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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.4.27] ■■■
[302] 瘤牛の力
🐄牛讃歌で闘牛に勝ち富裕になる話が収録されている。
  【天竺部】巻四天竺 付仏後(釈迦入滅後の仏弟子活動)
  [巻四#33]天竺長者婆羅門牛突語
長者 v.s. 婆羅門の闘牛話で、飼っている牛を褒めると大いに力を発揮して掛け金をせしめたというストーリー。

そもそも、賭け事であるし、どう見ても仏法僧に無関係な風情の話。それこそ、【本朝世俗部】に翻案してもよさそう。
逆に言えば、聖牛観が強い天竺ということで収録したとも言えそう。しかも、注意深く、仏教を示唆する言葉をすべて取り去っている。
もちろん、ご教訓も、戒めではない。
  万の事讃るに随て、単花開て、功徳を得る

と言っても、仏教と無縁なストーリーという訳ではない。ジャータカには觀喜滿譚[#28]があるからだ。
   [→「ジャータカを知る」"瘤牛"(2019.4.7)]

「今昔物語集」ではこのように描かれている。・・・
 長者と婆羅門が千両を賭け闘牛。
 日程を決め、各々が一頭を出場させ眺める競技で
 大勢の見物人も集まるイベント。
 闘いの前に、長者は
 「我が牛は弱い。角・面・頸・尻に、皆、無力の相がある。」と。
 牛はそれを聞いて意気消沈し敗戦を覚悟。
 実際、闘いの結果はその通りに。
 長者は千両を婆羅門に支払うことに。
 そこで、長者は帰宅後に、
 頼り甲斐なく、全くなさけない、と牛に恨み言。
 牛はこれに応え、
 「今日の敗戦理由は、"弱い"と言われたから。
  その言葉を聞き、魂が失せてしまい
  力を出すことができなかったから。
  お金を取り戻そうと思うなら、
  褒めてから、再度、闘わせてみて下さいまし。」と。
 長者はそれに従い婆羅門に声を掛けた。
 婆羅門は、賭け金を上げて三千両でと言うので、
 長者も受けて立つことに。
 長者は牛に言われた通り、ベタ褒め。
 結果、婆羅門の牛は敗れ、三千両の金を支払う破目に。


小生が思うに、この譚は、本朝世俗部に対応するか如き、天竺世俗譚という訳ではない。

後譚[→兄弟殺意]Xは紛れもなき仏教説話そのものであり仏法部と。そらにその手の話が続いているから、構成上、ここで途切れるようにしている。

一方、前譚は医薬信心というか、それこそプラセボを彷彿させる話。しかも、天竺部なのに、震旦の話を収録しており、滅茶苦茶な編纂に映るが、考慮の上、どうしても入れ込みたかったものだと思う。
  [巻四#32]震旦国王前阿竭陀薬来語 [→童膏盲に入る]

「酉陽雑俎」を読むと、医薬を重視すべきとの強い主張を感じる訳だが、それは天竺渡来仏僧や薬草採取名人の道士の豊富な知識に触れたからであるが、慧眼なのはそこではなく、医師の病診断力の高さに着目している点。
仏僧は信仰上の心の診断は卓越しているし、疫祓いの力はあっても、身体がどのように不調なのかを検診する能力を磨いていないので、医師をもっと重視すべきだとの考え方なのである。
牛讃が、絶大な力を発揮することも、別にこのような話を耳にして初めて気付く訳でなく、"豚もおだてりゃ木に登る"的な現象を、インテリが知らない訳もなかろう。医薬でいえばプラセボ降下である。

そんなことを考えると、この前譚の蛇毒治癒話もこれに絡んでいると見ることができよう。
つまり、この連続3話(#29-31)は、仏法が広がることで、人々も現実を見据えることができるようになってきたことを示しているということ。
  [巻四#31]天竺国王服乳成嗔擬殺耆婆語
 捻くれ者で、寝てばかりいる国王がいた。
 大臣や公卿はこれは病と断じ、位の高い医師を招請。
 医師は「これは病。速やかに乳を与えるべし。」との診断。
 献上された乳を服薬すると、国王は憤怒。
 「これは薬ではなく毒だ。」と言い
 医師は斬首。
 国王の症状は酷くなる一方で、眠ってばかり。
 さらに、尊い医師が招請され、
 母后に尋ねた。
 「王がお生まれになった時、なにかございませんでしたか?」と。
 すると、母后は
 「夢で、大蛇に犯された時に妊娠致しました。」
 医師は、王は蛇の子か。眠ってばかりいる筈だ、とわかった。
 そうなると薬は乳以外にあり得ないので、服用頂くしかあるまいと
 考えては見たが、乳を処方した医師は殺されて来た。
 そこで、他の薬と乳を混ぜ、非乳の薬と言って服用してもらった。
 国王は服用すると、乳の気を感じ、激怒し、医師捕縛を命じた。
 家来は早速捕縛に向かったが、
 そんなこともあろうと、医師は、すでに速い馬で逃亡していた。
 国王は、追って捕縛せよと命令したので
 3日後には家来に捕まってしまった。
 国王はまだ治癒していないかもしれず
 家来に連れていかれると、死罪間違いなしだが、
 まったく意味のないこと。
 そこで、家来に猛毒の草を食べさせる計略を実行。
 自分だけ解毒薬を飲み、全員で毒を食べる算段である。
 上首尾にことが運び、医師は王城内で隠れて居たが、
 そのうちに国王の病気が処方した薬のお蔭で治癒。
 国王は大いに喜び、その医師を召して勅禄と官位を与えた。
 世人も、医師を誉めそやしたと。
 以後、国王に乳を奉るように。
 この国王は竜の子と語り伝えられている。


この話にも、周到に仕掛けが施されている。
この王は前生は蛇とされたが、世人は蛇でなく竜に代替。

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