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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.4.29] ■■■
[304] 天竺の法花経霊験
天竺部(巻一〜五)の譚題に法華経の名称が使われているのは、わずか1つ。ただ、巻四のお話の中にはチラホラ出てくるので、見ておこう。
  【天竺部】巻四天竺 付仏後(釈迦入滅後の仏弟子活動)

《髑髏耳穴貫通紐》
  [巻四#30]天竺婆羅門貫死人頭売語 [→天竺髑髏供養塔]
 「法花経を聞ける人の耳の穴に、緒を貫かざる也」
【譚末要約】
婆羅門の願を満てむが為に、用無しと云へども、頭を買取て、塔を起てて、頭を籠めて、供養するを、天人も歓喜して、降て礼拝する也けり


《酔象聞経》
  [巻四#18]天竺国王以酔象令殺罪人語
 王法を犯す不善の輩に対して、酔った大象を放ち、
 勝手に踏み殺させる刑に処す国王がいた。
 罪人は生き残ることができなかった。
 それを耳にしている隣りの敵国も、
 決して襲うことはなかった
 ある時、象の厩舎が焼失してしまった。
 再建する迄の間、暫くだが、この象を僧房に繋いでいた。
 その僧房では、僧が常に法華経を読誦していたので、
 一晩中、象はお経を聞いていた。
 その翌日のこと。
 象は極めて大人しくしておりおとなしくしていた。
 そこに、大勢の罪人が連行されて来た。
 象は酔わされてから、
 何時もと同じように罪人に向けて放された。
 ところが、象は罪人に這い寄り、
 その踵を舐めるだけ。
 一人たりとも殺傷しなかった。
 それを見た大王は大変に驚き怪しんだ。
 大王:「我が憑む所は、此れ汝ぢ也。
     然れば、国の内に罪人少く、
     隣国の敵人来たらず。
     若し、此の象、此の如き有らば、
     何を以てか彼の依怙と為む。」
 智臣:「此の象は、今夜、何なる所にか繋げる。
     若し、僧房の辺にや有つる?」
 人:「然か有つ。」
 智臣:「然れば、此の象は、
     今夜、僧房にして比丘の経誦するを聞て、
     慈心を成して、人を害せざる也。
     速に屠の辺に遣て、一夜を経て試すべし。」
 それに従い、大象を屠殺場の辺に遣り、
 一夜経ってから罪人に向かわせると、
 歯を噛み口を開け、疾走し、踏み殺し尽くした。
 そして、国王は限り無く喜んだのである。

【譚末ご教訓】
畜生そら法を聞て、悪心を止て、善心を発す事此の如し。何況や、心有らむ人、法を聞て貴ばむに、悪心は必ず止なむ。

【出典】吉迦夜&曇曜[(譯)]:「付法蔵因縁傳(付法蔵経)」472年帳字函第三巻

《天井鼠聞経》
  [巻四#19]天竺僧房天井鼠聞経得益語 [→五百羅漢]
  ⇒非濁[n.a.-1063年][撰述]:「三寶感應要略」中13 賓國鼠聞誦律藏得阿羅漢感應
 房の天井の上に五百の老鼠有て、
 日々夜々に此の法花経を聞き奉り、数の年を経たり。

【譚末ご教訓】
経を聞き奉て、道を得る事も有る也。


《摘眼女人》
  [巻四#22]波羅奈国人抉妻眼語
 波羅奈国の夫婦だが、
 夫は、邪見で仏法を信じない。
 妻は、常日頃、仏法を信じていた。
 しかし、夫の心に従い、仏事を勤めることはせず。
 ところが、一人の比丘に出会い、
 密かに法華経10行余りを読み習った。
 夫は、その噂を耳にしたようで。
 夫:「汝、経典を読み習へり。
    極て貴し。」
 と捨て台詞を遺して出て行った。
 妻が恐怖で怯えていると、夫はすぐに還ってきた。
 夫:「我れ、道を行つるに、
    極て若く盛にて端正美麗なる女、死て臥りつ。
    其の目、極て善かりつれば、
    抉り取て、爰に持来たり。
    汝が目の、極て愛無く醜きに、
    抜き代へむ。」
 妻:「眼をば抜き取れなば、
    命存すべからず。」
 限り無く泣き悲しむ。
 乳母;「然れば、"此の経読給ふべからず。"と教へ奉りしを、
     聞給はずして、
     終に身を徒に成し給ぬる。」
 こちらも泣く。
 妻:「此の身は無常の身也。
    惜むと云とも、終には死なむとす。
    徒に朽損ぜむよりは、如かじ、法の為に死なむ。」
 そして、共に泣く。
 客殿にいる夫が荒々しい声で妻を呼んだ。
 妻は逃れる方策などないが
 我は今すぐ死んでしまうと思いながら歩み行く。
 夫は妻を捕まえ、膝の上に曳き臥せ、
 眼を抉り取り、
 身体を大路に曳き捨てた。
 近所の人は、これを見て哀れみ敷物を与えた。
 そこで、道辻にそれを敷いて臥したのである。
 眼は無いものの、寿命はまだなので、
 そんな風にして30日が過ぎて行った。
 そこに、比丘が来て訊ねた。
 比丘:「汝は誰人ぞ。
     何ぞ眼無くして臥たる、」
 事の子細を話しを聞いた比丘は哀れに思い、
 山寺に連れて上って90日間養育した。
 この盲女、夏の終わる時、夢を見た。
 《我が読奉る所の"妙法"の二字、
  日月と成て、
  空より下りて、我が二の眼に入る。》
 夢から覚め、驚いて見ると、
 上は欲界六天の様々な素晴らしい楽しみをが
 掌の内を見るように。明らかに見えた。
 下は、閻浮提より20,000由繕那が見通せ、
 等活・黒縄・無間地獄の底が、
 懸けた鏡の情景のように明らかに見えた。
 女人は喜んで、師の比丘にこの事を語った。
 女人:「夢に見つる事、此の如し。」
 比丘は、それを聞いて、喜び悲むこと限りなし。

【譚末ご教訓】
既に法華経十余行の威力に依て、天眼を得たる事、此の如し。何況や、心を至して、一部を常に誦せむ人の功徳、量り無し。

【出典】
  寶唱[撰]:「經律異相」巻四十四(男庶人部上)  婦人鼻醜夫割他好者以易之一(十五)
昔有一人。見他婦鼻端正。心自念言。我婦面貌第一。唯恨鼻醜。今取此鼻代我婦鼻。即引女屏處。割鼻將還。又割其婦鼻安此女鼻。彼此失鼻兩不相著。衆人怪罵真大癡狂(出百句譬經第一卷)。


《貧女捨髮書写供養》
  【天竺部】巻四天竺 付仏後(釈迦入滅後の仏弟子活動)
  [巻四#40]天竺貧女書写法花経 [→捨髮供養]
【譚末ご教訓】
法花の験力の新たなる事、此の如し。


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