞遠は前世の悪行の報いと考え、心を込めて法華経を誦していた。
 その夜のこと、
 国司の夢に、厩に普賢菩薩像が置かれる様がでてきた。
 そして、別な普賢菩薩がその捕えられ痛められている菩薩を訪問。
 そこで目が覚めたのである。
 国司はただちに解放し、
 清浄な畳に座して頂いたのである。
 そして、聖人のことを知り、
 驚くと共に、謝ったのである。
 そして、国司は貞遠に帰依し
 自分の館に招き入れ、
 食事や着物を供養。


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